前作の最後で吸血鬼から人間に戻った況復生(張國権)。あれから更に月日は流れ、彼は成長し高校生になり、馬小玲(マン・イーマン)の残した銀行預金とバー「Waiting Bar」を切り盛りしつつ登校拒否気味の生活を続けていた。そこに突如として馬小玲が現世に帰還を果たし、退魔用の品々を持ち出し再び姿を消す。復生に「宋の時代、朱仙鎮に行く」と残して…
はるか昔。岳飛(徐少強)の軍が、秦檜に唆された帝の命令を聞いて都に帰らなければならなくなった(その後受牢→刑死の流れ)丁度その時。次の朝に都に向けて出立する事を決めた岳飛に対して、朱仙鎮を守る完顔不破(陳啓泰)の一軍を必ず打ち破って合流する、と先鋒・夜叉こと岳銀瓶(秦嵐)が申し出た。銀瓶は岳飛の娘だが宋に命を捧げる事を誓って仮面をつけ素性を隠し、岳飛の軍に参加していたのである。完顔不破を打ち倒す為、彼女は知性を持つ魔法の槍を手に、幼馴染の突撃隊長の箭頭(尹天照)らと共に不破を倒す為に朱仙鎮に赴いた。一方、不破は篭城を決め込み、幾度も銀瓶らと矛を見えて来たが既に負傷者も数多く最早敗北は時間の問題だった。そこで彼の妹・無涙(張文慈)は起死回生の秘策として、外法・血神呪法を使う事を決意する。果たして、血神呪法とは…?
シンセンで購入してみたものの、全三十六話に対してこっちは二十六枚…いやあな予感がしていたのだが…今のところ夜叉誕生編、夜叉の銀槍を入手する件も二枚目に収録されておりこちらの最悪の予想は外れているが全く油断できない。挙句に大陸版の声優が見事なまでに元の人の声と違っており(どんな選考した結果なのやら)、マン・イーマンのどすこい声やら徐少強のええ声に慣れたこちらにとっては正直辛い。DVD香港正規版が出るのを期待するしかないか。一応、この宋朝編はプロローグ兼、今回の主要登場人物(天佑の前世・箭頭と山本一夫の前世・完顔不破、無涙…は未来の前世なのかどうか不明)の説明に使われているので岳飛自体の登場シーンもそう多くない。徐少強の岳飛自体は「岳飛伝」で堪能されているのでその辺で脳内補完しろと言うのだろうか。それにしても、尹天照本人も岳飛伝で牛通の役で出てたんだし、此の際牛通そのままで出てくれていた方が面白かったのに。岳飛の娘銀瓶が夜叉というのもちと難有り過ぎ。花木蘭みたいなのをやらせたかったんだろうけれど、徐少強の岳飛ならもっと強い態度に出て娘を軍から叩き出しているんじゃないのかと考えてしまう。そういえば馬小玲と岳飛のやり取りは一切なかったな…残念。
他の見所は成長して声変わりもした復生。面影残した上でカッコよくなったけれど、その代わり只の人になった分だけ本編じゃ活躍どころがないのが残念。
今回の突込みどころの最大のものは本編のサブヒロインの一人、月の仙女・嫦蛾(樋口明日嘉)の台詞。
「世界で最初に月に降り立ったのは中国人」
いや、それはどうかと思うぞ。
悲劇は其処から始まった…
夜叉の誕生編と小丙銀槍の件が冒頭に入る(カットされず助かった…)。
朱仙鎮を守る完顔不破によって進軍を阻まれた宋軍に紛れ込んでいた岳飛の娘・銀瓶が彼女を哀れに思った崑崙山の仙人・在劫居士(袁文傑)に銀槍を託され、それを使い不破を退かせる事に成功した結果、彼女は打倒不破を目的とした先鋒夜叉を名乗る(どうでも良いけれど在劫居士、只のロリコンの臭いがするんですが)。…この後、岳飛は彼女をなじるが結局遺書を書かせてそのまま任に付かせる事になるシーンの描写が綺麗なんだけれど何か既視感を感じるのはそれが旧日本軍の習慣そのままだからだろうか。話の流れはそれで良いんだけれど、言葉はドラマの都合上共通しているのは目を瞑るとしても、異民族同士の金国と宋国の伝説が共通していたり、メンタリティが共通していると言うのは、なんだか中華は一つ、みたいな嫌らしさを感じてしまうのだが穿ち過ぎだろうか。
陳啓泰演ずる完顔不破は人生の退屈凌ぎに戦闘やってるみたいな困った人で、夜叉を三撃で殺しきれなかった事で「これで面白くなってきた」と見逃す始末。山本の前世である事は後で語られるのだけれど、山本って最初極悪人だったような…どうも作品毎に出てくる度に良い人っぽくなっている感じ。長髪・無精髭のメイクがカッコ良くて、普通の兵装の箭頭たちに比べるとあからさまに華があって差別じゃないのかと…。あと、箭頭は基本的に天佑と共通しているのは頑固なだけで性格はずっと明るくて腹の中にモノを溜め込まない、殆ど別の人…というか、岳飛伝の牛通とどこが違うのかと…
そして再び2004年の香港。宋代の骨董を専門に扱う古物商・袁として生きる不破の元に百発百中の運命鑑定師、天命先生の異名を持つ有求(陳展鵬)から手紙が届く。妹の運命について聞きたい事があった不破はそこで馬小玲の運命を変えるために朱仙鎮に行けと示唆され、発掘作業を行う。其処で彼が発見したのは800年の時を経た馬小玲の所持していた携帯電話だった…一体これが馬小玲の運命を如何変えるのだろうか…
逃げ場なしに残った人数でどう吸血鬼に対処するか。今回の目玉はこの状況下で金国人も宋国人もなく、共に協力して吸血鬼退治の作戦に従事する辺りのやり取りが良い。雷王と老徐(曹(王韋)明)、その息子流星(金沛辰)とのやり取りで、流星が初陣である事を聞いた雷王が「俺の息子は宋軍との戦いで死んだ…殺される前に殺せ」と諭す所がなんとも悲壮感漂っていて良い。この三人のうち、老徐が一番最初に脱落(吸血鬼化)するのだが、予め雷王に「お前は元々俺の敵だったんだから吸血鬼になったら殺すのに躊躇いなかろう」と互いに約束していたにも拘らず、雷王が老徐が吸血鬼に手首を噛まれた時に手首だけ切り落として済ます(結局無駄になったが)辺りの雷王の情の表現がお気に入り。後どうなるか薄々判っていながらも盆暗道を行く彼らに胸が熱くなる。
後は2004年世界の不破が800余年もの間、吸血鬼として生きる一方で、生死の境でかろうじて存在し続ける無涙を救うべく色々シスコン振りを垣間見せる。後の話で完全にシスコンなのが露呈するけれど今回はその触りのようなものだった。それにしても前の作品から無精髭を好むようになったなあ、陳啓泰。もう一作目のような綺麗な面を望む事は出来ないのか。ああ。
その他、ケータイの写真機能で遊ぶ銀瓶(例によって魂を取られる云々のお約束のギャグあり)、夢の世界の不破の妄想Ver.銀瓶(女物の服に身を包んで変なマスク被ってる)他、銀瓶がらみのシーンで見所多し。徐少強の岳飛は…何処に行った(つーか一緒に結界内にいて欲しかった…カメオ出演丸判り)?実に残念だ。
宋朝編最終巻。
箭頭がたった一人で金国軍に殴り込み掛ける件が非常にカッコいい。不破の他に唯一生き残った吸血鬼、老徐を誰にも悟られる事なく刺殺し、巧に天佑の事を尋ねつつ馬小玲を誘導し「渡したいものがある」と枷を嵌めて「済まぬ。やはり私は未来に行く事は出来ない」と告げて長剣を引き摺りつつ金国軍の前に現れるその十数分の活躍は章の最終回に相応しい(これでズタボロになった後で不破に止め刺されていたらベストだったんだが…流石にそれでは話が続かない)。
不破の吸血鬼化は自分の意志で発動させるか基本的に極度の生命の危機にならない限り発動しない、という設定みたいだがそれだけに銀瓶惨殺の件は余りに悲しい。ビジュアル的に綺麗にしていたけれど、不破が銀瓶に対して行ったのは『眉間縦割』。頭から被った変な仮面ごと真っ二つにしてしまうレベルの斬撃食らわせてしまうあたり容赦全くなし。リアルな表現でやるようなもんじゃない。恐るべし吸血鬼不破。場面としては非常に綺麗なんだけれど…
岳飛軍は前夜のうちに13通目の帰還命令を受けて処刑の為に戻っている事が判明。亞洲ドラマ岳飛伝の最後で彼が縊り殺されるシーンを見ているだけにオチがああなるのが判っているのだが、それでもいい気はしない(秦檜の個人的恨みだけで殺されてるし)。岳飛の最後は脳内で補完するのがこのドラマの正しい見方なのかも。
で、今回の突っ込みどころ。歴史は変えられないとさんざん馬小玲は話してますが、そもそもこのドラマは時間いじくり捲くっているんだが。一作目のお釈迦様の時間介入で個人の設定なんかころころ変わってるし…1-3と通して見ている視聴者は絶対変だと思うぞこれ。
この物語での2004年の香港は、「2」の話を受けて吸血鬼が割とありふれた存在になっている事に。中には貧乏で血液パックの高騰に耐えられず強盗になる奴まで出てくる始末である。例によって力を発現させない限り一般人と区別が付かないし、基本的には不死身なのだからそれこそ「1」の山本のように寄り合いつくってよからぬ事を企むなり、大陸に入って大暴れするなり簡単だったろうに。なんと善良な吸血鬼達なんだろう。そんなこんなで警察に対超自然怪物用の組織が作られるという経緯になったみたいであるが、香港政府はどのくらい吸血鬼の存在を確認しているのかとか気になって仕方がない。「非典」肺炎どころの騒ぎで絶対すまないと思うぞ、こんな危なっかしい状況。感染率100%だし…そうか、また大陸政府が隠蔽工作を行っているんだ…今の中国と香港の状況を鑑みながらこの設定を考察すると実に面白い。
今回笑える部分は復生の毛憂を口説くシーン。実に馬鹿っぽい。嘗て子供バージョンだった時は同じような事しても可愛げがあったんだがなあ(一体奴はどこでナンパの仕方を習ったんだろうか)。それ以前に肉体設定が高校生くらいだとしても、毛憂は10年前に学生やってた馬小玲の友達と言う話だから30前なんだが見た目のつりあいも減ったくれもない。70年ほどの記憶の蓄積があるから、10代の子供には目もくれないあたり良い趣味してるよ、彼。
あと、ぐるぐる回転切りとか平気の平左で出来る程平衡感覚に優れている筈の箭頭が乗り物は愚か、エレベータにすら酔う事が判明。何なんだこれは…
警察の余剰人員を使って尤もわけの判らない事態に対処させる為のチームを編成させるって…あんまり危機感ないな香港警察。流石担当がイギリスではなく中国共産党に変わっただけはあると変なところで感心してしまった。これらの隊員は全て警察組織では問題だらけのため、免職されるか否かの瀬戸際にありこの件で失敗すれば馘というシビアな状況にある。この隊員の中で最も物を判っているのが最年長の老鬼(洗浩英)であり、彼だけは年長者だけに過去の(探偵としての)天佑の活躍を知っており…ってあれ?天佑が探偵として名を馳せていたのは「1」だったような。ここでも怪しげなパラレルワールド展開になってませんかね。それ以前に日本の孔雀さんとはどういったご関係なんでしょうかと問い詰めたいものがあるんですが。で、一番の跳ねっ返りがSKY(周子濠)。取り敢えず何事につけ最初に噛み付く頭のちょっと悪い人。隊員の中にKERY(卓慧敏)というこれまた短絡思考の彼女が居る。で、細R(陳楽文。発音さいろう=広東語の子供に引っ掛け)、大R(発音だいろう=広東語のおっさんに引っ掛け)、烏龍(伍偉楽)、木村(阮民俊)という影のあんまり濃くない隊員が居て、一応小隊長として一人常識人なMARS(黄子雄)が居るけれど、統率能力今一つなし。これらの資料を見た毛憂は恐らく駄目だこれはと思ったに違いない。だからこそ組織の柵の関係ない馬小玲に教官というややこしい役目を押し付けたんだろうと思われる。毛憂は馬小玲の幼馴染(王陳陳は彼女らの仲違いの後に馬小玲に出来た親友だと思われる)で、10年前に発生した毛憂との間に禍根が残っている事もあり、嫌がらせも入ってると思う。
今回残念だったのは、普通話版だと箭頭のトンチキな台詞が改変されてしまた事。本来テレビを見て現代広東語を学ぶ箭頭が、ドラマで「No Problem、問題なし(モウマンタイ)」と言う台詞を間違えて覚えてしまい、「No Condom、問題なし!」と何度も叫ぶ件が只単に「Problem、問題なし!」になっているのはどうかと。本作品で一番笑えるところなのに…。あと笑えるのは隊員の最初の仕事が登校拒否し捲くっている復生を叩き起こして服着替えさせ(どうやったんだろう)学校に放り込む件。「必ず復讐してやるからな!」と叫んだ復生の仕返しがされたという描写はないのは少々残念だが、行動パターンが幼少期?と全然変わってないのは安心できる。
この話の根本をなす「アイリス」のネタは正直私には受け入れられ難い。というのは、このアイリス、前の大戦で原爆落とされた広島で両親を殺され、自分は防空壕に入っていて助かったものの程なく死亡した幼女の幽霊を利用して作られた怨霊兵器とも言うべき存在だというのだ。影だけ残して殺された親への愛慕とそれを為したもの達への憎しみが凄まじい力を生み出す…っておい。しかもこの怨霊兵器は天命先生が作ったもので、且つそれを依頼したのが山本だったって何よそれ。もはやどこから突っ込んで良いのか。班員四名を含む大量の犠牲者を出した本件で責任取らされた(殺された)のは陳Sirだけで、天命はスルー、山本は既に死亡してるし挙句に瑶池聖母が横槍入れてアイリスはオチで改心(別に救いがあった訳でなく殆ど子供だましに近い手法で)してしまうし。…なんじゃそれはとしか云えない。これを民族的メンタリティの違いと見るか、シナリオ書いた人が単なるレイシスト(神仙である瑶池が民族の裏切り云々を陳に告げて正義を語るとは!)なのかはたまた何も考えていないのか微妙なところだが、折角猜疑心からの同士討ちという面白いネタを使うならばもう少し敵側の設定錬ってくれやと言いたくなる。
で、今回の犠牲者で後の話に引っ張るのがMARSの死。劇中で死亡フラグの台詞や演出があり、これは来るかな…と思っていたらやはり死亡、しかも跳弾で頭蓋直撃。妙に出番が増えたら死亡の印、というのは中国ドラマの鉄則か。
今回の見所は同士討ちの陰惨な場面とそれに関る大Rのちょっと良い話。烏龍が恐怖に負けて裏切り行為を働いたのに対して、大Rは自分が死ぬ事でゲームを終わらせようと悲惨な決意で皆に別れを告げ、携帯電話のビデオ機能を使って自分の妻に別れを告げながら徐々に消滅するところが切なくて良い。あと、箭頭がMARSに対して「俺も兄弟分を殺した事がある…」という台詞の出てくる場面か。本作は初っ端から犠牲者がやたらと多い分だけにこの手の極限下に於ける男の誇りとか友情のシーンが多いなあ。