お気に入り順子〔Shunza〕の曲

 順子、といっても「じゅんこ」とは読まず「しゅんざ」或いは「しゅんず」と読む。既に二枚のアルバムをだしているから新人とは言わないが、アルバム枚数を矢鱈と出す事で知られる中文歌謡界では未だ新人と言う感じがしなくもない。彼女は中文歌壇にあって非常に珍しいR&Bの歌い手であり且つ作曲・作詞活動もこなす。こう書くと宇多田ヒカルにそっくりになるが、キャラクターが被っているのは確かである。共にアメリカでR&Bにどっぷり浸かり、それぞれの活躍の場でそれが受け入れられている。特に中文歌壇において彼女の様なスタイルが受け容れられるようになったのは特筆すべき事だろう。それだけ中国、台湾でバラード歌謡以外のスタイルの音楽が、一般化したと言う事だからである。今後中文歌壇も、音楽ジャンルが多様化することは予想するに難くはないが、彼女の様に一人で音楽を作る事が出来る人間はそう出現するとは思わない。彼女の今まで発表した二枚のアルバムは中文だけではなく純粋な英文歌も入っているので中国語が全く理解できない人もOKだとは筆者は思うのだが。取敢えず、聴く事をお勧めする。

普通話?

『Inspiration』3:45

 アルバム「I am not a star」に収録。彼女の歌は非常に英語混じりが多く、この歌に至っては歌詞の九割方が英語である。中文は殆ど合の手くらいでしか使用されていない。故にこの歌を初めて耳にした時、彼女が中国人で或る事など全く知らなかったので「気のせいか歌のサビで中国語が聞こえるような…そんな筈はないか」と聞き逃していたが後でその事を知って購入を決意した。しかし実際に順子のアルバムを入手したのはつい先日、中国に行った時一枚65元(900円強)で売っていた時だった。購入を決意した時点で中国行きは決定していたので向こうの版権もので手に入れようと思っていたからである。中国内地では香港・台湾での発売からざっと2ヶ月の期間を置けば、現地で版権取得されて売られる事が多いのでそれを狙った訳だ。特に最近では内地でも現地とほぼ同時に発売される事も増え、侮れない。恐らくは横行しまくる海賊版を牽制する目的での事だろうがご苦労な事だ。閑話休題。この歌もご多分に漏れずR&Bで、その音楽の性質上どうしようもなく宇多田と被る。尤も宇多田よりもこっちの方が早く出ている訳だから、どっちかと言えば宇多田が被っていると言うべきか。筆者が宇多田を購入するか否かで結局購入しない事を選んだのは、それを考えたからである(現実的金銭上の問題もあるが)。歌の内容は一言で言うと「インスピレーションに感謝」。早すぎても遅すぎても彼女のブレイクは有り得なかっただろう。その辺を考えても彼女のインスピレーションは凄いわな。

『Come Home 回家』4:58

 アルバム「順子」に収録。このアルバムは第一作目と云う事もあって、多少R&B色を押さえ気味に作ってあるような印象を今聞くと抱いてしまうが、それが却ってバランスの取れたアルバムにしたと思われる。この歌はアルバムの一曲目に配置され、しょっぱなから広い声域をこれでもかと見せ付け、聴いた者の心を掴む事に成功している。聴き易いバラードではあるが、既に歌詞内に英文が紛れこんでおり、彼女の中文と英文の融合から響きの良さを出そうとの姿勢が伺える。歌の内容は一方的に連絡も寄越さず消えた男にどうか帰ってきて、私はここでずっと貴方を待っているのよと一人懇願する女の泣き言。「回家」つまり戻ってきてと言うからには多分一緒に住んでいたのだろう。そこを男がある日ふらりと出かけたまま戻らなくなった。そりゃ泣くわな。自分には全く其の訳もわからんのだから。情況が想像しやすい分悲惨さが増す。サビの辺りの甲高い声がなかなかにそそる。

英語

『Sweet Dreams』3:47

 99年の四月に発売された二枚組みお買い得アルバム『Open Up』中の一枚目、『Open Your Mind』に収録。その昔…約15年前、洋楽のビデオクリップが特別枠で流され始めた時、無表情に歌う歌手とその歌詞の単純さで妙に私の記憶に残った曲があったが、それがこの歌の原曲である。このアルバム『Open Up』は70年から90年代という彼女が成長した時代、その中から彼女が気に入った歌のカヴァーを集めたアルバムで、其れは取りも直さずこの私の成長と共にあった時代でもある。そのせいか、このアルバムに収録されているのは私にとって馴染みの歌が多い。というか、新曲の『Open Up』以外は粗全部聞いた事があるっての。収録曲は『If You Leave Me Now』『Don't Cry Out Loud』『Kiss And Say Goodby』『Sweet Dreams』『Just Once』『Nathing Compares to You』『Open Up』『Ring My Bell』『One On One』『It Might Be You』の十曲。ここまで聴き馴染みの歌ばかり集められるとこちらも色々と思い出す事があって懐かしい感覚に包まれる。世代が被ってて有難いと言うのか何と云うのか。このアルバムを聴いて更にファン度が上がった。これらは中文では短い説明が付けられているが、その中で判ったのはシンディ・オコーナー(辛[女尼]欧康諾)だけで、後は殆ど暴走族の使うへんてこ漢字のそれに酷似した名称が炸裂、又は日本語での名称を思い出す事が殆ど不可能なレベルにまで変えられた名称(舞韻合唱団)と訳がわからないが、其れは其れ、よしとしよう。二枚目のアルバム『Open Your Heart』は6曲のセルフカヴァーで構成されており、その中には『回家』『Inspiration』のより濃くなったカヴァーも収録されている。何となく嬉しい♪
 この歌のカヴァーは『Sweet Dreams』を更に強いビートにアレンジしてダンスミュージックとしても遜色の無い出来にしあがっている。原曲が前述したような乾いた感じの歌なせいか、非常に新鮮に聞こえた。この原曲は私が中国广州で生活していた時に、当時あった(つまりこの前行った時には既に消滅していた)音楽頻道(音楽チャンネル)で洋楽が掛かる時、数回に一度はビデオクリップが流されていた。音楽頻道というチャンネルは夕方六時から晩11時前後までの短い時間に放映されていたもので、その内容が更新される事は見た限りは無く、数週間で番組内容がローテーションされているという嘗めたチャンネルだったが、中国語が判らない時代の私にとっては実に有難いチャンネルでもあった。私はこのチャンネルをずっと見ながら、徐々に中国語歌謡に嵌って行きとうとう、中文歌曲と香港映画に嵌ってしまった。そう云う記憶を蘇らせてくれる、私には特に印象が深い歌なのでここで紹介させてもらった。勉強した事は殆ど頭には入らなかったがこういう系統の知識だけは消えない物である。

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