古龍武侠小説の部屋

 金庸の武侠小説に呼応する形で、小学館から古龍氏の武侠小説も刊行され始めた。有り難い事である。更にエニックスから白玉老虎が「聖白虎伝」なる名前で刊行、学研から『歓楽英雄』も刊行された。しかし…あの絵はどうにかしてくれえ。最近になって気付いたのだが、金庸の武侠小説が発刊されている時は古龍の作品が発売されず、古龍の作品が発刊されている間は逆に金庸の作品が出ない。何か大きな陰謀でも働いているのではなかろうか。
 この古龍の刊行作品の訳では、金庸の作品と対照的に口語表現がやたらと出てくる。例えば主人公の言葉がどうもやる気が無さげな語尾を延ばす口語体で書かれている事がそれにあたる。それが良いかどうかは読者に委ねられるのだろうが、作品のムードは良いのだから訳に変な色気は出さない方が良いと私は思うのである。

古龍氏の経歴:
 本名熊耀華。1937〜1985年。香港生まれだが13歳で台湾に移住、以後病死するまで台湾を拠点に活動した為台湾の作家として扱われている。60年代に生活苦から武侠小説を書き始め作品を多産、金庸・梁羽生と並び新派武侠御三家の地位を築いた。

 現在刊行されているのは『楚留香 蝙蝠伝奇』『陸小鳳伝奇』『聖白虎伝』『辺城浪子』『歓楽英雄』。『多情剣客無情剣』『流星・胡蝶・剣』の刊行が待たれる。氏の作品の全体的な特徴は時代設定が特に存在していない事とミステリー仕立てのストーリー展開、主人公が人格、強さにおいて既に完成されているという事だろう。つまり成長性がない。という事で話の展開は自然とハードボイルドな陰を帯びてくる。このハードさは気持ちが良いが、ストーリーはかなりの力技で、『何でやねん!』と突っ込みを入れたくなる事もまあ、ある。しかし、作品のキャラクターが非常にアクが強い連中で構成されている為に、其れだけで勝手に話が進んでしまうのだろう。いうならば『北斗の拳』を読んでいて突っ込みを入れるところは多々あるが、それで作品が詰らないかと言えばそうではないのと同じ事である。だからどうかは知らないが小学館刊行の作品の名前の上には「アジア・ハードボイルド」、エニックスのには「アジアン・ラストヒーロー」なる奇妙な枕詞が乗っかっている。氏の作品の概要に付いては賓陽舎刊行の「武侠小説 岡崎由美が語る香港映画原作の世界」に詳しく解説されているのでそちらを参考にするのがお薦めである。

作品紹介

『楚留香』『陸小鳳伝奇』『聖白虎伝』
『辺城浪子』『歓楽英雄』『多情剣客無情剣』

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