金燕子〜Golden Swallow〜


『剣神』鳳(徐少強飾)

領銜主演 鐘楚紅 黄耀明 呉耀漢 徐少強 曾志偉

邦題は『魔翔伝説』。  一言で云えば、エリック・ツァンこと曾志偉監製のアクション版『鶴の恩返し+雪女郎』。黒山に住む妖怪婆・樹妖姥姥の娘で飛行能力と凍結能力を持った小雪(鐘楚紅)に命を助けられた書生・洛知秋(黄耀明)は共に恋に落ちるがそれを樹妖姥姥は許さず、洛知秋を殺そうとする。小雪の必死の懇願により姥姥は洛知秋に、この場で起こった事を誰かに漏らせば死、小雪にはその時、洛の命を奪うという誓いを立てさせて洛を許す。そしてその記憶が癒えた頃、ある雨の日に彼は『身を売って親を弔う』と張り紙をしてうずくまる少女・小冰と出会い、何の気無しに彼女に与えた金額が彼女が身売りする為のそれと同じであった為、彼女は強引に洛の所に押しかけ、最初戸惑っていた洛も終には彼女と夫婦となった。そして二人の間に娘も出来、幸せな日々が続く。しかし、三年後ふとした事から小雪の事を思い出した彼は、その女妖の事を喋ってしまう。果たして妻は女妖が変身した姿であり、誓いが破られた事を知った樹妖姥姥は妻・小雪とその娘を魔界に攫ってしまう。妻子の奪回を決心した彼は友人の道士(曾志偉)達の助けで、嘗て樹妖姥姥と引き分けた『剣神』鳳(徐少強)に助けを求める。彼ら二人の運命や、如何に…
 徐少強の演ずる『剣神』鳳は映画の冒頭と最後に出てくるだけだけとは云え、そのインパクトは凄まじい物がある。映画の開始と同時に、湖中(中国ものだし多分湖)から真直ぐ突き出される、呪言の記された剣(映画『エクスカリバー』みたく)と共にその所持者・鳳が水中から真直ぐ飛び出すのだ!これだけでも見る価値はあるといえよう。更に、彼の強さを印象付けるべく、船頭に化けていた妖怪の一人を一刀の下に斬捨てるあたり、監督は判っていらっしゃる。そして彼は自らの血を囮に樹妖姥姥を呼び寄せ、決戦を試みる。巨大化する樹妖を相手に一歩も退かぬ鳳。しかし、樹妖は捨て台詞とともに逃げ去り、後には重傷を負って動く事すらままならぬ鳳が残された。そして、時は流れ、傷が癒えて再戦の機会を伺っていた鳳の下に洛が現れる。懇願する彼の声に全く無表情だった彼はゆっくりと口を開き、『この世に逃れられないものはあるか』と問う。洛は其れを死であると答え、鳳は更に『死に勝る力は』と問う。洛は『其れは愛だ』と答える。自分以外のものの為に生きる事は価値あるものであり、そうでない生き方はつまらなく、無意味だ』と続ける。鳳は『つまらない平凡な生活も無意味ではない。おまえは妻子の為に戦いを選ぶか。…俺にも妻子がいる』と彼は一人ごちると、何だかよく判らないがその台詞で協力を約束し、高笑いをする。この件は日本語字幕版を見てようやく内容が理解できたが…この勇ましいのには魂が引かれる。そのシーンで使われている場所が、どう見ても『生死決』で宮本一郎が金田八の話を聞いて悩む磯なのが感慨深い。この映画での徐少強の髪型は宮本タイプのざんばら髪で、中華武士の鎧姿で現れる彼は非常にカッチョ良い。この映画のアクションは完全に彼の独壇場であり、『生死決』ばりの動きを見せてくれる。しかしながら、彼が出張ると完全に周りを食ってしまう為か必要以上にその出番が少ないのが悲しい。いっそ、徐少強を主役にして洛の役目も全部負わせてしまった作品にしてしまえば良かったのに。妖怪退治を生業とする鳳が気紛れで助けた小鳥が実は女妖で、その後恋に落ちた彼が自分の使命と愛情の狭間で苦しむ話、というのはどうだろうか。そして鳳は最終的に自らの責務を果たす事を選び、彼女を手に掛けたその刃を樹妖に向けて最後の戦いに臨むのだ!…妄想入りまくり。

 この作品では魔界と人界の者が交わった悲恋が描かれている。これを国家の違うもの同士の恋愛という見方も出来なくは無いだろう。小雪は魔界には魔界の理があり、私は其れに逆らう事は出来ない、だから私は貴方の元から離れる、と告げる。洛は老婆も死んだし、君を殺しにやってくる者も居ない筈だ、だから以前と同じく一緒に暮らそう、というが彼女は泣きながら姿を消してしまう。互いに想いながらも現実に引き裂かれ別れざるを得ない夫婦の悲しさは胸を打つというか掻き毟りたくなるようなものがある。昔読んだ物語で日本兵と中国人クーニャンとの悲恋があったがあれと同じ事だ。というか失恋直後に見たお陰で感情移入しまくりで泣きかけた。この映画はよく見るとスタッフの中に陳可辛がおり、多分恋愛物語は彼が演出したものと思われる。機会があればみるべし。

日本語版資料提供:MEGUMIさん 多謝!

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