神劍萬里追・神捕・雙燕屠龍〜Lord of Imprisonment W〜


領銜主演 鄭少秋 徐少強 張庭 他

 『神劍萬里追』という亞州電視の古装物には他にも何篇かが存在し、何故この「W」だけがポッと発売されたのかは全く持って不明。只、エンディングの配役などを見るに、このシリーズの主役が鄭少秋であって徐少強はこの篇のメインゲストである事は確かである。何と配役のクレジットすらない!如何せん資料が無さ過ぎて其の他の事が全く判らない事が悔やまれる。だからと言って話がさっぱり…と言う訳ではないのは有り難い。徐少強が演じるのは嘗て十数年前『神眼名捕』と称された石鑄。しかし、今では老いの為に以前の様には体が動かないという設定である。このオヤジな設定、姿は上の画像を見ていただければよく判ると思うがとてもではないが『名剣』で鄭少秋と共演した時とは偉い違いである。今書いていて思い出したが『新蜀山劍侠』の時も二人の扱いは差があったなあ…。

第一話
 この物語は二十年前に都を騒がせた紅衣の女盗賊・金燕子が再び江湖に出現した事から始まる。三年前から現れたこの盗賊が官印を盗んだせいで職を失った役人が大勢居た事から、古北口護衛の責任者の縣老爺は(イ冬)林(鄭少秋)らに十日以内に彼女を引っ捕らえるよう命令を下した。そんな折、金燕子を追う捕り方役人は森の中、互いに人殺しだと罵り、殴り合う二人を見咎める。見れば二人のすぐ傍にこめかみを石で殴られて死亡している男がいるではないか。目撃者が居ない為、判断に困る役人。そこに颯爽と駱駝に乗った石鑄が現れた…。

 石鑄登場。初っ端から飛ばしてくれます。駱駝に乗って嘲り笑いを浮かべる其の怪しさ、果物を投げ遣し二人の内犯人が誰かを指摘する(利き手とこめかみの傷の方向から)場面での、さも「当然だ、ふん」みたいなでかい態度、一々見栄を切るかのように首を回す癖、しかも客桟の女将に料理について散々文句言った(酒を馬の小便か!?等と言う)挙句に、怒った従業員が傍に居なくなってから『しめしめ』と云わんばかりに料理に舌鼓を打つ…これってもしや新境地開拓?なのだろうか。今後の展開が心配だ(大きなお世話だ)。

第二話
 再び金燕子が官印を盗み出そうと現れた。が、彼女を追う(イ冬)林と石鑄の前にもう一人金燕子が現れ、戦い始めた。一体金燕子の正体とは何者なのか?といぶかしんだ彼らは、それぞれが独自の考察の結果、最近現れた足の不自由な奇術師・潘媚娘に目を付けた。(イ冬)林に対抗意識を燃やす石鑄は同じ客桟に泊まる彼女を問い詰めるが、そこの女将・海大娘(鄭佩佩)や娘の海棠(張庭)から睨まれ、客桟から追い出されてしまう。何故ならば、最近客足が遠のいていた彼女達の客桟が、彼女の芸のお陰で儲かっていたからである(無論人情も多少は含まれているだろうが)。憤懣やる方無い石鑄は何としてでも彼女を捕らえようと決心し、潘媚娘が手品を人々に見せているその場に乗り込んでいった…

 早速石鑄、第一話で見せた知的な振る舞い?は何処へやら、まるで暴力刑事の取り調べのような真似をしでかしてくれる。『お前は何者だ!?お前は何処から来た!?何故ここに来た!?…』と相手に答えさせる時間すら与えない矢継ぎ早の質問攻め、何か一言言う度に潘媚娘の顔にむさ苦しい鬚面を寄せて『んん!?』と聞いたり、完全ないじめっ子の様相を呈していた。一々芝居掛かっているこの演技、徐少強に何が起こったのだろうか。全くキャラクターと合ってないとしか言いようが無い。一体誰だ?彼にこんな役を与えたのは。徐少強がこんなのであるからかどうかは判らぬが、この物語の鄭少秋はやたらとカッコ良すぎて嫉妬してしまう。彼のストイックさ、優しさ、強さ、それら全てが妬ましい。

第三話
 第二話から登場した王爺こと朱厚顔。この化粧面(宦官ではないが口紅をさしてる)で色魔のおっさん、二十年前に金燕子に殺された父の仇を討つ為にやって来たのは良いが、その為物語が楽しく…いや混乱してきた。…其れはともかく。彼は部下に命じて金燕子を探している間(狼藉働きまくり)に海棠を見つけ、早速自分の物にしようとするが、そこに現れた(イ冬)林によって阻止される。怒った彼は彼に戦いを挑み、(イ冬)林は其れを軽くいなす。だがそこに厚顔の手下二人が毒紛を投げつけ、彼は毒に体を侵されてしまう。医者の麥東山に解毒を頼む(イ冬)林だったが、その毒の力は東山の手に負える物ではなく、このままでは三日後(イ冬)林の命はない、と告げただけだった。

 毒に侵され苦しむ鄭少秋の姿がセキシー。海棠、潘媚娘、そして本来のヒロインと思われる麥玉芝(兪小凡)に心配されてモテモテ状態。で、徐少強と言えば毒に苦しむ鄭少秋に向かってどうしようもなく意地悪な言動を吐いて女性陣全員から総スカンを食らってしまう。しかし、この話から徐少強演じる石鑄のキャラクターが魅力的なものに変わって来始めた。彼が悪態ばかり突くのは、只単に彼が余裕のない生活をしている為に他人に向かって労いや慈しみの言葉を掛ける術を持たないだけであった。彼の性根が本来優しいものである事が発覚するのは次回以降。やっぱりこう云うキャラクターじゃなければいかんよ、徐少強は。

第四話
 海大娘、彼女こそ二十年前に現れた『金燕子』その人だった。彼女は友人(イ冬)林の危機を救うべく、再び金燕子となって厚顔の宿泊地に解毒薬を奪取せんと向かった。しかし、彼女がそこで見たものは、同じく解毒薬を奪おうと黒装束に身を包んで忍び込んだ石鑄の姿だった。しかし、解毒薬奪取は惜しくも失敗し、(イ冬)林の死は目前に迫っていた。石鑄は危急の措置として、(イ冬)林に内功を注ぎ込んで彼の体力を一時的に増進させて中毒の進行を遅らせる事だった。その甲斐あって一時的とは云え、体力を取り戻す(イ冬)林。しかし、其れでも彼に残された命は十日しかない、と医者は告げる。其れまでに何としてでも解毒薬を入手しなければならないのだ…。

 石鑄がこの話で一気に株を上げ、皆の信用を勝ち取るエピソードだと言えよう。この話で今までの石鑄の人物像は完全に消滅したに等しい。口は悪いが非常に頼りになる男。其の印象が新たに与えられたのである。演技も今までのようなオーバーアクションではなく自然なものになり、演じている徐少強本人も気持ち良さそうだ。皆と共に酒を飲み(病み上がりの(イ冬)林まで何故いるのか不明)、今まで彼に対して敵対的だった人も皆彼に気を赦したりと、見ているこっちも安心出来た。第二話までの人物像でそのまま話の結末まで行けば、正直辛いと思っていたので救われた思いだ。他、見所としては泥酔した(イ冬)林が麥玉芝に送って貰っている最中にゲロ吐くシーン(本当は水吐くだけ)。美形で通す鄭少秋にこう云う事させるあたり、侮れないものがある。

第五話
 厚顔に『私の為に魔術をして見せろ』と呼付けられた潘媚娘。海大娘や海棠達は彼女の身を案じずには居られなかった。しかし、彼女は厚顔の目前で自分の正体を自ら露呈し皆の度肝を抜いた。彼女の本名は林雁兒と云い、賞金稼ぎとしてその名を知られていた。潘媚娘こと林雁兒は厚顔が金燕子に掛けた懸賞金に目を付け、敢えて自らが偽者を演ずる事で本物の金燕子を誘き出そうとしていたのである。思いがけない味方を手に入れた厚顔は更に金燕子捕縛の意を強くするのだった。その頃、石鑄と(イ冬)林の二人は潘媚娘の正体を訝しく思い、彼女の足がひょっとすると不自由で無かったなら…と考え、医者・麥東山の所に連れてゆき、鍼で確かめる事にした。驚いたのは潘媚娘である。しかし、異常の無い事を知られる訳にはいかない。彼女は東山の打つ金針の痛みに必死で耐え、笑顔で自分の足には感覚が無い事を必死でアピールする。しかし、金針の数が二本、三本と増えるに従って彼女の忍耐にも限界が訪れた。彼女は何とか取り繕ってその場を離れ、厚顔に遭うと時間が無い事を告げ、金燕子を燻り出す非常手段を申し出た…。

 見所は毒が再び体を侵し、最早進退極まった状態になる(イ冬)林・鄭少秋。気弱になった彼は自己の種族保存本能に従い(笑)麥玉芝に迫るのだった。この話で、潘媚娘の正体に不信感を抱いた石鑄と二人で潘媚娘の寝室(宿の二階)を見張るのだが、このドラマは登場人物が何をするにしてもワイヤーアクションで空を飛ぶ為に、「ちょっと見てこよう」と二階の窓に飛び上がる石鑄のアクションに失笑を禁じえない。

第六話
 潘媚娘の策。それは自ら金燕子として捕らえられ、人々の目前で拷問に掛けられる事で本物の金燕子・海大娘の義侠心を擽り、自分を救いに来た所を捕らえると言うものだった。策に嵌った海大娘は潘媚娘に点穴されて身動きならぬ状態で捕らえられ、潘媚娘は更に自分に対して敵対心を持つ石鑄をも罠に掛けようと考えた。海大娘が捕らえられた事を知った石鑄は潘媚娘に事の真偽を糾そうと彼女の部屋に行くが、却って彼の方が盗人として逮捕されてしまうのだった。牢獄で再会する石鑄と海大娘は、二十年前の因縁に付いて言葉を交わし、石鑄は嘗て厚顔の父に殺された海大娘の夫・洪英に恩があり、彼は洪家の縁者として金燕子をずっと捜し求めていた事、彼女の娘を保護していたが何者かによって奪われた事を告げる。海大娘と石鑄が捕らえられた事を仲間から聞いた(イ冬)林は、金燕子の仲間が多数居るよう見せかけようといろいろと策を弄するが潘媚娘は彼の策を見抜き、厚顔はならば、と処刑を急がせる手に出たのだった。

 見所は、捕らえられた石鑄が厚顔に向かって『俺が彼女の物を取ったという証が何処にある?』と云った時に潘媚娘が特異の手品を使い彼の襟元から彼女の私物を次々と出す(終いには鳩まで!)シーン。嵌められた事を知り怒りに歪む徐少強の表情が良い。後もう一つ、二十年前のシーンでヤング徐少強が!これだ、私が望んでいたのは彼の若若しい長髪の美青年剣士(笑)の姿だ!!

第七話
 金燕子こと海大娘の処刑当日が来た。もはや為す術もなく彼女の処刑執行を見守るしかない海棠達。しかし、そこに紅の衣を纏った金燕子が現れ、刑の執行を阻止する。金燕子の仲間か、といきり立ち、戦いを挑む厚顔の部下たちは、何とかその男、燕三郎を捕らえた。この燕三郎と言う青年は海棠に想いを寄せており、何とか彼女の力になりたかった故に仮装して現れたのである。厚顔はまだ仲間が居るかもしれん、と同じ方法で金燕子一味(本当はそんなものは存在していない)を一網打尽にすべく海大娘の処刑を見合わせる事にした。その晩、潘媚娘・林雁兒は(イ冬)林に毒紛を浴びせた二人を酔い潰し、二人から毒を少量失敬すると、(イ冬)林が臥せっている麥東山の所に赴き、麥玉芝に毒を渡して、「これで解毒薬を作る事が出来るでしょう」と去る。潘媚娘は(イ冬)林に対しては悪意がない事を示したかったのだ。東山は急いで解毒薬の調合に取りかかった。しかし、(イ冬)林の限界は最早そこまで迫っていた…。

 あれだけ引っ張った(イ冬)林の毒が、薬が調合されるや否や数分で解毒されてしまう脅威の展開。…化学の実験じゃないんだから…。お陰で徐少強の出番がまた少なくなる…と思いきや、回復した(イ冬)林を始末しようと考えた厚顔の無策により(イ冬)林捕縛を条件(更に五千両の賞金付き)に釈放され、彼は自在に動ける立場に戻っってしまう。銭に目の無い潘媚娘は石鑄より先に(イ冬)林を捕まえようとするが、石鑄は(イ冬)林と組んで目障りな彼女を捕らえてしまう。彼女を北京に連れて行く、という石鑄に対し(イ冬)林に『貴方((イ冬)林)は北京に来ないの!?どうしてこんな(ジジィと二人っきりで)!?』と抗議の声を上げる彼女が可愛い。横で好色そうなニコニコ笑いを浮かべる徐少強がいい味出してます。

第八話
 石鑄と二人っきりで北京行きを余儀なくされた潘媚娘・林雁兒。しかし、彼女は奇策を使い石鑄をまんまと欺き、逃亡に成功、北門に帰還する。彼女は石鑄が海大娘に縁のある人物であった事を厚顔に告げ、このままではいずれ海大娘が牢から救出されるのも時間の問題であるとして、海大娘の飯に毒を盛るよう提案した。一方、時をほぼ同じくして北門に戻ってきた石鑄は、海棠が語った潘媚娘の昔話と「洪家の娘」との相似点を知る。そしてふとした事から縣老爺の正体を皆は知る事になった。縣老爺の正体、それは二十年前石鑄の元から幼い洪家の娘をかどわかした男・潘木財だったのである。其れを知らされた潘媚娘は自分の出自と父の仇を理解し、同時に海大娘が自分の本当の母である事も知った。だが、その時には既に遅く、毒薬を仕込んだ食事を潘媚娘は自ら海大娘に手渡していたのである…。

 見所は徐少強演ずる石鑄が潘媚娘(体には鎖が巻かれてあり逃げられない)と便所の壁越しに会話する場面。徐少強がテレテレしながら『いやあ、恥ずかしながらこの石鑄、男女の仲にはとんと疎くて女と付き合った事が無いのだよ…』とやらかすのは見ていて微笑ましいが同時に同情の念を禁じえない。この時点で石鑄の設定年齢は50歳前後と思われるのでその悲惨さたるや想像するだに恐ろしい…。

第九話
 危うい所で死なずに済んだ海大娘は、駆け付けた潘媚娘が自分の娘である事を知り、驚き又喜んだ。父親の仇を討たんと決意を固めた潘媚娘は、まず手始めに厚顔の手下の内、手練の二将軍に対する厚顔の信頼を失墜させ、仲違いさせる離間の計を巡らせ、その上で三度金燕子の姿を取って、厚顔の郎党を次々に殺傷していった…

 この話では徐少強の出番は殆どなし。見所としては郎党を殺害して廻る潘媚娘。毛ほども疑いを持っていない彼らを何の呵責もなしに次々惨殺して行くその姿には慄然とするものがある。あとは、この話のラストで潘媚娘扮する金燕子が二将軍に毒紛攻撃を食らって倒れた所に(イ冬)林が現れる場面。二将軍は必殺の毒紛攻撃を放つが(イ冬)林には全く通じない。これは彼が予め二人の毒に対する解毒薬を用いていたからなのだが、ここまで完璧に効かない解毒薬なんか『あってたまるか!』と突っ込み入れるに充分過ぎる演出が泣かせる。

第十話
 厚顔の無法に堪えられなくなった(イ冬)林と石鑄は潘媚娘が活躍している間に都に赴き、その悪行を帝に上奏した。帝は彼の横暴を知り政の為に厚顔を抹殺せよと命を下し、その証として『賜死金牌』を授けた。最早彼らの行いを止めるものは無い。北門に戻った二人は潘媚娘らと協力し、厚顔を討つべく策を講じた。それは、玉芝を欲する厚顔の助平根性を利用して彼を誘き出し、密殺すると言うものだった。玉芝は当初殺人に荷担する事を嫌がったが(イ冬)林が『我々には帝から託された勅命がある。これは正義だ』と言われて結局承諾する。ここに如何に帝の下賜が在るとは言えど、どう見ても清清しさの全く無い暗殺大作戦が実現する事になった…。

 最終話。前述したように全く清清しさの欠片も無い暗殺大作戦が今回の目玉。そこには日本の時代劇のような、我々が感ずる事が出来るカタルシスは何処にもない。結果としては『悪人は皆退治されて目出度し目出度し』という形ではあるものの、何かが違う、と感じさせずには居れない。これが文化の違いだと言ってしまえば身も蓋も無いがせめて最後くらい…オチは余りに陰惨でここで語るには忍びない。ま、徐少強が最後まで裏切らずに善側のキャラクターで良かったね、というのが感想。しかし、幾ら何でも彼に爺をやらせるのは無茶と言うものでしょう、旦那。確かにヤングバージョンもあった。だがそれとの対比を明確にする為とは云え、彼をヒゲジジイにする必要はやはり無かった、と思うのである。よもやヤングバージョンだと鄭少秋と女の取り合い→殺し合いという『名剣』パターンになると困るから、と言う訳でもあるまいに。

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