天蠶變 Reincarnated

雲飛揚(徐少強飾)

最新はここ。

 1979年の作品で亞洲時代の彼の代表作である。筆者が所持しているのは香港正版・三箱全60話である。流石にこの当時の作品に字幕なんぞ期待する方がいけないのか、見事に広東語のみ字幕なし。82年の同名映画(英題はBastardSwordsman)の元と思われるが、筆者はこの映画を見ていない為詳しい事は不明。後に義弟とも目される尹天照がリメイク作で主演を演じたが、オリジナルには及ばなかったようである。いじめられて弱音を吐く若き日の徐少強に魅力を感じた人間が当時多かった…のか?

第一〜三回

 武当山では、武当派掌門・蒼松(張瑛)の下、数多くの弟子が修行を続けていた。その中に孤児・雲飛揚(徐少強)の姿があった。だが、彼はまともな弟子扱いを受けず、只管雑役と弟子達の謂れ無き苛めに日々苦しめられていた。蒼松の娘倫婉兒(馬敏兒)は不器用で純朴な雲飛揚を気に入っていたが、皮肉な事にそれは却って兄弟子達の暗い憎悪を掻き立ててしまうのだった。そんなある日、武林で名をどんどん高めて来た無敵派掌門・獨孤無敵(楊澤霖)が大師兄・公孫弘(韓義生)を遣し、蒼松に試合を申し込んできた。三回戦の試合で敗北を喫し重傷を負った蒼松は、後顧の憂いを断つべく放たれた無敵派の刺客に命を狙われるが、地元の有力者の若旦那・傅玉書(伍衛國)の助けで何とか武当山に帰る事が出来た。だが、その代償は大きく、傅玉書の家族は彼を残して皆殺しの憂き目を見た。蒼松は彼を不憫に思い彼を本弟子にするが…

 物語開始時から雲飛揚がイジメの対象になっているのは、今まで見てきた彼のイメージからすると非常に新鮮である。ヘタレで夢見るナイーブな若者を徐少強が演じている、それだけで見るべきものがあるといっても良いかもしれない。昼間は飯のお膳は奪われるわ、武当派の兄弟子らに飛刀の的にされるわ(人型の板を抱えて逃げ回るというもの)と命に関わるイジメを受ける彼だが、夜中には謎の黒覆面の人物から剣を教えて貰うという二重生活(勿論その夜中の修行は秘密である)の中で、いじめに耐えかねて「もう嫌だ!」と覆面男に泣き付いたり、倫婉兒に「頼りないわねえ」と云われる傍からカッコ良くなった自分が彼女を助ける場面を想像してウットリしたりするのである。今回見た分は物語的に彼に重点を置いたものではないのだが、最初はある程度の背景説明に費やされるのは仕方の無い事だろう。とは言え、主役なのに第二話は出て来ないというのは如何なものだろうか。クレジットでもトップじゃないし、これだけ見ていると主役は傅玉書のようにも思えてくる。雲飛揚の逆襲は何時から始まるのか、気になるところである。他に気付いた点としては、ヒロインが「沈勝衣」時よりも美人なのが多い事と、千面佛なる未登場キャラを演じているのが高雄である事。おっさんまたここでも一緒か…と思ったが、別人だった。

第四〜六回

 正式な弟子となれなかった飛揚は相変わらずの雑役ばかりの毎日を送っていたが、それでも婉兒の存在が彼の心を慰めていた。しかし、ここに強力なライバルが現れた。玉書である。彼は飛揚よりも後に武当山に来ておきながら正弟子に選ばれるわ(蒼松の命を救う引き換えに家族皆殺しにされた為)、音楽の才能もあって婉兒にそれを教えてやれるわ、あまつさえ美青年だわとあらゆる点で飛揚を超越していた。ある日、飛揚は婉兒の落し物を届けるついでにラブレターを書いたまでは良かったが(案外インテリである)、婉兒の部屋の傍で運悪く師叔らの見回りに見付かった挙句、ラブレターを玉書に朗読させられてしまうのだった。婉兒は顔を真っ赤にして部屋に逃げ込んでしまい、兄弟子らにそしりを受け、終いには蒼松から三ヶ月もの間、玉書に読み書きを習えと罰を言い渡される始末である。彼のすくたれ者としての悪名は更に高まる事となってしまった。
 そんな中、公孫弘と獨孤無敵の娘・獨孤鳳(苗可秀)が武当山にたった二人で乗り込んできた。無敵門下の弟子が、管中流(劉緯民)の手に掛かって殺されたからである。前回の遺恨もあり、武当派の高弟は必殺の剣陣「七星陣」を敷いて二人に襲い掛かった…

 いやぁ苗可秀は美人だわ…と言うのが素直な感想。キャラクター的にも蒼松の元恋人の娘と言う設定があって、説明読んだ限りはメインヒロインになるようだし、今後飛揚とどう絡むのか期待。今回の飛揚苛めは第四話のラブレター朗読の件である。飛揚に対する友情&どうやら誤字脱字が多いせいで、詰まり詰まりラブレターを読む玉書と周りで大爆笑する兄弟子達、そしてそれを叱責した上で更に続きを読ませようとする師叔(ジジィ)、決して表に出してはならぬものを公表されて形容できない心情の飛揚…何かここは小学校か?と思えてくる。とてもではないがいい大人がやる事ではない。飛揚は表向き武芸がさっぱりという設定なのだが、それだけでここまでやるかい?既に筆者は飛揚に感情移入しまくりであるなぁ。
 さて、今回の最大の笑いどころは七剣陣を敷いた武当派の高弟七人対公孫弘&鳳コンビの戦いである。確かに場面場面は良く出来ている。当然殺陣も良い。…だが、しかし。一昼夜戦い続けると言うのは如何なものか(見物人含む)。これでは笑ってくれと言うようなものである。あと、管中流という、如何にも思わせぶりなキャラクターの存在そのものが笑えると言えば笑える。初登場時に、酒場にて、他人が触ったものを決して触ろうとせず、自ら用意した銀食器を使用するなど、異常なまでの潔癖ぶりを見せておきながら、酒場女にまんまと一杯食わされたりする間抜けさを持ちながら、自分の責任を巧く回避する狡猾さと自分に恥をかかせた人間にはまるきり容赦しない残忍酷薄さを持ち、瞬時に無敵門下生を惨殺する腕を持ち合わせながら、真の実力を出した飛揚にあっさり負けるなど、何だか非常に中途半端なキャラクターである。結局殺されなかったが、再登場の可能性はあるのだろうか…

第七〜九回

 鳳と公孫弘は武当派七剣陣を相手に一昼夜戦い続けたが、流石にこれでは体が持つ筈も無く、ついに力尽きる時が来た。しかし、青松は二人を見逃し、武当山から追い出すに留めた。鳳は彼にとって、最愛の女性の娘だったからである。だが、管中流はそんな二人を逃がそうとせず、待ち伏せて殺そうと企んだ。そこに正体を隠した飛揚が現れ、中流を撃退する。公孫弘は礼を述べて正体を明かしてくれと頼むが飛揚は頑として覆面を取ろうとはしなかった。
 玉書は婉兒と更に仲を進め、ついに婚約まで決定する。しかし彼には秘められた野心があった。武当山には幽閉された彼の縁者・寒潭老人(梁天)がおり、その救出と武当派奥義・天蚕拳の習得にあった。寒潭は天蚕拳の秘密を盗もうとして幽閉されていたのである。
 そんな折、武当派総帥・青松は自分の弟弟子である赤松(馮峰)蒼松(張瑛)らの横暴に腹を据えかね、自分は第一線を退くと同時に後継者を決定する為の人事の発表を行った。玉書は婉兒を妻に娶るという立場から何と三師兄の位を得るのだった。だが、その話を聞いた寒潭は冷酷に言い放つ。「武当派の総帥は妻帯を禁じられている。お前は二人の師兄を抹殺し、あの娘をも消すのだ」と。玉書は婉兒への思いを抱きながらも己の手を血に染める事を選ぶのだった…

 公孫弘らを助けた後で、捜索に来た婉兒達の目を欺くべく飛揚が取り敢えず傍の水辺にぷっかりと土座衛門浮きして気絶した振りをするのだが、何か子供じみていて笑える。これは婉兒を心配させて気を惹こうとする彼の作戦だったのだが、この時も玉書が真っ先に動いて彼を介抱した為に結局玉書の婉兒へのアピールを更に高めるだけになってしまい、結局彼のやる事なす事は、表では何の役にも立っていないというのが更に笑える。彼が覆面をして公孫弘らを救ったのも元はと言えば、師匠(青松ではなく夜の稽古を見てくれる黒衣の男)に七剣陣を破る良い機会だと言われたからなのにタイミングを逸したせいだし、冷静に考えると何かやりきれないものがある。
 それ以外で目を引くのは玉書の野望成就への歩みだろうか。兎に角彼は切れる男である。彼は飛揚が「出来る」事を見抜いた最初の人間であり、後に障害になるかも知れぬ彼の情報を独自に調査させて(まだ部下居るじゃん)、飛揚がどうやら青松の隠し子らしい事まで調べ上げたし、天蚕拳を会得する為には自分の妻をも手に掛ける決意を固めるナイス悪党でもある。で、ここで度々語られる天蚕拳とは、今のところ武当派総帥にのみ伝えられるすごい拳法であると言う事しか判らない。しかも、青松は天蚕拳を会得していないのである。この天蚕拳の秘密をめぐってどう物語が進行するのか楽しみである。柳生武芸帖みたいな展開を期待する。

第十〜十二回

 寒潭老人の命を受け、己の総帥就任への障害となる兄弟子二人を次々に暗殺していった玉書は他人からの疑いの目を逸らすべく自傷し、まんまと他人の憐憫を勝ち取る事に成功する。赤松、蒼松の二人を篭絡する事にも成功した彼は、最後の仕上げに現総帥・青松を亡き者にしようと企んだ。その犯人にでっち上げられるのは他でもない、雲飛揚である。奇しくも赤松・蒼松の目前で、婉兒の籠から逃げる小鳥を捕らえた飛揚は、玉書の姦計に掛かって己の力量を二人の前に曝してしまうのだった。武功が出来ない筈の飛揚が高度な技を使いこなした事は、それだけで兄弟子殺害の容疑を掛けるには十分だった。自分が罠に掛けられた事を知った飛揚は婉兒も含め既に武当山の全ての人間が己を捕らえようとしている事に気付き、必死で逃亡する。そして山が混乱の最中に、玉書は『顔ナシ』と呼ばれる謎の殺し屋を使い青松を誘き出し、二人掛かりで青松を殺害したのである。更に間が悪い事に、その場に駆けつけた飛揚は青松の亡骸の傍に一人で居る所を武当山の人間に発見されてしまい、今度は囚われる所かその場から殺されない為に逃れなければならなくなった。玉書は己の所業を全て飛揚に擦り付ける一方で、総帥への階段を上り詰めていった…

 今回鍵になるのは、武当山の総帥は妻帯を禁じられていると言う事である。これこそが青松をして飛揚を弟子に取らず、それで居て技を伝授した理由だった。飛揚は青松の実の息子であり、武当派総帥としての青松の存在を根底から揺るがすものだった…この分だと母親は無敵門の妻・沈曼君(梁淑荘)だろうか。配役でも別人を使っていたのでてっきり黒衣人と青松は別人かと思っていたのだが…なかなかやってくれる。で、飛揚が武当山から命からがら逃げ出して江湖に身を置く事になるのが今回見た分なのだが、飛揚の命を何故か狙う無敵門の毒使いの存在が良く判らない(勿論演出上も。武侠小説では度々この手の超絶暗殺者が出て来るが画像化すると怪しいにも程がある)。飛揚はその立場上、別段武当派にとっては重要人物でもなんでもない(青松にとっては違うが)、一介の青年である。それを何故に狙うのか…今後の話の中でそれはおいおい判るかもしれないが、時々連続ドラマは当初の設定を忘れてぶち壊す事態が発生するので油断は出来ない。この番組が放映されていた1979年当時はビデオチェックなどと言うものが一般には出回っていないし、且つ亞洲の香港テレビにおける位置付けを鑑みると受けを取る為に適当に演出を変えた可能性が否定できないのである(劍嘯江湖あたりはどうもそれくさい)。
 他の見所はやはり玉書が物凄い勢いで総帥まで上り詰めた件だろうか(第十二話)。愛する?女性を振り切って、『武当派は僕を必要としているんだ…判ってくれ、婉兒』などと言いつつすぱっと彼女と手を切って…ないが…総帥の座にまんまと納まってしまった。武当派は人材不足であると断言出来てしまう問題ある演出であろう。玉書が来てどれだけの日数が経ったのか定かではないが、よく他の人間も納得するものである。尤も、甘い汁に預かろうと姑息に尻尾を振る赤松らも問題があるが…で、天蚕拳はどうなった?今回全く触れられていないぞおい。

第十三〜十五回

 たった一人逃亡の途に着く飛揚は、自分が嘗て幼い頃育った村を訪れた。そこで彼が知ったのは、青松こそが己の父親であったと云う衝撃の事実だった。彼はその場に留まり斬った張ったの世界から縁の無い生活をしようと試みるが、飛揚の出自を知って後顧の憂いを絶つべく寒潭が放った刺客の手によって縁者は虐殺され、彼は再び逃亡生活を余儀なくされてしまった。何処をどう逃げたのか判らぬまま、気を失った飛揚は、海底神龍(呉桐)に命を救われる。彼はあの中途半端な自己陶酔者・管中流の師叔に当たる人物だった。嘗て飛揚に痛い目に合わされた事のある中流は、難癖を付けて彼を追い出そうとするが…

 今回物語の展開上、飛揚本人がそう目立つ活躍をしたようには思えなかった。中流との試合くらいであとは引っ繰り返っていたせいだろう。今回なんだかんだで目立っていたのは獨孤無敵である。内功の修行の最中に彼の脳裏に現れた、青松と妻が逢引して自分を嘲る幻に耐えられず修行を中断し逆上し娘に八つ当たりする(その直後娘は家出)のは何か見ていて痛々しい。この無敵を演じているのは『精武門』の武田氏その人なのだが、当時の彼はすらりとしていて切れ長の眼差しのクールガイである。基本的に武田氏と性格が似ていて、普段は物静かだが腹の中にストレスを貯めまくってしまいに爆発するあたりも同じである。あと、鳳に妹弟子に対して以上の心情を抱く公孫弘も何か切なくてよい。彼は『精武門』の蔡金虎とは役柄が違って、強いけれどもナイーブな人物を演じている。武当派七星陣を破ろうと鳳と共に励むものの、鳳が修行を投げ出してしまい右往左往する様も可愛らしい。今の劉錫賢みたいなものか。それにしても、飛揚が逃走の途中でそうと知らず出遭った寒潭の娘・傅香君(余安安)にも惚れられるし、飛揚のモテモテ振りには羨望の念を禁じえない。徐少強、本当にこの頃は青年スターだったんだな、としみじみ思う。

第十六〜十八回

 父親と喧嘩して家を飛び出した鳳は、管中流とその仲間に突如襲撃を受けた。中流の師匠が獨孤無敵によって惨殺されてしまったせいである。無敵は中流の師匠に、このまま覇道を進むか人々に愛される道を行くか問い掛けられ、彼の見せた幻に逆上してしまったのだ。中流はその事を知るや否や復讐の旅に出るが、間も無く無敵以外の下手人一行と鉢合わせしてその戦力を半減させてしまう。その鬱憤は丁度一人で出歩いていた彼女に向かったのだった。怒りに燃えた中流の猛攻で負傷し、身動きの取れぬ彼女は死を覚悟するが、丁度そこに居合わせた飛揚が彼を撃退した。傷の為意識を失った彼女は自分を救った覆面の青年が飛揚だとは全く気付かず、懸命に彼女の身を気遣う飛揚を単に気の優しい朴訥な男だと考えて、身寄りの無い飛揚を無敵門の雑用係として雇う事にした。
 同じ頃、武当派総帥の座を手に入れた玉書は、師叔の燕冲天と婉兒を伴い、飛揚の逃げ先を突き止めようと商人護衛で知られる金刀家に依頼しようと訪れていた。しかし、玉書の陰謀は更に次の段階に進もうとしていたのである…

 今回、無敵が逆上して武林の人間を完全に敵に廻す件が語られている。中流の師匠も、しょうもない幻を見せて無敵を煽りさえしなければ良かったものを。普通の人間ならば兎も角、相手は武田氏と同じキャラクター設定の無敵である。ぶち切れるのは自明の理だったのに…人を見る目が無かったとしか思えん。まあ、腐った性格の管中流を弟子に取った時点で推して知る可と云ったところか。で、その管中流が師匠の死に怒りを爆発させて復讐を誓うそばから無敵門の人間に次々に戦力を減らされるあたりもなかなかに深いものがある。中流には琴持と剣持の二人の小姓が付いていた(多分色小姓だろうと推察される)が、そのうち剣持が殺されて彼が師匠が殺害された以上に悲しんでいる(人一倍潔癖な彼が死体を担いでウロウロする事からもそれが判る)のが何とも云えない物がある。それにしても、この手の中国時代物に出てくる貴公子然とした輩には全く生活観が感じられない。日本のそれと比較しても尚奇妙に見えるのだから凄いとしか言いようが無い。とてもじゃないが長旅にそれは無いだろ…
 で、飛揚はそんな馬鹿中流を例によってしばき倒す役柄である。どうも彼にだけはやたらと強いような印象を受けるのは気のせいだろうか。今回、玉書の暗黒面がついに婉兒の知るところとなってしまったがそれがどのように動くのかは判らない。彼の悪を知りつつやはり惚れた弱みで付いて行くのか、それとも一気に憎悪に転じるのか…今後の展開が気になる部分である。…天蚕拳はどうした?

第十九〜二十一回

 無敵門配下の薬屋で働く事になった飛揚は、日々の生活に困る事も無くなったが、武当山に居た時のように武功も出来ない振りを続け、且つ偽名まで使って己の正体を隠し通す腹積もりだった。しかし、好事魔多しとはこの事、ふとした事で顔ナシが飛揚を発見しその行方を玉書に知らせてしまう。そして、最初は嫉妬からとはいえ、公孫弘の放った飛刀を彼が奇妙な構えで躱した事から彼の武術の出所が知れてしまい、玉書の一計と公孫弘の行動が奇しくも一致し、飛揚の正体は即座に露見してしまった。自分が謀られていた事を驚き怒る鳳を尻目に、無敵は飛揚を武当派のスパイと断定し飛揚に決闘を挑む。如何せん中流辺りには楽勝の彼でも、無敵には叶う筈も無い。飛揚は無敵の必殺の一撃を食らい命は助かったものの、最早武術もへったくれもない、廃人同様の身に落とされ無敵門を叩き出されてしまった…

 今回の飛揚の受けた仕打ちは半ば自業自得の感が否めなくも無い。状況だけを抜き出してみると、身分を偽って自分の門派の大敵の娘を救って信用を得て、更に自分の実力も隠してそこに潜り込む…誰が見ても一人前のスパイ行為なのは一目瞭然である。何せ、本編中で既に玉書が同様の計略を実行して武当派をまんまと乗っ取ってしまったのであるからもうどうしようもない。結局玉書と違って組織の後押しが無かったのと、しなくても良い行動をつい過去からの経験で選んでしまった飛揚が愚かだったというべきだろう。それにしても公孫弘、厳つい面の癖に人間が小さいなあ。無敵門下にもまともな人間は居なくも無いが、上層部がこんなのばかりだとやはり組織は纏まるまい。前の話で無敵に敵を作るなと諭して殺された坊主が居たが、結局その通りの落ちが待っているパターンだなこれは。
 今回笑えたのは、所謂祈祷師が呂家(飛揚が次に転がり込んだ家。そこの娘がどうも発狂しているようだ)で悪魔払いをかまそうとするものの、その発狂したが故の娘の哄笑に耐えられなくなって一斉に尻に帆掛けて逃げ出すあたりか。少しはエクソシストの神父を見習えよ…

第二十二〜二十四回

 一切の武術行使能力を失ってしまった飛揚は、死に掛けている所を呂老人に救われる。幸い一般生活を営むには支障の無い事を知った飛揚は、元々の素質もあり呂老人の助けもあり、医学書を読む日々を過ごす。この高徳な呂老人には一人の娘が居るのだが、心を病んでおりそれが彼の気掛かりだった。飛揚は彼女を一見してそれが本当の病気でない事を見て取り、呂老人にそれを話した。実は、彼女には無敵門下の男・ダンが付き纏っており、その魔手から逃れようとしていたのである。呂老人は武術と縁の無い于(飛揚の偽名。又かい!)を気に入り、娘を嫁がせて事無きを得ようと考え、飛揚も恩義からそれを承諾するが、肝心な時にダンが乱入、娘は拉致され飛揚はあわや生き埋めにされかける。だがすんでの所で鳳が飛揚を探している事を知る者が彼を救い、鳳の所に連行していった…どうする飛揚!

 相変わらず正体隠しに汲々としながらも直ぐに正体が露呈する飛揚。同じ事ならば隠さんでも良いのにと突っ込み入れずには居られない。しかも今回に至っては一切の反抗も出来ずにやられ放題である。これはこれで面白いのだが…。で、無敵門に引っ立てられて鳳と再会するのだが、縛られて「チキショウ無敵門め、体が完全ならば全員叩き殺してくれる!」と喚いた傍から「やって御覧なさいな」と鳳が出てきて狼狽する件が何となく笑える。今回鳳は実に漢らしく、惚れた男の妻になるかも知れぬ女性(尤もこの物語にしては飛揚に惚れていない)の為に色々援助してしまう。この時、仏頂面を崩さないのも彼女らしくて良い。
 今回の最大の笑いどころは、無敵門下の人間が徒党を組んで移動する場面で水戸黄門の劇中音楽が掛かる事である。悪代官御一行にしか見えない(そう考えながら見ていると一行の構成員がいつもの悪人に見えてくる…)よ、無敵門。

第二十五〜二十七回

 前回の話と重なるようにして、武林の凄腕・子母金環(朱鐵和)が苦労して『氷山雪蓮』なる霊験ある花を入手した事を知った獨孤無敵や寒潭が手下を動員して次々に彼とその部下を襲撃する。寒潭の配下最強四人の一人、『雨』は金環の一人を催眠術に掛けて篭絡し、戦闘の最中に奪取させる事にまんまと成功した。だが、寒潭の娘・傅香君(余安安)に渡すべく掛けた術が災いし、本来花を渡すべき「鈴を持った美人」を術に掛けられた男が認識する能力も失ってしまい、鈴を託された飛揚がその花を食わされる羽目に。見る間に彼の体温は低下し只でさえ常人程度の体力しか持ち合わせていない今の飛揚は息も絶え絶えの状態となってしまう。自分が良かれと思ってした筈が却って彼を窮地に追いやった事に愕然とした傅香君は何とか彼を助けようと温泉地まで彼を連れて行くのだった…

 今回の『何でやねん!』は、氷山雪蓮を巡る攻防において、飛揚が花を食わされる場面がその一、その二が体温低下の演出である。そもそもこのドラマはさらりととんでもない演出をしてしまう(そこが一つの魅力でもあるのだが)のが当たり前であるが…まず、飛揚が花を食わされるところで、何故に無理やり口に押し込められにゃいかんのだ。その花は傅香君に渡すものだった筈なんだが…幾ら物語上飛揚の復活を加速させるものとは言え無理があり過ぎる。もう一つは彼の低下した体温を暖めるべく出した白湯を一瞬にして凍らせる演出…お前は何者だ?最早大爆笑である。金庸の小説で同様の描写は時々出てくるが流石にそれは如何だろう。その他にも今回見た分は力技が多かった。
 後は、あのナルシス管中流が回族の女性・依貝莎(蔡(王京)輝)に惚れた事+野心で、回族の武術の使い手・黒摩勒(麦天恩)白摩勒(金山)に弟子入りを願った挙句イビリ倒された挙句死に掛ける件だろうか。このキャラクターが今までやって来た所業を鑑みると因果応報の四文字が頭の中を駆け巡る…

第二十八〜三十回

 傅香君の助けで絶えず高温が供給される温泉地に辿り着いた飛揚は、そこで寒毒の中和と失った武功の復活を求めて静養の日々を送った。その甲斐あってついに彼の失われた武功は完全に取り戻され、そして氷山雪蓮の力で以前よりも更に強力な武術を使えるようになったのである。だが、それは同時に傅香君にとっては父の仇(己の兄)を討つ決意を固めた飛揚の傍から離れなくてはならぬ時でもあった。傅香君は寒潭に雪蓮は得られなかったと虚偽の報告を行うが、自分の催眠術に自信を持つ『雨』他四大護法は傅香君が何者かに雪蓮を与えたに違いないといぶかしむのだった。その頃、依貝莎と共に白黒雙魔の手から秘伝書を盗んで逃げ出した管中流は、海底神龍達の所にまで逃げ込むが…

 漸く?飛揚が本来の力を取り戻し、更に力を得た。これで彼が主役のアクションシーンが増えると言うものである。今回分で天蚕拳の要訣が漸くにして玉書に解読され、後に飛揚がそれを得る為の布石となると予想され、今後の展開がテンポ良くなる事が期待される。父親の形見のへんてこ針金仮面で顔を隠し何処にでも現れる飛揚(結局中流、依貝莎の二人を白黒雙魔から助けたのも彼である…ひょっとして物凄く狭い地域で展開されているのか?)だが、その正体がレギュラー陣の人達には全てばればれなのは如何なものか。尤もあの声と背丈、長髪で判らない人間も居なかろうて。青松も何を形見にしてるんだか。
 で、飛揚とは別に笑い担当だったのが中流。海底神龍の所に転がり込んだものの、白黒雙魔の秘伝書をパクった挙句、二人の弟子と駆け落ちしたなど云える訳も無く適当に誤魔化していたら二人はやってくるし、散々である(この辺からも物語が武当山近所だけで展開されているらしい事が垣間見る事が出来る)。  それにしても、飛揚と関る女性ってのは皆彼と対立する側の人間しか出てこないのは何故だろうか。傅香君は父殺しの仇の妹だし、鳳は父の大敵の娘だし(下手をすると実の妹…)、婉兒は勝手に敵視するし…狙ってるとは言え、まさにこれでもか状態だ…

第三十一〜三十三回

 力を取り戻した飛揚は武当山に赴き、現総帥・玉書に、父の敵とも知らずに事情を話し、玉書は師叔・燕冲天と婉兒が殺されたと虚言を弄し、寒潭配下の四大護法達の待ち構える罠に引き込む事に成功するが、白黒雙魔すら撃退した今の飛揚の敵では無かった。その場に現れた傅香君から沖天が存命である事を知った飛揚は彼を助け出し、毒に侵された傅香君を伴って海底神龍のところへ脱出した。傅香君は神龍の医術により落命を取り留め、沖天は先の一戦から以前の様には戦う事も出来ない身となったが、それでも事態は遥かにマシなものとなった。飛揚は父殺しの犯人が玉書らに拠るものと知り、怒りを燃やすが、まずは燕沖天を救うべく薬草を取りに日本?に向けて旅立っていった…

 扶桑って日本の事を指しているのだけれど…。一応忍者か剣術者でも出てこないかと希望するのだが、日本編があるかどうか殆ど期待できないのが残念である。程小東がアクション担当している話が割とあるので全くゼロとは云えないのだが…で、三十三話には主人公が全く出て来なかった。この話で海底神龍は峨嵋派乗っ取りを企てた管中流を討とうとしてほんの一瞬見せた情が仇となり殺害され、峨嵋派総帥の座を得た中流は自分達と同様打倒・無敵門を掲げる武当派に近付き、極悪タッグを組んでしまうので、飛揚にとっては恐らく面倒極まりない状態になってしまった。鳳と傅香君はそれぞれ父に逆らった為に同門から追われる身となるし(鳳に至っては公孫弘との結婚話から逃げた結果、殺害命令すら出る始末。どっちに転んでも公孫弘は…哀れ)、事態の収拾は死人が出ない限り無理そうだ。よくこんなドロドロの話作ったな。

第三十四〜三十六回

 薬草を入手して戻った飛揚を待っていたのは、鳳と公孫弘の婚礼の知らせであった。鳳は飛揚が居ない間に傅香君と誼を通じ義姉妹の契りすら結んでいたが、傅香君と己の想い人が同一人物である事に気付いた時、一人無敵門に戻ったのだった。公孫弘は鳳の助命嘆願の為に己の身に剣を突き刺し、命を賭して彼女を救った事で無敵の許しを受けたのである。婚礼の事を知った飛揚は居ても立っても居られず、傅香君の気持ちも知らず、何の勝算も無しに無敵門にたった一人で乗り込んで行く。しかし、幾ら氷山雪蓮の力で以前よりも功力が増したと言っても、彼の実力は未だ獨孤無敵には程遠く、再び敗北を味わってしまう。以前よりも功力を増した飛揚に言い知れぬ不安を抱いた無敵は即座に彼を殺そうとしたが、鳳と彼女を助けようとした公孫弘のせいで飛揚はまんまとその場を逃れたのだった。無敵は飛揚を追殺する為に動員命令を下したが、彼の行方は杳として知れなかった。それもその筈、彼は獨孤夫人の所に潜り込んでいたのである。夫人は彼の持つお守りに見覚えが有った…

 傅香君と鳳が出会った事で、飛揚の『程々に楽しくお付き合い』作戦?は完全に破綻を来してしまった。そりゃ彼は決定的な「好きだ」と言う言葉は発していなかったが、今迄の彼の取った八方美人そのものの態度がこの事態を生んだのは間違いない。それどころか、飛揚は鳳の事を好きだから助けに行くと傅香君の目前できっぱり云ってしまったせいで彼女は放心状態で行動不能になるし、鳳と飛揚が腹違いの兄妹である事もほぼ確定してしまい、バッドエンドも見えてしまった(飛揚本人は未知)。獨孤無敵の強さは大ボスとしての役割柄更に強化されてどれほど強いのかさっぱり判らなくなって、白黒雙魔を手玉に取った飛揚Ver.2すら相手にならない(尤も飛揚も一撃で廃人化しない程度には打たれ強くなったようだが)程である。玉書や中流が手勢を率いて押掛けたとしてもこの分じゃ全く問題なさげな様相を呈している。
 それにしても、鳳の命を救う為に己が身に剣を付き立てた公孫弘程の漢が、父との賭けで態と顔に傷を付けた鳳の恫喝『これでも私を愛せるの!』にびびって何の声も掛けられずに、彼女を賭けに勝たせてしまうのは如何なものか。幾ら何でも顔に三本傷が付いただけでそこまで引くか?折角35話で漢を上げたのに台無しだよ…

第三十七〜三十九回

 玉書が無敵門を如何にして叩き潰すか思案している最中に、管中流が峨嵋派の総帥として共に手を携えて無敵門を倒そうと持ち掛けてきた。元々、武当と無敵門は決闘を行う予定だったので玉書は一計を案じ、獨孤無敵との試合に武当弟子を伏兵として使う事にし、その間に中流以下の峨嵋派を無敵門にぶつけると言う残虐非道な作戦を実行する。折り良く獨孤夫人は飛揚を救うべく無敵門から小間使いと共に飛揚を伴って脱出、鳳も既に離れていたお蔭で難を逃れたが、無敵門下は悉く誅戮され、無敵も寒潭らの援助を受けて武当派奥義を繰り出す玉書の前に追い詰められ、崖下に身を躍らせたのだった。無敵門は壊滅し、これで師匠の仇を討てたと喜んだ中流。だが、無敵門が無くなった今、玉書はこれ以上羊の皮を被る必要が無くなったと見て取り、次に油断した峨嵋派を襲い、逃亡した中流を一人残して全滅させてしまう。そればかりか、自分が寒潭の身内である事を明かして武当派も壊滅させてしまったのである…

 玉書の見事すぎるタイミングでの裏切り行為には思わず笑ってしまう。中流も似たような事やってるんだから少しは気付いても良さそうなもんだが…今回見直したのは、武当派の中で玉書に煽てられて最初に彼についた青松の弟弟子二人のうち、赤松が最後に漢気を出して「武当の掟に背く事、自刃あるのみ!」と自殺した事か。蒼松がとっとと恭順の意を示したのに対して、彼はあくまでも武当派の為と信じて動いていたと言うのは中々見せてくれた。それにしても鳳の家出と夫人の脱出劇がこのような形で関りを持つとは正直思わなかった。物凄いご都合主義の発露ではある。で、主人公・飛揚は又半死人状態で転がったままで、結局まともに言葉すら話していなかった。本当に主人公か?飛揚よ。今回はどちらかと言うと中流に重点を置いて物語が進んでいた。寒潭配下に殺されそうになった貝莎を救う為、颯爽と…は云い難いぼろぼろの姿で現れ、風雷雨電の四人衆を相手に戦う彼は今迄で最もカッコ良い。額には玉書に付けられた斜め一閃の剣傷が大きく付けられ、渋さも倍増。このまま彼は善人として動いてくれれば良いと思うけれど…どうかなあ。

第四十〜四十二回

 夫人は半死人状態である飛揚と共に無敵門壊滅の直前に脱出する事が出来た。しかし、彼女の力を以てしても彼の容態は決して良くはならなかった。そこで彼女は一か八かの賭けで青松から託された秘伝・天蠶訣を彼に教えた。同じ頃、自力回復が最早絶望的となった沖天も又、一度仮死状態となった後に天蠶神功によってその力を甦らせた。天蠶訣は一度内功を消失させる危険を犯さねば決して実行できるものではなかったが、奇しくもこの二人はそれを可能とする肉体状態にあったのである。二人は急激に若返りし、白髪の老人だった沖天は壮年の域にまで、飛揚に至っては少年時代まで遡ってしまった(ついでに役者も変わってしまった…何てこったい)。沖天は亡き子母金環の息子を伴い武当山へ叛徒・玉書を倒すべく殴りこんだが、玉書は天蠶神功を身に付け更に若返った事で己よりも遥かに強くなった沖天と対峙し、状況不利と見るやすぐさま逃亡した。残った弟子たちを救った沖天はそこで、同じく武当山に現れた飛揚と再会を果たしたのだった…

 なななな何だこれは?と言うのが今回分の感想。墓を爆破して沖天は復活(荼毘に付されてたらと思うと洒落にもならんが道教だしな)、飛揚も繭を爆破して復活…何かを破壊しなければならんとは実に迷惑な技だ。何よりも問題なのは徐少強でなくなってしまった事が一番痛い。ついでに言えば、飛揚が十台(前半?)の子供になった事を知らぬ傅香君と鳳の二人がこの事実を知ればどうなるか…あんまり考えたくない展開がつい頭に浮かんでしまう。それにしても鳳は何時まで顔を隠し続けるのだろうか。顔隠した状態で金環から子供の世話まで言い付かった為にもう今更引っ込みが付かなくなってしまったんだろうか。今回、玉書が武当派の秘拳を身に付けながらも沖天にぼろ負けした所を見ると、やはり武当派の技は内功の強さに比例して強くなるのだなあと納得してしまったが、彼の強さも海底神龍と同じくらい好い加減なのであと二十話近く生き残るか怪しいものである。それから、ちょっと男前になった中流だが、やられメークを落としていつもの服に戻った(何故か額の傷までなくなった)途端に元の酷い奴に戻ってしまった。…可哀相な伊貝莎。

第四十三〜四十五回

 若返った飛揚を見た傅香君と鳳は案の定彼を認識できず一悶着起こるがそれよりも、尚悪い事に二人ともが相手を慮ってほぼ同時に飛揚の元から去ってしまったのである。悲しみに暮れる飛揚を前に、沖天は今は寒潭一派を無敵門跡地から追い出す事だと諭した。子母金環の息子・陸丹は間接的とは言え父の死に関り、且つ鳳の思い人である事への嫉妬から飛揚を仇と思い定めて沖天の忠告にも耳を貸さなかった。同じ頃、功力を七割方取り戻した獨孤無敵は公孫弘と共に捲土重来を目論見、鳳と共に乗り込んだ。だが玉書は無敵が戻ってくる事を見越して枢仕掛けの罠を仕掛け、三人を捕らえた。その事を知った飛揚はたった一人で敵地に乗り込み三人を助けると、後から追い付いた沖天ら武当派の仲間と共に一大攻勢を仕掛ける。その結果寒潭と玉書は逃げ果せたが、その配下は護法も含めて全滅した。脱出の際に重傷を負った無敵は沖天によって処刑されようとしたが、鳳と飛揚の懇願の甲斐あって結局命は救われ、飛揚は改めて求婚の意思を鳳に告げ、当初拒絶を示していた鳳もついに同意する。だが…

 ああ、もう徐少強as雲飛揚を見る事は叶わないのか。後十数話もあると言うのに…。こんな話になるとは聞いてねーぞど畜生め。こうなると親しみのもてる公孫弘や無敵を目当てに見るしかないような気がしてきた。この若返った飛揚はとてつもなく強いんだけれど、頭の中身も小僧化してしまったようで鳳に「何故居なくなったんだ!?」って…しまった、あんまり中身は変わってなかったかも知れない。あの台詞を吐いた時点で飛揚が八方美人だと言う事が再確認されてしまった。この後当然の如く鳳は怒るのだがそれはご尤もとしか言いようがない。公孫弘が致命的なボケをかまさなければまだ救いはあったのに…45話の時点で、獨孤夫人が鳳との御付き合いの事を傅香君に聞かされた上に彼が青松の子である事を知り愕然とするベタな展開があったので、もうご破算は確定である。同腹の兄妹が結婚するなんて以ての外、当事者二人が傷付くのは勿論だが、その周囲の人間特に公孫弘はやりきれまい。今回公孫弘はあのボケが唯単に気が動転しただけだった事が発覚したのだが(この時の飛揚とのやり取り「お前はあの顔の彼女を娶るのか?」「俺が好きなのは彼女の人となりであって顔じゃない。あんたは彼女の顔が好きだったのか?」「いや…」が泣かせる)、それだけに余計に哀れである。

第四十六〜四十八回

 新疆人の玄陰公主(張[王馬]莉)は(中原に来る外国人御決りの)中原武林支配を目論見、その為の手駒として伊貝莎と管中流を従えたが、中流は持ち前の狡賢さから簡単に玄陰公主に取り入りその力を徐々に増大させる方向に進み始めた。伊貝莎は夫の野心に不安を抱き、何とか玄陰公主の手から逃れようと画策するが、二人には正体不明の秘毒が盛られており、おいそれと逃げ出す事は叶わなかった。
 その頃、飛揚と鳳の婚礼の儀が粛々と進められ二人は幸せの最中にあったが、獨孤夫人が現れて二人が同腹の兄妹関係である事を暴露してしまい、一転して奈落の底に突き落とされてしまう。そう、無敵が二人の結婚を許したのはこの事を知っていたからに他ならなかった。彼は青松と夫人に対する復讐心から自分の娘すらも犠牲にしてしまったのである。鳳は半狂乱で何処へともなく走り去り、残された飛揚は怒りで我を忘れ無敵に挑みかかるが、公孫弘が身を呈して己の命と引き換えに無敵を逃がした。そして、寒潭老人と玉書は逃亡の最中、玄陰公主の妹と中流に発見され…

 そろそろ物語の〆に向かって登場人物の整理に動き出したな、と言うのが素直な感想である。ここ数話で寒潭一派は玉書(と傅香君)を除き全滅、無敵門は獨孤家族除いて壊滅、白黒双魔も48話にて玉書の手に掛かり死亡…やれやれ。中流はこちらの期待通りに良く判らん強さのまま世の中渡ってるのが面白い。き奴はは方便を使いながら玄陰公主を篭絡する事に成功してなにやら怪しげな関係になってるし、黒白の二人を言葉巧みに煽って公主暗殺計画を目論ませておきながら、それを潰して公主の誅戮許可を貰って嬉々として殺しに掛かるし…白黒の二人って物語を通じて全く良い事なかったな。救いは伊貝莎が何だかんだ云っても師匠思いで墓建てた事くらいである。中流が成り上がって行けば行く程、その嫁である伊貝莎の立場がどんどんなくなっていくのは見ていて悲しい。本作で出てくる女性でまともに幸せな女性は一人も居ない。最終話で主要登場人物のうち何人がハッピーエンドになるのかさっぱり判らない。結局皆不幸と言うパターンも予想出来なくも無いのだが、幾ら何でもそれは酷いなと思いつつ、残りの話に期待せねばなるまい。徐少強の出番があるのかどうかも気になるところである。それにしても今回、玄陰公主等の住んでる所が中々笑かしてくれた。白亜の聖堂の屋根に燦然と輝く十字架…そいつはどう見てもキリスト教の教会だぞおい。幾ら何でもそれはないだろ。

第四十九〜五十一回

 主人公不在のまま物語は続く。寒潭一派を壊滅させた玄陰公主らは調子付いて武当山を次の標的として定めた。目的は一つ、沖天の抹殺と武当派殲滅である。そして、武術の腕を競うという名目で玄陰公主が沖天と試合をしている間に中流が毒香を焚いて全員を中毒させる事に成功した。その頃、伊貝莎とひょんな事で知り合いになった傅香君は、玄陰公主の体の具合を見るという名目で伊貝莎達が投与された毒を解毒する為の方策を探る為、身分を偽って新疆人らの中に潜入した。玄陰公主はその医術に感心し気を許したが、彼女がいざ離れる段になると、口封じの為に件の毒を飲ませるのだった。傅香君は毒の進行を遅らせる薬は得たものの解毒と言うまでには至らず、生命の危機が徐々に迫っていた。何とか武当山に辿り着いた傅香君は、沖天の指示のまま武当山に伝わる解毒の秘薬を飲み、そのお蔭で命を落とさずに済んだが、その薬は一つしかなく、沖天は彼女に後事を託すと従容として己の死を迎えたのだった…

 ついに沖天死亡に続き、伊貝莎迄が死亡してしまった(あと無敵門お抱えの医者も)。これで残るレギュラーはもうここ数話姿を見ていない飛揚に鳳、傅香君、玉書、子母金環の息子の陸丹、獨孤無敵と中流、玄陰公主それに武当派十把一柄げの皆さんだけとなってしまった。幾ら何でもここ数話の展開は酷い。殺し過ぎである。特に伊貝莎の死に方は余りにも悲しい。夫・中流が玄陰公主とのっぴきならない関係にまで発展した事を知った彼女は毒薬を酒に混ぜて無理心中を図ったものの、既に玄陰公主から解毒薬を渡されていた中流は死んだ振りで彼女だけあの世行き…救われない。この直後、玄陰公主が「私らの秘密を伊貝莎に知られる訳には行かない」と洩らすと「死人が秘密を知る事はありませんよ」と冷たく笑う中流のシーンがあり、判ってはいるものの慄然とさせられる。玉書を超えるド外道振りをこれでもかと見せ付けてくれる。今回他に強烈だったのは、鳳がまだ先の戦いの傷が完治し切っていない無敵の所に殴りこんだ時に「殺したいのならば殺しなさい。だが私も人だ。ああせずには居られなかった云々」と言っておきながら、情に負けて去った鳳の姿が見えなくなった事を確認すると「儂に人の心などあるものか」とにやりとするシーン。こんなのばっかりだ、このドラマ。

第五十二〜五十四回

 陸丹は父の仇と定めた(本当は逆恨み)飛揚を求めて武当山の近辺を捜索していたが、その際に偶然玉書と出会う。玉書が武当派に壊滅的打撃を与えた張本人である事も知らず、彼は玉書の口車に乗って飛揚を武当派の仇としても認識してしまい、その仲間となってしまう。玉書は己の正体を隠し、飛揚に対する駒として陸丹を仕立て上げる為に武当山の隠された奥義を伝授するが、いざ飛揚と相対した時に飛揚が「こいつこそ武当山を滅ぼした張本人・傳玉書ではないか!」と叫んだ為に陸丹の拳が鈍り、玉書の目論みも泡と消えてしまう。飛揚の執拗な追撃を躱べく逃げ込んだ民家で玉書は泣き叫ぶ赤子を邪魔だとばかりに一撃の下に殺してしまうが、そこの夫人が「婉兒さん、貴女の子供を預ると言って置きながら死なせてしまった…」と嘆いた事から、自分の殺した赤子が自分の血を受けた実の子供である事を知り愕然とする。婉兒は心労の果てにこの民家で子を産むと直ぐに死んでしまったと言うのである。余りの衝撃に半狂乱となった玉書は飛揚を探すが既にその姿は無く、そして己の疚しさから婉兒の幻に苦しみ意識を失ってしまう…

 今迄婉兒の消息が判らんなーと思っていたら、このような形になってしまった。玉書は54話ですぐに立ち直ってしまうが、そうした無情さが余計に赤子と婉兒を哀れなものにしている。どうもこのドラマでは悪役に恋した女性は碌な死に方をしない様である。飛揚の母親もあの近親結婚騒ぎの際に自殺してしまったし。今回分で玉書らとは別に、功力が回復した無敵が再び無敵門を立ち上げようと行動を開始する件が語られるが、この時無敵門が潰れた結果嘗ての彼の知人が掌を返したように彼を完全に乞食扱いし、終いには野良仕事する連中の昼飯を失敬してがっつく嵌めに陥る無敵が笑える。社会的立場は無くなっても彼の恐るべき功力は失われていないのだから、乞食扱いと言うわけにもいかんだろうに…殺されるやも知れないというのに。結局チンピラの命を気まぐれで救ってやった事から「兄貴!付いて行きます!」と自ら手下になる事を申し出られた無敵は再び失っていた自信を取り戻し、元の性格に戻った…と思っていたのだが何だか人間が丸くなっていた。彼の新たなる手下であるチンピラは口だけで世の中を渡ってきただけの、どうしようもなく使えない人間ばかりなのだが(嘗ての彼なら一撃の下に殺害している筈なのに)ワンチャンス与えて殺さなかったり、盆栽の手入れをしたり…何だか別人のようだ。

第五十五〜五十七回

 飛揚は玄陰公主の中原制覇の野望を阻止せんと彼女の拠点へと足を運び、五十年前の先例を持ち出して互いの主張と命を掛けた決闘を行う事で何とか事無きを得た。同じころ獨孤無敵も又玄陰公主の所に現れ、覆面の側近としてその配下に加わっていた。彼は飛揚の前ですらその正体を隠し通し、また公主に取り入って中流の焦りを増加させた。その結果中流は自滅的行動を取ってしまい、誰からも追われる身となってしまい、この状況を打開せんと中流が考え出したのは、天蠶功を飛揚から聞き出し己のものとする事であった。偶然見つけた鳳を人質にしようと追い掛け回した中流は、物のついでで彼女を手篭めにしようと企むが、彼女は兄(飛揚)が必ず自分の仇を討つと言い残して崖から身を躍らせた。程なくしてそこに現れた武当派の面々に取り囲まれた中流は人生最大の博打を打つ。彼女が残した刀を飛揚と陸丹に見せ、「天蠶功を私に教えろ、さもなくば鳳は…」と、さも自分が彼女を人質にしているが如く振舞って飛揚から天蠶功を教えてもらわんと画策したのである。己の秘術を教えるべきか否かで悩む飛揚…

 現在のところ如何なる腹積もりで玄陰公主の傍で側近として獨孤無敵が振舞うのはサッパリ判らない。本作品においては(筆者の広東語聞き取り能力の問題もあるが)唐突にキャラクターが消えたり出たりしてその物語の伏線が後から語られるというパターンが良く出てくるが、これもそうしたものの一つなのだろう。で、今回粘るなーと思ったのが中流。獨孤無敵の出現により焦った彼が余りの恐怖からやけを起こして玄陰公主を殺害しようとしたものの、却って覆面無敵に信頼を寄せる結果となり、ほうほうの体で逃げ出したにも拘らず、直ぐに鳳を手篭めにしようと動く彼の無節操さとふてぶてしさには恐れ入る。全く以て自分が悪いとかそう云う惰弱な思考に行かない(行くと玉書と被るからだと思うが)のは悪役として非常に強烈で良い。この物語には掬いようの無い悪党が三人(無敵・玉書・中流)出て来るがそれぞれが方向性が違うと言うのが面白い。他に特筆すべき点は別に無く、こちらとしては後残す三話で徐少強の再登場を願うのみ。

第五十八〜最終六十回NEW!

 天蠶功を教えろと迫る中流に対して、飛揚が悩んだ末に得た結論、それは大義の為に中流を抹殺する事だった。最早心身ともに疲れ果てた中流が飛揚の敵になるはずもなく、戦いはあっさりと決着が付いた。中流はひとしきり飛揚に対して逆恨みとしか取れない暴言を吐きまくった後、鳳が身を投げた事を告げると自刃した。余りの遣る瀬無さに飛揚は更に心を傷付けるが、玄陰公主達の中原制覇を食い止めると言う彼に課せられた使命はまだ達せられては居ない。彼は残った武林の名派に連絡し、来るべき時に備えるよう動き始めた…

 コメントは一つ。徐少強はついに帰ってきませんでした。

責任者出て来い!

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