詠春〜Wing Chun〜

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飛天猩猩(徐少強飾)

領銜主演 楊紫瓊 甄子丹 徐少強 李子雄 他

粗筋(中文解説より):
 嚴詠春は平素から義侠心が強く、何時でも男装しその気質から人に一目置かれていた。ある時山賊の副統領・飛天猴子(日本語訳ではフライング・モンキー)が未亡人・艷娘を誘拐したので、詠春は火攻の策で賊に大打撃を与え、遂には飛天猴子を去勢してしまった。そこで山賊の統領・飛天猩猩[徐少強](日本語訳ではフライング・チンパンジー)は役立たずになった飛天猴子の仇を討たんと詠春に挑戦、一度目の対戦後、詠春に目をつけた彼はこのお転婆娘を何とか物にしようと彼女を自分の夫人にせんと脅迫?する。詠春と飛天猩猩との決戦が今始まる。…みたいな。

 邦題は「レディ・ファイター 詠春拳伝説」。徐少強が出ているから購入したVCDではあるが、如何せん主役はあくまでも領銜主演の二人な訳で。ドニー・イェンの数少ないコメディキャラクター(かどうかは見る人間にも依ると思うが。彼の演じるのは所謂チャウ・シンチー系の其れではなく天然が入った真面目青年。この辺りは新・流星胡蝶剣のドニーの演じたキャラクター・葉にも通じる物がある。彼はこう云う役が似合う。映画『バリスティック・キス』の主人公も基本的にはこの路線)が見物とか、楊紫瓊の詠春が美人とか、早い話が徐少強はこの作品においていつもの偏執狂じみたハカイダー系の悪役ではなく只管陽性、豪快な山賊集団の頭をにこにこしながら演じている。到底、物語前半で悪逆の限りをなさんとする連中(そうでなければ火攻めにはされないだろうて)の親分には見えない。この飛天猩猩、ミスキャストではなかろうかと見る都度そう思えて仕方がないが、割りと香港映画の好きな方には受けが良い様で、徐少強と言うとこちらの印象が強い人が多いのには正直驚いている。尤も、『妖刀斬首剣』はその古さの余りRV屋にも置かれていないから無理もないか。先に彼の演ずるハカイダー系の悪役を見て嵌った私の方がおかしいのかも知れない。飛天猩猩が使う武功は並の人間では扱えないほどの長槍(この時彼は『一寸長、一寸強』と叫ぶ。何かかっこいい。対する詠春は短い八掛刀を用い狭い小屋の中で槍の動きを封じ、対句として『一寸短、一寸険』と叫んで切り掛っている)と相手の一撃を腹で受け止め、そのまま腹筋の力で挟み込み相手を捕らえる『綿花肚』。一度はこの技で詠春を捉え、痛み分けに持って行く事が出来たが、他者の力を利用し自分の力を増幅させる秘訣を得た詠春に結局勝つ事は出来なかった。ここで彼は二度目の勝負の際に詠春と「自分(飛天猩猩)が勝ったら俺の嫁になる、お前(詠春)が勝てばママと呼んでやる」という賭けをし、案の定負けるのであるが、勝利して立ち去ろうとする詠春に襲いかかった飛天猴子に『ママに向って何事だ!』と叱り付ける辺りが何とも気持ちの良い快男児ぶりだった。物語の中で飛天猩猩の役割は詠春が越えねばならぬ壁の一つとして存在するのみで、決して詠春の人生に影を落とすものではない。其れだけにこちらとしては物足りない部分がある。ここでドニーが飛天猩猩の手に掛かり死ぬ演出であったならば私の好む展開になったのだろうが。惜しい事だ。(これこれ

おまけ)豆腐花と臭豆腐
 中国广州在住の折、自分が最も多く食していた物といえば豆から出来た一連の食物である。飲料と言えばナイスな甘味に味付けられた豆乳(一元二角、約二十円。一元は当時15円くらい)を飲み、晩飯には麻辣豆腐(麻婆豆腐のバリエーション。肉が少ないがどの辺で区別が出来ているのかは不明。九元)を食す。おやつは豆腐花(一元)だった。この豆腐花というのは『詠春』の豆腐屋で売っていた物と同一で、形容としては豆腐で作ったプリンとしか言いようが無く、蜜(K砂糖水又は砂糖水)を掛けて食べる。向うでは所謂我々が云う所の御菓子が下手をすれば炒飯よりも高い(というか、そう)ので普通サイズの御椀一杯で一元だからネイティヴの人達に手軽に食されていた。この豆腐花、本来豆腐花売りがゴミバケツ(でなくてなんだというのか)に浪波と入れて売りに来るので一日のある特定の時間にしか入手できなかったのだが、半年もするとパックで売られる様になり、何時でも食えるようになった(向うではパックにストローを差し込み中の豆腐花を吸って食うという方法が一般化していた。ノリとしては紙パックの明治ブリックを飲むのに近い)。
 广州は亜熱帯に属するとはいえ、冬を感じる事は出来る。沖縄でコタツが売れるのと同じである。大体12月にもなると、道端で営業する非合法の露天商たちの中に異臭を放つ連中が混じり始める。牛小屋のそれに極めて近い強烈な匂いは、馴染みの無い人間の顔を歪めるには充分である。それが冬の風物詩?、臭豆腐(チョウドウフ)である。香港映画では度々その名前が出てくるが、私はあの匂いに慣れる事は出来ても食うには結局至らなかった。一体どんな味がするのか中国人の友人に聞いた事もあるが、あの料理は漢民族であっても全員が食える訳ではないらしく、満足な解答は得られなかった。じゃあ自分が食えって?其れだけは出来ぬ…出来ぬのだ…。

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