My Date with Vampire 3


岳飛:2004Ver.(徐少強飾)

第一巻

 2004年に亞洲電視本港台(ATV)にて放送された、一連の「キョンシーデート」シリーズ最新作。

 前作の最後で吸血鬼から人間に戻った況復生(張國権)。あれから更に月日は流れ、彼は成長し高校生になり、馬小玲(マン・イーマン)の残した銀行預金とバー「Waiting Bar」を切り盛りしつつ登校拒否気味の生活を続けていた。そこに突如として馬小玲が現世に帰還を果たし、退魔用の品々を持ち出し再び姿を消す。復生に「宋の時代、朱仙鎮に行く」と残して…

 はるか昔。岳飛(徐少強)の軍が、秦檜に唆された帝の命令を聞いて都に帰らなければならなくなった(その後受牢→刑死の流れ)丁度その時。次の朝に都に向けて出立する事を決めた岳飛に対して、朱仙鎮を守る完顔不破(陳啓泰)の一軍を必ず打ち破って合流する、と先鋒・夜叉こと岳銀瓶(秦嵐)が申し出た。銀瓶は岳飛の娘だが宋に命を捧げる事を誓って仮面をつけ素性を隠し、岳飛の軍に参加していたのである。完顔不破を打ち倒す為、彼女は知性を持つ魔法の槍を手に、幼馴染の突撃隊長の箭頭(尹天照)らと共に不破を倒す為に朱仙鎮に赴いた。一方、不破は篭城を決め込み、幾度も銀瓶らと矛を見えて来たが既に負傷者も数多く最早敗北は時間の問題だった。そこで彼の妹・無涙(張文慈)は起死回生の秘策として、外法・血神呪法を使う事を決意する。果たして、血神呪法とは…?

 シンセンで購入してみたものの、全三十六話に対してこっちは二十六枚…いやあな予感がしていたのだが…今のところ夜叉誕生編、夜叉の銀槍を入手する件も二枚目に収録されておりこちらの最悪の予想は外れているが全く油断できない。挙句に大陸版の声優が見事なまでに元の人の声と違っており(どんな選考した結果なのやら)、マン・イーマンのどすこい声やら徐少強のええ声に慣れたこちらにとっては正直辛い。DVD香港正規版が出るのを期待するしかないか。一応、この宋朝編はプロローグ兼、今回の主要登場人物(天佑の前世・箭頭と山本一夫の前世・完顔不破、無涙…は未来の前世なのかどうか不明)の説明に使われているので岳飛自体の登場シーンもそう多くない。徐少強の岳飛自体は「岳飛伝」で堪能されているのでその辺で脳内補完しろと言うのだろうか。それにしても、尹天照本人も岳飛伝で牛通の役で出てたんだし、此の際牛通そのままで出てくれていた方が面白かったのに。岳飛の娘銀瓶が夜叉というのもちと難有り過ぎ。花木蘭みたいなのをやらせたかったんだろうけれど、徐少強の岳飛ならもっと強い態度に出て娘を軍から叩き出しているんじゃないのかと考えてしまう。そういえば馬小玲と岳飛のやり取りは一切なかったな…残念。  他の見所は成長して声変わりもした復生。面影残した上でカッコよくなったけれど、その代わり只の人になった分だけ本編じゃ活躍どころがないのが残念。  今回の突込みどころの最大のものは本編のサブヒロインの一人、月の仙女・嫦蛾(樋口明日嘉)の台詞。
「世界で最初に月に降り立ったのは中国人」
いや、それはどうかと思うぞ。

第二巻

 血神呪法により、自刃した金軍の兵士の魂が魔物と化し宋軍を襲い始める。箭頭や銀瓶らは必死に戦うが、圧倒的物量を誇る相手に対してその反抗も無駄に思われた。だが、箭頭が絶対的危機に陥った時、遥かな時の流れを超えて馬小玲が奪ったバイクごと現われ、神龍を放ち魔物を駆逐、完顔不破を打ち倒した。 馬小玲は箭頭に2004年の香港に来てもらう、と一言告げて連れて行こうとするが、箭頭は理解の範疇を超えた彼女の話に肯く訳もなく、兎にも角にもこの朱仙鎮攻略まで待ってくれと言う事しか出来なかった。
 だが事態は意外な方向に進む事となった。圧倒的な神龍の気に当てられ気を失った不破を救うべく無涙が使った一巻の巻物が、数千年に一度しか実を付けないと言われる伝説の仙桃の木を蘇らせたのである。朱仙鎮を金国軍が必死で守ったていたのは、この地に仙桃があるという伝説を金国王が信じ、捜索させていた為だったのだ。これで兄は助かる、と喜んだ無涙と部下達の目前で仙桃が瞬く間に実を付ける。

 悲劇は其処から始まった…

 夜叉の誕生編と小丙銀槍の件が冒頭に入る(カットされず助かった…)。
 朱仙鎮を守る完顔不破によって進軍を阻まれた宋軍に紛れ込んでいた岳飛の娘・銀瓶が彼女を哀れに思った崑崙山の仙人・在劫居士(袁文傑)に銀槍を託され、それを使い不破を退かせる事に成功した結果、彼女は打倒不破を目的とした先鋒夜叉を名乗る(どうでも良いけれど在劫居士、只のロリコンの臭いがするんですが)。…この後、岳飛は彼女をなじるが結局遺書を書かせてそのまま任に付かせる事になるシーンの描写が綺麗なんだけれど何か既視感を感じるのはそれが旧日本軍の習慣そのままだからだろうか。話の流れはそれで良いんだけれど、言葉はドラマの都合上共通しているのは目を瞑るとしても、異民族同士の金国と宋国の伝説が共通していたり、メンタリティが共通していると言うのは、なんだか中華は一つ、みたいな嫌らしさを感じてしまうのだが穿ち過ぎだろうか。
 陳啓泰演ずる完顔不破は人生の退屈凌ぎに戦闘やってるみたいな困った人で、夜叉を三撃で殺しきれなかった事で「これで面白くなってきた」と見逃す始末。山本の前世である事は後で語られるのだけれど、山本って最初極悪人だったような…どうも作品毎に出てくる度に良い人っぽくなっている感じ。長髪・無精髭のメイクがカッコ良くて、普通の兵装の箭頭たちに比べるとあからさまに華があって差別じゃないのかと…。あと、箭頭は基本的に天佑と共通しているのは頑固なだけで性格はずっと明るくて腹の中にモノを溜め込まない、殆ど別の人…というか、岳飛伝の牛通とどこが違うのかと…

第三巻

 瑶池聖母(西王母とも言う)の仙桃と呼ばれる果実から現れたのは小さな魔物だった。それは自らの意志で動き、昏睡した不破の鼻腔から体内に侵入し彼を第一世代の吸血怪物と変えてしまう。瞬く間に自軍兵士を殺害・吸血した不破の変異に驚いた無涙と雷王(鄭恕峰)は、残った僅かな兵士と共に宋軍に投降し、事情を話した。それとほぼ時を同じくして朱仙鎮には盤古による結界が形成され、外界と完全に遮断されてしまう。吸血鬼を外に出さない為に仕掛けられていた罠だったが、これで箭頭達は自分達が吸血鬼となり自滅するか、吸血鬼を滅ぼす以外に道がなくなってしまった。吸血鬼はより上位存在の吸血鬼により制御される事に気付いた馬小玲らは正気を失い暴れる不破をどうにか捕らえ、彼を滅ぼす為に無涙の伝心呪法により銀瓶を不破の精神世界へと旅立たせる。

 そして再び2004年の香港。宋代の骨董を専門に扱う古物商・袁として生きる不破の元に百発百中の運命鑑定師、天命先生の異名を持つ有求(陳展鵬)から手紙が届く。妹の運命について聞きたい事があった不破はそこで馬小玲の運命を変えるために朱仙鎮に行けと示唆され、発掘作業を行う。其処で彼が発見したのは800年の時を経た馬小玲の所持していた携帯電話だった…一体これが馬小玲の運命を如何変えるのだろうか…

 逃げ場なしに残った人数でどう吸血鬼に対処するか。今回の目玉はこの状況下で金国人も宋国人もなく、共に協力して吸血鬼退治の作戦に従事する辺りのやり取りが良い。雷王と老徐(曹(王韋)明)、その息子流星(金沛辰)とのやり取りで、流星が初陣である事を聞いた雷王が「俺の息子は宋軍との戦いで死んだ…殺される前に殺せ」と諭す所がなんとも悲壮感漂っていて良い。この三人のうち、老徐が一番最初に脱落(吸血鬼化)するのだが、予め雷王に「お前は元々俺の敵だったんだから吸血鬼になったら殺すのに躊躇いなかろう」と互いに約束していたにも拘らず、雷王が老徐が吸血鬼に手首を噛まれた時に手首だけ切り落として済ます(結局無駄になったが)辺りの雷王の情の表現がお気に入り。後どうなるか薄々判っていながらも盆暗道を行く彼らに胸が熱くなる。
 後は2004年世界の不破が800余年もの間、吸血鬼として生きる一方で、生死の境でかろうじて存在し続ける無涙を救うべく色々シスコン振りを垣間見せる。後の話で完全にシスコンなのが露呈するけれど今回はその触りのようなものだった。それにしても前の作品から無精髭を好むようになったなあ、陳啓泰。もう一作目のような綺麗な面を望む事は出来ないのか。ああ。
 その他、ケータイの写真機能で遊ぶ銀瓶(例によって魂を取られる云々のお約束のギャグあり)、夢の世界の不破の妄想Ver.銀瓶(女物の服に身を包んで変なマスク被ってる)他、銀瓶がらみのシーンで見所多し。徐少強の岳飛は…何処に行った(つーか一緒に結界内にいて欲しかった…カメオ出演丸判り)?実に残念だ。

第四巻

 朱仙鎮で不破が見つけた携帯電話には銀瓶の写真と共に、馬小玲から復生に託した「出要る限り強力な吸血鬼退治の呪札を退魔道具箱に入れて欲しい」というメッセージが残されていた。既に呪札が尽きていた馬小玲には、残りの吸血鬼を滅ぼすだけの力は残されておらず死を待つのみ。彼女は万が一の可能性…2004年の未来に復生が自分が宋の時代に行くまでにこの携帯電話を見出す可能性に賭けたのである。
「なんて博打を打つんだ、馬小玲…」
 ぎりぎりのタイミングで天命先生から貰った、本来は自決用の黒い呪札を道具箱に封入し事の次第を見守る不破の目前で、馬小玲は異界から帰還を果たし宋の時代へと向かう。これで果たして運命は変わったのだろうか。そう、変わったのである。使い果たしたと思っていた札を見つけた馬小玲はその黒い吸血鬼破壊の呪札を使用し、残りの吸血鬼をあらかた殲滅する事に成功したのだった。
 その頃、吸血鬼不破の夢に入り込んでいた銀瓶は、不破と心を通わせる事が出来たとは言え本来の目的である不破殺害に失敗し夢の世界から弾き出されていたが、半覚醒状態の不破の眼前で無涙が別の吸血鬼に瀕死の重症を負わされた事で不破は本来の自分を取り戻す。問題が解決した事で馬小玲は仙桃の木を封印する為の儀式に取り掛かり、見事悪夢の根源たる仙桃を盤古の封印に再封印する事で朱仙鎮に掛かる結界を解除した。それが不破と銀瓶が再び敵同士に戻る事を意味していた。戦いに倦んだ銀瓶は崑崙に行く事を決意するが、箭頭は未来に行く事を良しとせず馬小玲をバイクに枷で縛り付けるとたった一人で不破率いる金国軍に戦いを挑む。箭頭の危機を知った銀瓶は箭頭を救うべく再び銀槍を取って不破と戦うが、彼女の一撃が不破の吸血鬼としての凶暴な自我を目覚めさせてしまい、銀瓶はその圧倒的な力の前に惨殺されてしまう。今際に「これで貴方の心にずっと居られる」と告げ絶命した銀瓶を正気に戻った不破はなすすべもなく抱きしめる事しか出来なかった。
 そして箭頭もまた瀕死の重傷を負い、不破の助けで何とか馬小玲が未来に連れ帰る事に成功したものの彼の命は既に消えかけていた。箭頭が後に如何役に立つのか判らないままに彼女は結界を張り、箭頭の魂魄を半ば強制的に体に留める事に成功したが…

 宋朝編最終巻。
 箭頭がたった一人で金国軍に殴り込み掛ける件が非常にカッコいい。不破の他に唯一生き残った吸血鬼、老徐を誰にも悟られる事なく刺殺し、巧に天佑の事を尋ねつつ馬小玲を誘導し「渡したいものがある」と枷を嵌めて「済まぬ。やはり私は未来に行く事は出来ない」と告げて長剣を引き摺りつつ金国軍の前に現れるその十数分の活躍は章の最終回に相応しい(これでズタボロになった後で不破に止め刺されていたらベストだったんだが…流石にそれでは話が続かない)。
 不破の吸血鬼化は自分の意志で発動させるか基本的に極度の生命の危機にならない限り発動しない、という設定みたいだがそれだけに銀瓶惨殺の件は余りに悲しい。ビジュアル的に綺麗にしていたけれど、不破が銀瓶に対して行ったのは『眉間縦割』。頭から被った変な仮面ごと真っ二つにしてしまうレベルの斬撃食らわせてしまうあたり容赦全くなし。リアルな表現でやるようなもんじゃない。恐るべし吸血鬼不破。場面としては非常に綺麗なんだけれど…
 岳飛軍は前夜のうちに13通目の帰還命令を受けて処刑の為に戻っている事が判明。亞洲ドラマ岳飛伝の最後で彼が縊り殺されるシーンを見ているだけにオチがああなるのが判っているのだが、それでもいい気はしない(秦檜の個人的恨みだけで殺されてるし)。岳飛の最後は脳内で補完するのがこのドラマの正しい見方なのかも。
 で、今回の突っ込みどころ。歴史は変えられないとさんざん馬小玲は話してますが、そもそもこのドラマは時間いじくり捲くっているんだが。一作目のお釈迦様の時間介入で個人の設定なんかころころ変わってるし…1-3と通して見ている視聴者は絶対変だと思うぞこれ。

第五巻

 現代に帰り着いた馬小玲達だったが、致命傷を受けた箭頭を助ける事は馬小玲の方術をもってしても100日の延命が限界だった。彼が生き延びる為には、彼の魂魄から「欲」が消えている為だった。箭頭は100日の間に心から欲する何かを見付けなければならなかった。復生は現代がどういうものか教えて馴染んで貰おうと箭頭を天佑そっくりに扮装させ香港の町を案内する。だが、箭頭にとっては宋代と余りにも違う現代に戸惑うばかりだった。だが、不破と出会ったことで彼は再び気力を奮い起こし、銀瓶を殺害した仇を討とうとするが、800年と言う長い時間を過ごして老成した吸血鬼である不破は、箭頭の知っていた以前とは比べ物にならないくらいに強力な存在となっていた。
 同じ頃、Waiting Barの存続その他色々の事に復生が自分の預金を粗方使い果たしていた事に愕然とした馬小玲は急遽3割引きで退魔の仕事を募集するが、こんな時に限って何の依頼もない。そんな折に、10年もの間会う事もなかった毛憂(麥家h)と再会する。彼女は馬家と同じく退魔の名門とされた毛家の人間であり、嘗ての親友だった。毛憂は警察の一員となっており、50万香港ドルの報酬で馬小玲に警察の退魔チームの教官になってほしいと持ちかけた…

 この物語での2004年の香港は、「2」の話を受けて吸血鬼が割とありふれた存在になっている事に。中には貧乏で血液パックの高騰に耐えられず強盗になる奴まで出てくる始末である。例によって力を発現させない限り一般人と区別が付かないし、基本的には不死身なのだからそれこそ「1」の山本のように寄り合いつくってよからぬ事を企むなり、大陸に入って大暴れするなり簡単だったろうに。なんと善良な吸血鬼達なんだろう。そんなこんなで警察に対超自然怪物用の組織が作られるという経緯になったみたいであるが、香港政府はどのくらい吸血鬼の存在を確認しているのかとか気になって仕方がない。「非典」肺炎どころの騒ぎで絶対すまないと思うぞ、こんな危なっかしい状況。感染率100%だし…そうか、また大陸政府が隠蔽工作を行っているんだ…今の中国と香港の状況を鑑みながらこの設定を考察すると実に面白い。
 今回笑える部分は復生の毛憂を口説くシーン。実に馬鹿っぽい。嘗て子供バージョンだった時は同じような事しても可愛げがあったんだがなあ(一体奴はどこでナンパの仕方を習ったんだろうか)。それ以前に肉体設定が高校生くらいだとしても、毛憂は10年前に学生やってた馬小玲の友達と言う話だから30前なんだが見た目のつりあいも減ったくれもない。70年ほどの記憶の蓄積があるから、10代の子供には目もくれないあたり良い趣味してるよ、彼。
 あと、ぐるぐる回転切りとか平気の平左で出来る程平衡感覚に優れている筈の箭頭が乗り物は愚か、エレベータにすら酔う事が判明。何なんだこれは…

第六・七巻

 度重なる吸血鬼による犯罪と幽霊・妖怪変化の類の怪異に対抗すべく退魔チームを作るにあたり、何らかの形で問題がある警察職員が選ばれ毛憂を部隊長として一応の結成はみたものの、退魔の一族の出である毛憂を除けば、残りは怪異相手は素人そのものであり、そこで毛憂は金欠に苦しむ馬小玲を教官に据える事を上層部に提案し、それが了承された。血気にはやる隊員達だったが、馬小玲に揃ってバーのウエイターとして雑役係にさせられた事で、隊の全員が当初反発を覚える。だが、その傍に仕える箭頭の信じられない強さに彼らは従わざるを得なかった。箭頭は人間を従わせるのに使う方法の一つ、理を説いて説得する事が出来ないと知るや力で屈服させるしかないという彼なりの哲学を実行したのであり、又それが功を奏したのである。こうして漸く訓練できる状態になったと確認した馬小玲は、彼らに幽霊を見させる為の呪いを施す。最初只管怯えるしかなかった隊員達だったが、妊婦の幽霊を助けた事でそれなりに耐性が付き、訓練に付いて来られるようになり、訓練は順調に進むかのように見えた。
 同じ頃、馬小玲の運命を変えた男・天命先生の存在を毛憂は調査していたところ、連絡が入った。彼は自分の事をこれ以上調べないと言う条件で毛憂達の隊を強化する為の退魔装備を準備すると約束する。彼は自分の死して尚この世に留まる幽霊の恋人を再びこの世に受肉させる為、彼女の死んだと言う事実を改変させる為に馬小玲をいわば実験材料として使ったのである。過去に遡った馬小玲の引き起こした運命の変化の為、事実上役に立たなくなった運命の書により運命を変えられることに確信を抱く。
 そんな折、自らを小説家と名乗る謎の女性が余人の知る筈もない天命先生の部屋の扉を叩いた…

 警察の余剰人員を使って尤もわけの判らない事態に対処させる為のチームを編成させるって…あんまり危機感ないな香港警察。流石担当がイギリスではなく中国共産党に変わっただけはあると変なところで感心してしまった。これらの隊員は全て警察組織では問題だらけのため、免職されるか否かの瀬戸際にありこの件で失敗すれば馘というシビアな状況にある。この隊員の中で最も物を判っているのが最年長の老鬼(洗浩英)であり、彼だけは年長者だけに過去の(探偵としての)天佑の活躍を知っており…ってあれ?天佑が探偵として名を馳せていたのは「1」だったような。ここでも怪しげなパラレルワールド展開になってませんかね。それ以前に日本の孔雀さんとはどういったご関係なんでしょうかと問い詰めたいものがあるんですが。で、一番の跳ねっ返りがSKY(周子濠)。取り敢えず何事につけ最初に噛み付く頭のちょっと悪い人。隊員の中にKERY(卓慧敏)というこれまた短絡思考の彼女が居る。で、細R(陳楽文。発音さいろう=広東語の子供に引っ掛け)、大R(発音だいろう=広東語のおっさんに引っ掛け)、烏龍(伍偉楽)、木村(阮民俊)という影のあんまり濃くない隊員が居て、一応小隊長として一人常識人なMARS(黄子雄)が居るけれど、統率能力今一つなし。これらの資料を見た毛憂は恐らく駄目だこれはと思ったに違いない。だからこそ組織の柵の関係ない馬小玲に教官というややこしい役目を押し付けたんだろうと思われる。毛憂は馬小玲の幼馴染(王陳陳は彼女らの仲違いの後に馬小玲に出来た親友だと思われる)で、10年前に発生した毛憂との間に禍根が残っている事もあり、嫌がらせも入ってると思う。

 今回残念だったのは、普通話版だと箭頭のトンチキな台詞が改変されてしまた事。本来テレビを見て現代広東語を学ぶ箭頭が、ドラマで「No Problem、問題なし(モウマンタイ)」と言う台詞を間違えて覚えてしまい、「No Condom、問題なし!」と何度も叫ぶ件が只単に「Problem、問題なし!」になっているのはどうかと。本作品で一番笑えるところなのに…。あと笑えるのは隊員の最初の仕事が登校拒否し捲くっている復生を叩き起こして服着替えさせ(どうやったんだろう)学校に放り込む件。「必ず復讐してやるからな!」と叫んだ復生の仕返しがされたという描写はないのは少々残念だが、行動パターンが幼少期?と全然変わってないのは安心できる。

第八・九巻

 SKY達の訓練が始まって暫く後。警察上層部は一向に実働しない特別班に対して不信の目を向け、馬小玲はまだそのときではないと反論するも相手が聞く耳持たぬと知るや手を引くとその場を去ってしまい、残された毛憂達は仕方なくある廃ホテルの霊的存在の駆除という命令を受ける。だが、班長であるMARSに対して、今回の指令の発案者である陳Sir(關偉倫)は極秘任務を与える。ホテルの中にある小さな箱を持って来いと言うのだ。作戦は成功し、MARSは意味も判らず箱を持ってくるが、陳は「この中のオルゴールは如何した!」と激怒する。陳の目的は箱の中身だったのだ。もう一度取りに行けと命令する陳にMARSは不信感を抱きつつも従おうとする。それとほぼ時間を同じくして廃ホテルに入り込んだビデオ撮影者の一行が怪奇事件に出会い、全員が消息不明となる事件が起こった。毛憂達は自分達の駆除の後にそんな事件が起こるなど信じられないままに再び廃ホテルに隊員を送り込むが、そこは既に霊的且つ物理的な結界と化しており、入った隊員たちはホテルから脱出する事も適わず、この罠を張った張本人である、オルゴールに封じられていた魔物・アイリスの「ゲーム」に陥れられ、相互不信と死の恐怖に苛まれる。アイリスの仕掛けた悪意ある「鬼ごっこ」のルール、それはアイリスに触られた人間が一定時間内に他者の肩を触らなければ影を残して肉体を滅ぼされてしまうというものだった。誰が影鬼か判らないままに誤解と裏切りの中で木村、大Rが犠牲者となる。果たして彼らはこのまま自滅/消滅を待つだけなのか…

 この話の根本をなす「アイリス」のネタは正直私には受け入れられ難い。というのは、このアイリス、前の大戦で原爆落とされた広島で両親を殺され、自分は防空壕に入っていて助かったものの程なく死亡した幼女の幽霊を利用して作られた怨霊兵器とも言うべき存在だというのだ。影だけ残して殺された親への愛慕とそれを為したもの達への憎しみが凄まじい力を生み出す…っておい。しかもこの怨霊兵器は天命先生が作ったもので、且つそれを依頼したのが山本だったって何よそれ。もはやどこから突っ込んで良いのか。班員四名を含む大量の犠牲者を出した本件で責任取らされた(殺された)のは陳Sirだけで、天命はスルー、山本は既に死亡してるし挙句に瑶池聖母が横槍入れてアイリスはオチで改心(別に救いがあった訳でなく殆ど子供だましに近い手法で)してしまうし。…なんじゃそれはとしか云えない。これを民族的メンタリティの違いと見るか、シナリオ書いた人が単なるレイシスト(神仙である瑶池が民族の裏切り云々を陳に告げて正義を語るとは!)なのかはたまた何も考えていないのか微妙なところだが、折角猜疑心からの同士討ちという面白いネタを使うならばもう少し敵側の設定錬ってくれやと言いたくなる。
 で、今回の犠牲者で後の話に引っ張るのがMARSの死。劇中で死亡フラグの台詞や演出があり、これは来るかな…と思っていたらやはり死亡、しかも跳弾で頭蓋直撃。妙に出番が増えたら死亡の印、というのは中国ドラマの鉄則か。
 今回の見所は同士討ちの陰惨な場面とそれに関る大Rのちょっと良い話。烏龍が恐怖に負けて裏切り行為を働いたのに対して、大Rは自分が死ぬ事でゲームを終わらせようと悲惨な決意で皆に別れを告げ、携帯電話のビデオ機能を使って自分の妻に別れを告げながら徐々に消滅するところが切なくて良い。あと、箭頭がMARSに対して「俺も兄弟分を殺した事がある…」という台詞の出てくる場面か。本作は初っ端から犠牲者がやたらと多い分だけにこの手の極限下に於ける男の誇りとか友情のシーンが多いなあ。

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