お気に入り辛暁琪の曲

お気に入り辛暁琪〔Winnie Xin〕の歌曲

　失恋情歌の女王。…と書いてしまうと身も蓋もないが、後ろ向きな、失恋して泣き崩れる女のイメージの歌を歌わせて彼女に勝てる女性歌手はいない。彼女はそれだけ恋愛について重い過去を背負っている（結婚直前に男を別の女に取られた）。その歌声は柔らかく、優しく、亦、悲しい。王菲とも、鄭秀文とも違うベクトルに存在すると言っても良い。余りに情が強過ぎるのだ。怨念すら感じる位に。男としての率直な意見だが、彼女の一連の怒歌や情歌の中に出てくる女は絶対に嵌る。実際にそんな女が居たら手を伸ばさずにはいられないだろうが、後後まで面倒を見なかったら恐ろしい結果になりそう、そんな感じがする。最近になって（アルバム「毎個女人」）その固定化されたイメージは払拭されつつあるが、其れは彼女の心の傷が徐徐に癒されつつあると云う事の現れなのだろう。良いような、残念なような複雑な感覚である。今の所私が出れば即買い状態になっている女性歌手は何人か居るが（王菲、許美静、許茹芸、順子、張惠妹、梁詠琪、陳慧琳そして辛暁琪）、予約までしてCDを購入するのは彼女と許美静だけである。この二人は日本に相当隠れファンが居るらしく入手しにくい。いや、ほんと。日本において王菲ほどメジャーにはならないだろう現状ではあるものの、もっと一般の人に中国語歌謡が浸透すれば彼女の人気も顕在化するだろう。その為には英語のアルバムをもっと出して貰うしかないか…ああ、一般化の道は遠い。

普通話：

『領悟』（邦題:悟り。もっとマシな名前は付けられなかったんかい！）4:48

　同名アルバムの主題曲。彼女はこの歌で大ブレイクし失恋歌の女王の座を勝ち取った。余り嬉しくないだろうけれど。歌詞内容を理解していない時でさえ背筋に寒いものが走った記憶がある。歌詞の内容は男が逃げて…もとい去ってしまった後に、本来悪いのが男であるにも関わらず、それが出来ない程に相手を愛してしまった自分を、唯々納得させようとする女の悲しい足掻き。「もしも私たちの愛が間違いだったなら私も貴方も謂れのない苦しみを受けません様に　もしあの時真心の全てを擲っていたのなら　満足しなくちゃいけないわ　なんて辛いの　自分を納得させるのは！」この辺にくるとこっちまで泣きたくなる。「領悟」といえばビデオクリップで彼女が涙をぽろぽろ流す事で有名だが、あれは本人がインタビューで曰く本当に感極まって泣いてしまったのだそうだ。感受性の高い人間だとこの時点でどっぷりと彼女の歌の虜にされているはず。しかも、あのビデオクリップ、ストーリー仕立てで嫌が応にも「泣け、泣け泣け泣け。泣くんだジョー！」的なんだわ。画家志望か何かの男がモデルと深い仲になってしまい、どうしょうもなく別れて数年後、場末の日本料理屋で働く女性と出会った男。彼女の傍には赤子の姿が。飯を食った後、無言でその場を去る男。其れを黙って見送る女。また、このモデルが普通の子というのか地味な顔立ちの女性を使っている為に妙にリアルだ。『ひょっとするとこの子はこの男の子供かもしれない』という憶測まで出来てしまう。ああ、そうだとしたら余りに残酷な展開！男のボンクラ魂に火が付くってもんです。この歌のビデオクリップを見て心が動かない輩ははっきりいって爬虫類だ、アンソニー・ウォンだ、ロイ･チョンだ、ビリー･チョウだ！何書いてるんだ俺は。

『就讓我這樣ﾛ巴』4:41

　アルバム「女人何苦為難女人」に収録。前作「愛上他不只是我的錯」が個人的に滑った感じがしたせいもあり、このアルバムを聴き直す事が多いが、その中で一番のお気に入りがこの歌である。この歌が世に出て以来、彼女の歌の感じは変化してゆく事になり、ついにはアルバム「毎個女人」で完全に吹っ切れたサウンドをファンに披露する事になった(と信じておこう)。何と云ってもポジティブである。歌詞の内容も、曲の感じも明るいし、前進する、と云う割には変な気負いもなく自然に聞こえる。この曲を初めて聴いた時は「ああ、辛暁琪もこんな感じの歌を歌えるんだ」と只考えたに過ぎなかったが、考えてみれば確かに変化はこの曲から始まっている。明らかにこの曲は同アルバムの中で「浮いた」存在である。「人生なんてこんなものね　髪を解いて風に吹かれるままに　過ぎて行きつづける日々は毎日新たな感覚を与えてくれる　私は世界を受け容れられる　少し出鱈目でそれが喩え嘘であったとしても　同じ位優雅でしょう」こんな歌詞は彼女の歌ではついぞ見られなかった。似た事を云っていても『領悟』とはえらい違いである。

『怎麼』3:48 or 3:57

　10月末に発売された同名アルバムのタイトルチューン。このアルバムが流石唱片から発売された事に胸を撫で下ろしたファンの数は決して少なくはないだろうと推測される。それはつまり、この会社との契約が更新された事を意味するのだから。前作『毎個女人』が仰天するほど突っ走ったアルバムだった事もあるが、今回の印象は何かほっとするものを感じた。筆者本人が歌謡曲を愛好しているので尚更である。サウンドが新しかろうが古かろうが、私は口ずさめなければ歌は駄目であると言う観点（偏見とも云う）から、歌謡曲系の歌が多いこっちのアルバムのほうが遥かに耳障りが良かったのである。この歌はジョナサン・リー（李宗盛）と李正帆のプロデューサー二人の合作と言う事もあって、アルバムには歌が２テイク収録されている。歌の内容は突如として恋人に別れを告げられた女性が『何故別れなければならないの？』『何故貴方には私の願いが聴き入れられなかったの？』と自問する様が綴られている。私的には、李正帆プロデュースのバージョンのほうが好みだった。伸びやかな歌声が変に中断される事もなく頭の奥に響き渡る、そんな歌に仕上がっている。突然の失恋に自分でもどう反応して良いのか戸惑い、其れ故に自身に問い掛け、徐々に悲しみが募ってゆく、そんな歌である。

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