武侠小説とAD&Dオリエンタル(OA)セッティング・続き
改め、Dragon Fistサポートのページ
1.Dragon Fistオンライン化開始!
AD&Dで武侠小説を…と言うような事を書いている間に本家TSRがとうとうやってくれた。其の名も『Dragon Fist(龍拳)〜 The Role Playing Game of Martial Arts Action〜』!OAとは似て非ざる完全に香港武侠映画を題材にしたAD&Dキャンペーンワールドを99年11月19日からダウンロード出来るようになったのである。作者のChris Pramas氏が思いっきり『Once upon a time in China (黄飛鴻シリーズ)』『The Chinese Ghost story(チャイニーズゴーストストーリー)』等の香港古装物映画(作者はWuxiaつまり「武侠」物と表現している)に影響されて作ったと明言している。舞台はティアングオ(漢字で書くと天国だ…)、西洋名The Heavenly Kingdomと呼ばれる仮想中国の沿海州に、武林の英雄達が活躍する。
物語)時の皇帝Jianmin(漢字では鑑民か。)は己の不老不死への渇望に取り憑かれ、狂気としか思えぬ探索行を繰り返したものの全ては不首尾に終わった。失望した彼の目前に、ある日一人の農夫が現れて、一輪の萎びた蓮の花を与える代わりに一つの願い事を聞いてくれる様申し出た。皇帝がそれを食すと彼の肉体は忽ちの内に若返ったと云う。大いに喜んだ皇帝は、農夫に何が望みだと問うと、彼は『魂で御座います』と答えた。更に『大王が御身の若さを保ちたいと思えば思うほどに蓮に魂をお与え下さい』と彼は続けた。そして二十年後。王朝は邪悪に染まった皇帝と黷聖の蓮によって荒廃し、闇黒国家に堕落していた。皇帝に叛意を持つ者は武林として知られる9つの幇会を結成し江湖世界に散っていた。彼らは邪悪な皇帝を倒し、易姓革命の機会を伺っているのである。『龍拳』で君はこれらの幇会の一人(江湖の英雄)として、自国と武林の栄光の為に其の身を戦いの中に投じて行くのだ。君の功夫は強い。しかし、国を変えられるだけの強さはあるだろうか?(本文より)
…設定も、OAの時よりずっと『らしく』なっており、この作者が香港映画を好きなんだなァというのが判って心情的にも共感できる。マーシャルアーツのルールは少々少ないようにも思えるが、香港映画を見ない連中に紹介するには妥当なのかもしれない。この辺はOAなりDragon ArchiveなりNinja handbookなりを流用すれば更にバリエーションが増やせる事だろう。マーシャルアーツは各クラス毎に、呪文などと同様に、一定レベルで其のレベルに見合った武術を習得するシステムに変更されている。有り難い事に?以前のマーシャルアーツルールよりも更にファンタジックな武侠小説型の武術が使用できるようになっている。例えばLV5のマーシャルアーツの中には、相手の内功(生命エネルギーの事。「気」の事である。このゲームでは「Chi」と表現。)即ちHPを吸い取って自己回復を図る事も出来るのである。これで笑傲江湖の任我行の使用する『吸星大法』も使用できる寸法だ。残念なのは現在10LVまでしかサポートされていない事だろう。拡張ルールが今後出る可能性がないので、やり込むには更に手を加える事になりそうだ。…かと思っていたら、何と、Appendixで『2000年の早い内にGrandmasterルール』が出ると言う!凄いぜ!!
2.どんな映画がDragon Fistゲームの参考にされていたか
今更多くを語る必要はないだろう。80年代以降の香港武侠映画、それらを見ていれば判る筈だ。つまりワイヤーアクションがツイ・ハークとチン・シウトンによって芸術的と言って良いほどに高められた映像をゲームの架空世界に出現させる事を目的とした痛快なゲーム、其れがDragon Fistである。其のバランスたるや最早笑いが止まらぬほどに凄い!もはやマーシャルアーツと名が付けば魔法が要らぬくらいである。ここまで吹き飛んだ設定だと最早文句を言う事も出来ぬ。一言、『もっとやってくれ』。以下に本文中で出てきた香港映画について簡単に紹介しよう。
『スウォーズマン・女神伝説の章 Swordsman 2』
Dragon Fist戦闘ルールを作成するにあたって最も影響の強いと思われる中華剣士VS魔法使いVS忍者の大アクション。金庸原作『笑傲江湖』とは別物。Energy Drain=吸星(精)大法を操る任我行(ヤン・ゴーハン)、縫い針で人体を爆発させ、しかも怪しい日本語を操る東方不敗、その協力者でススキの上(!)を走り抜け、忍者刀で馬を一刀両断にする服部千藏とこれでもかの世界。尚、スウォーズマンのシリーズは他にも二作品あるが内、『女神復活の章』は凹むので気に入った人だけ見たほうが宜しい。Dragon Fistのマーシャルアーツでは『吸星大法』を"Breath Stealing"LV5マーシャルアーツとして設定しているようだ。また、東方不敗の縫い針攻撃は"Torrent of Chi"4LVマーシャルアーツの応用と思われる。ススキの上を走る技はLV4マーシャルアーツ『Step of the Crane』がそのままに再現されている。
『ドラゴン・イン新龍門客棧 Dragon Gate Inn』
宦官VS中華剣士&バーバリアン。マジックアイテムとしてヘンな弓矢が。武侠小説というか、武侠映画に悪人の宦官が出る時、そいつは無茶苦茶に強いという事を教えてくれる。この物語で出てくるジェイド(翡翠)はDragon FistのThiefのモデルになっているが、盗人のモデルにされるだけあって充分過ぎる悪人である。客を人知れず地下の厨房に送り込んで食材にしてしまうような女だからである。其れよりも気になるのは人肉料理を作っていた韃旦人なのだが…彼のデータ化を望む。あ、それからキットとしての宦官ね。
『ワンス・アポナ・タイム・イン・チャイナ Once upon a Time in China』シリーズ
この作品の主人公・黄飛鴻"Wong Fei-Hong"は清末民初の時代に実在した人物で、『廣東十虎』と呼ばれた功夫の達人である。彼は少林寺南派の流れを汲む武術の師範で廣東では名医としても知られていた。清朝の『黒旗軍』を錬兵、自ら創出した『佛山無影脚』『十字拳』の技は人々に恐れられ、民国の初期には廣東黄埔軍学校で教練も行っている。無論実在した黄飛鴻と映画の黄飛鴻には当然ギャップがあるが…Dragon Fistは映画の黄飛鴻をモデルにしているのでここでそう問題がある訳ではないだろう。今のところ、『ワンス〜』としてビデオ屋で借りる事が出来るのは6作品。他にも『ラスト・ヒーロー・イン・チャイナ』『ワンス・アポナ・タイム・イン。チャイナ外伝 アイアンモンキー』等でも黄飛鴻関連の映画が存在する。ワイヤーアクションで華麗に飛翔する黄飛鴻の姿は余りに美しい。この映画の第一作『天地黎明』でイン師父が使用する『鉄布衫』はWay of the Dragon" LV5マーシャルアーツだと思われる。特に『天地大乱』『アイアンモンキー』はお薦め。いや、お気に入りの武打星・ドニー・イェンが出てるからと言うわけではないんですが…
『霊幻道士 Mr. Vampire』シリーズ
言わずものがなの『キョンシー』もの。Dragon Fistの"Shaman"解説で出てくる"Mr. Vampire"とはこのシリーズの事。当作品でラム・チェンインが演じている『一眉道長(英語名One eyeblow priest)』が其のモデル。だから、このクラスをプレイする人間は必ず、Kit "White lotus"を組ませる事をデフォルトにするのが望ましい。理由は一つ。お札をアンデッドの額に付けて活動を停止させる"Immobilize Undead"の能力を有しているのはこのキットだからである!
『新少林寺伝説 New Legend of Shaolin』
ジェット・リー主演の功夫映画…というよりほぼワイヤーワーク特撮映画。死んだ真似をして御人好しから金を巻き上げようと企む盗人母娘はDragon FistでのThiefのモデルにされている。この盗人の母親の方が使用する鋲を物凄い勢いで連発する必殺技『千手観音変身』はLV4マーシャルアーツ『Whirlwind strike』の応用で再現可能。
『レジェンド・オブ・フラッシュファイター方世玉 Fong Sai-Yuk』シリーズ
ジェット・リーのもう一つの当たり役。黄飛鴻と並んでDragon Fistのファイターのモデルとなっている。キャラクター的には黄飛鴻よりずっと性格が明るくて身近な存在。アラインメントで分けると黄飛鴻がLGだと方世玉はNGか。やってること其のものはさして変わらないのだが…。主役がジェット・リーと違うが、この作品の外伝とされる『レジェンド・オブ・フォース Burning Paradise』に出てくる魔教のリーダーはDragon Fistの皇帝Jianminのモデルにされている。
『キラーウルフ白髪魔女伝 The Bride of White Hair』
梁註カ原作の武侠小説を基に作られた映画。民族の対立から発生する殺戮の悲劇が美しく凄惨な映像で迫る。敵役の男女のシャム双生児が強烈で、主役のレスリー・チャンが霞む霞む。異民族に対する中華の民の排他性、残酷性が計らずも露呈してしまった作品。中華思想では漢人だけが善であり、異民族は夷敵以外の何者でもないと言う事を忘れてはいけない。異民族同士の恋愛は殆どの場合、漢人側の理由で破壊されてしまう。それは彼らの中華第一思想が見え隠れするが故に…。米国では探すのが難しいらしいが日本では比較的楽な方である。
『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー A Chinese Ghost Story』
ある荒れ寺に泊まった寧采臣はそこで美しい幽霊、小倩に出会い、相手が幽霊であるにも関わらず恋に落ちてしまう。しかし彼女の魂は吸血妖怪に囚われており、彼女は地獄の魔王の花嫁として連れ去られてしまう。小倩の魂を救い、彼女を生き返らせようと彼は道士・インと共に魔界へと旅立つ。この映画で出てくる午馬演じるイン道士はDragon FistのWizardのモデルである。まあ、最もレンタルビデオ屋で見つけやすい部類の作品である。ついでに言うとこの作品の主役、寧采臣を演じているのはレスリー・チャン(張國榮)であってトニー・レオン(梁朝偉)ではないぞ。まだまだ修行が足りんな、作者よ。
『妖術秘伝・鬼打鬼 Encounter of the Spooky Kind』
未見なので何とも云えないが、あるRVに付いてた予告を見た限りではサモ・ハン・キンポー主演の霊幻道士ものである。日本橋の中古ビデオ屋でその姿を確認する事が多い。…って全然参考になってませんなあ。Dragon Fistの作者はこれも参考に上げている。よく米国でこんなの売ってたな。
『マスター・オブ・リアル・カンフー大地無限 Tai Chi Master』
ジェット・リー主演。太極拳の始祖とされる張三豐の若き頃の物語。少林寺で共に親友として育った二人の僧が、一人は義士として、もう一人は悪しき皇帝の手先として悲劇の邂逅を遂げる。富貴の為に自らを貶めてもなお野望の為に邁進するもう一人の主人公が、Evil Alignmentのキャラクターを演じるに当たり参考になる。勿論、カンフーの戦いはワイヤーアクションが多用され、Dragon Fist世界をイメージするには充分な助けになってくれる事だろう。
『蜀山奇伝・天空の剣 Zu: Warriors of the Magic Mountain』
ツイ・ハーク監督のワイヤーアクション特撮映画。別にDragon Fistに関わらず、香港映画はAD&DでのSword of dancingやSharpness、エアリアルコンバットetc.を視覚映像化してくれるので実にイメージソースとして役立ってくれる。この物語はユン・ピョウ演じる、終わらない戦と言う現実に疲れた一兵士が、世界の裏側で繰り広げられる魔鬼(異世界からの侵略者、早い話Demon)と聖戦士の戦いに巻き込まれた事で、自らのなすべき事を見出し魔鬼を倒すまでを描いている。Dragon Fistの作者も言う通り、80年代の物であるが故に特撮そのものはチャチである。しかし、登場人物の個性が様々で、Alignmentの演じ分けなどにも参考になる点が多い。ある意味最もRPG的。
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