大顎鎧獣との戦闘は二分弱で片付いた。被害は大した物にはならなかった。肉体的損害はロザリアの治癒術によって癒され得るもので済み、物的損害もアボットの鎧が一部欠損しただけで然程深刻なものでは無かったからである。しかし、マイロンだけは塞ぎ込んでいた。知識では既に知っていたにも関わらず、彼は敵の術中に嵌り命を捨てる寸前だった、その事が彼の自尊心を更に傷付けていたのである。とは云え、マイロンのような人物には慰めは却って本人を惨めにさせるだけであると皆判っているので、彼らは黙って先を急ぐ事にした。
マイロンは一人呟いていた。こんな筈ではない、と。
彼の握り締めた拳の中では半端に伸びた爪が掌に突き刺さっていた。今のマイロンにはその痛みこそが必要なものに思えた。
シェリンの魔法で打ち倒された敵を検死して見ると、ショック死したそれらは頭毛の無い、濃褐色の矮人だった。平たい頭とやたらと大きな鼻が彼らの出自を物語っている。シェリン達闇仙子と地下の貴金属や希少鉱物の所有を巡って常に争っている深濃小矮Svirfneblinである。
『何だ。こいつらか』
シェリンは別段興味も無さそうに引き上げた死体を水の中に沈めようとしたが、それをロザリアが止めた。それどころか彼女は死体を担いでくれと申し出た。きちんとした場所に埋葬して欲しい、と云うのだ。
闇仙子は何を馬鹿な事を、と一笑した。こんな連中と関わり合いになれば碌な事は起こらない。それに既に死んでいるではないか。死人に関わると碌な事は無い、と彼は続けた。他の人間も同じ意見だった。彼らは闇仙子のシェリン同様この数週間の間に死と言うものに抵抗感を全く感じなくなっていた。聊か慣れ過ぎたと云うべきだろうか。
だが彼女は頑健に反対した。彼女の中でこの犠牲者達を作り出してしまった事に慙愧の念がどうしようもなく疼いた結果だった。彼女はここでこれらの死体をそのままにして行く事は自分の中の大切なものを捨てる事になる、と感じていたのである。仕方無しにシェリンは大顎鎧獣の掘った穴に死体を埋葬すれば良い、尤も埋葬と云っても岩を掘る事の適わぬ身なればそこに並べる事しか出来ないが、と告げた。こんな事で時間を食うのは癪だったが彼女の真摯な瞳にシェリンは逆らう気が失せてしまった。彼はロザリアの他人に対する優しさに不可解な思いを抱いていた。同族の女舎監達にはついぞ見られない、偽りの仮面ならざる態度に。
一方、ヘルベルト達人間への反応は…
・種族修正-1
・性格倫理の違いにおける修正(彼らは他人から見てNGであっても本人はNである)+1
・姿の違いによる修正-1
・社会の違いによる修正-1
・彼らのComlinessによる修正色々(最も低いアボットで修正なし、他は+3)
…合計-2〜+1と云うことである。これに加え、ヘルベルト達は小説の中ではっきりと語られてはいないが、冒険で得た財宝を賂として彼らに渡しており、その結果反応修正は更に良好なもの(+1)へと変わっている。
シェリンのような闇仙子は地下で勢力を築いているものの、その底意地の悪い種属性だけに他人からの反応は良くない(だからと言って他だったら良いのかと言う話もあるが)。となると、シェリンは生き残りの為には賂を送って向こうのやり方に合わせ、少しでも向こうの機嫌を取るしか方策がない。補給源であるロザリアもおかしな事になっている以上、彼が自力で脱出する事が万に一つ出来たとしても、生きてエレルヘイに辿り着ける事はないだろう。結論から言うと、初見でDrowがSvirfneblinと折り合いを付ける事は不可能ではないが簡単な事では決してない。とっとと別種族の別メンバーにやってもらった方が得策である。彼らの不屈の精神はDrowをして『良い奴隷にはならぬ』と云わしめるほど頑健で、戦闘になってしまえば最早取り返しもつかない。