匂魂悪夢

呉廷燁鑑賞記（『匂魂悪夢 Erotic Nightmare』）

　妻（麥璟（女亭）…「My Date…の白蛇精」）が病弱な為欲求不満に喘ぐ実業家・洛業（黄秋生）の前に一人の怪しいスキンヘッドが声をかけた事からこのドラマは始まる。彼は洛業に向かって買っていただきたいものがある、と持ちかけた。彼の扱う商品、其れは『夢』だった。当然洛業はそんな事に取り合わず、とっとと妖しげなムードが漂いまくる男から逃げようとする。スキンヘッド・白十方（呉廷燁）は自らの名刺を渡し、これはお験しと言う事で…と洛業の左手に魔術で女の絵を書いた。

　そしてその夜、洛業は夢の中で何故か教師をしており、教え子・戴波波とナニをする寸前までいく淫夢を見たのだった。これが本当に白十方が見せた夢であるならば、夢を買う事が出来る！と喜んだ洛業は早速名刺の示す住所に赴くのだった。しかし、其れは白十法が彼の財産目当てで幽霊・戴波波（漢字を変えれば大波婆即ち胸デカ女）を洛業に取り付かせ淫夢を見せると同時に彼を操り全てを奪い取る計画だったのだ。操られた彼は飼っている犬、自分の母親、そして最愛の妻をも手に掛けてしまう。彼には全くその自覚がない。しかし、恐怖した洛業が十方の企みに気付いた時は全てが遅かった。全ての財産を毟り取られた挙句、彼もまた、白十方と戴波波の犠牲になってしまう。そして後日。彼の弟・洛文（尹天照）が十方に対する復讐を果たす為マレーシアから香港に帰ってきた。彼も外法を操る人間でこの度の一件が呪術によるものである事を知ったのである。彼は十方の妻・小春（張文慈）に近付き、彼の魔法を破る為必要な要素を得ることにした。小春は異常性欲者・十方に嫌気が差しており、最初は洛文の申し出を断るが遂に協力する事を決めた。洛文が仕掛けた復讐の呪術とは…。

　呉廷燁の闇の魅力大爆発の一篇。変態サディスト・白十方を余す所なく演じている。その手段のえげつない事。最初はタダ、次から次へと値段を吊り上げて終いには全財産を奪い去ってしまうのだ。三級片だけあってナニ関係も黄秋生とためを張り、典型的サドっぷりを発揮している。扱うアイテムも短鞭、革靴、鎖ととってもマニアック。特に張文慈を当初怒りから責め痛めつけていたのがだんだん自分の快楽の為のそれに変わってゆく辺りの演技が素晴らしくナイス。自分の奥さんに幽霊を取りつかせてスパンキング、盛り上がったところでジッパーを下げる所も変態さんらしくて良い。尹天照に自分の其れより強力な夢の魔術によって現れた黒人アニキ達に「責め殺される」同情を誘う最期も笑いを誘う。『My Date…』で見せた怪演の下積みがこの作品で見事に結実したと言っても良いだろう。悲しい事だが…。完全に主役の二人（黄秋生と尹天照）食ってるし、私はこの映画のVCDを見て完全に呉廷燁のファンになりましたよ。ええ、そうですとも。

　この作品は『My Date…』終了直後に作成されたと思われ、基本的にかの名作ドラマの主な出演俳優で構成されている。しかし、しかしである。あのテレビドラマを見た人間がこの映画を見たとき、一種の放心状態に置かされるのはほぼ間違いない。『My Date…』であれだけ仲睦まじかった阿Kenと未来がSMやらかし、殺し合う姿は見ていて寒くなってくる。尹天照が陰険なキャラクターなのは『精武門』を見ていれば問題はない（笑）がこれには耐えられないものがある。バリー・ウォンがわざわざあのドラマを見て『こう云うのもありだろう』と考えて作ったらしいのは想像がつくが、『My Date…』を見て感じた良い気分を根本から破壊してくれる辺り、恨まずには居れない。私はこのVCDを尹天照と呉廷燁目当て（精武門で共演してるし）で購入し、『My Date…』を未見の状態で鑑賞した為ここまで思い入れて見た訳ではなかったが、今回この原稿をあげるに当たり見返して見ると悶絶ものだった。

　この映画のラスト、張文慈と尹天照が共にマレーシアで暮らす事を決心して香港新空港のロビーを手をつないで歩くシーンで、張文慈とつないだ尹天照の手に呪いを意味する女の絵が書かれてあった事で、以前あれがどう云う意味か、と考えた事があったが、疑問は廣東語の台詞を聞いていて判った（以前は普通話で聞いていたが、それに相当する字幕がなく、普通話音声もなかった）。あれは張文慈が掛けた呪いだったのである。尹天照が『僕は呪いなど君に掛けない。僕は君を大切にするよ』と彼女に語り、手を握った訳だが、その時に張文慈の『約束を破ったら赦さないから』という台詞が立ち去る二人にオーバーラップしているのだ。結局あんたも呪いが使えるんじゃないか。結局この映画で得したのは張文慈であると断言できよう。ハンサムな恋人（いや、筆者は呉廷燁の方が尹天照より美形であると信じているぞ）とお金、両方を一度に手に入れたのだから。

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