義胆紅唇〜City War〜

領銜主演 周潤發 狄龍 徐少強 ティム・ナウ

 邦題『チョウ・ユンファ非情の街』。昔ながらの暴力志向で時代の流れについて行けない刑事・ケン(狄龍)と嘗ての後輩で今は上司、世渡りが巧そうだが結局ボンクラのディック(周潤發)が十年ぶりに出所し、ケンへの復讐に燃える、これまた時代錯誤のヤクザ・テッド(徐少強)を相手にドンパチを繰り広げる黒社会暴力映画。この映画の中で一番目立っていたのは周潤發でも狄龍でもなく徐少強。他の作品でもそう見られない、悲しいまでに衝動的で抑えの効かない復讐鬼としてこのキャラクターを演じている。惜しむらくは彼の髪型がムショ帰りのせいで短髪だった事。彼の短髪はどうもイケてない。典型的立て襟のヤクザスーツはボンクラ度が高かったが。この作品はやたらとキスシーンと濡れ場が多いので親の目の前で見る事はお勧めしない。あ、だから題名が『義胆紅唇』なのか。

 どれくらい衝動的かと言うと、先ず、初登場時、刑務所から出て三歩歩いてすぐに地面にキス。そのまま倒れている所に嘗ての仲間が迎えにやって来る(車の中で彼は『十年間編物ばかりやっていた。阿公、編物工場を作ってくれないか』と語る。彼の精一杯のギャグの様だ)。この時点で既に観客はこの徐少強演じるテッドという男が只者ならぬ人物である事に圧倒される(失笑或いは爆笑する)だろう。彼が地面にキスをした背景は、再びシャバの空気を吸い、土を踏む事が出来たと言う喜び、嘗て自分の急所を撃って自分を男として不能(東方先生!)にし、刑務所にぶち込んだ刑事・警官に復讐が出来ると言う喜びを現したものであると推測されるが、只単に刑務所の飯に身体が合わず腹が減りどおしで倒れたと云う説もある。本編のヒロイン・ベニー(ティム・ナウ)の部屋でまるで餓えた狼の如く彼女にむしゃぶりつく所は中々アダルティーで親の見ている前で恥ずかしい思いをさせてくれた。しかし、後で判る事だが、彼は十年前にケンの同僚、ティムによって逃走中に股間を銃で撃たれて東方先生状態になっている為、実際にはナニをしようにも出来ない身体である。故に彼は自分が男性としてもはやどうにもならない存在に堕してしまった事に気付き、彼女を振り払い、叫ぶ。『浮気をしたな!』と。彼女がそんな事は無い、と言うが彼はそんな声に耳を貸さない。正しいぞ徐少強。その女がディックと浮気していたのは事実だ。ひょっとすると去勢された事で超能力が目覚めたか。そして彼は其の事で更に怒りの炎をたぎらせ、十年間暖めておいた復讐計画(本編では語られていないが徐少強のキャラクターだったらやりそうだ)を実行に移し始めた。その手始めとしてテッドは既に出所前にケンの同僚・ティムを殺させている。何処で調べたのか、ケンの家に電話を掛ける。家族がいて幸せそうだな、俺は義理堅い男だから連絡させてもらった、と。これはテッドからケンへの宣戦布告だった。そしてケンから全ての幸せを奪うべくテッドは大陸から刺客を呼び寄せた。おりしも、中秋。この時期は大陸では国慶節(建国記念日)を兼ねて祝う事で知られており、月餅を食べ、学校も休みになる。当然、善良たる漢人はお祝いをするが悪人共はこの日を狙って襲撃を掛ける。ケン一家のお祝いに同席したディックはベニーに呼び出され、その隙に大陸から来た下手な普通話を喋る刺客がマシンガンを持って襲撃した。流石は命の価値が低い事で知られる大陸からの刺客、女子供でも容赦無くマシンガンで撃ち殺した。生き残ったのはケンとその息子のみ。ケンの妻も、娘も撃ち殺されてしまった。テッドはベニーの父親がいいかげんにしろと静止するのも聞かず、却って『あんたは老いた』と吐き捨てる。彼はケンのせいで東方先生にされてしまったのだ。葵花法典があるならばともかく、今の世の中にそんなものがある筈も無い。彼には復讐と云う形でしか己の人生を完結させるしかなかったのだ。やっぱり徐少強だ。物語のクライマックス、武器の密輸現場に踏み込んできたディックに追い詰められたテッドはベニーが自分を庇うのをいい事に、ディックを彼女が巻き添えになる事を承知でマシンガンをぶっ放す。ここでベニー死亡。しかし相手はヒットポイントが並みの人間の10倍はある周潤發、たかが機銃を数発打ち込んだ所で死ぬわけが無い。挙句に合流してきたケンの姿に錯乱したか、車を洗う為のでっかいシャワーの水で攻撃する始末(だがこれが結構効いた様だ)。なおも逃走しようとするテッドだったが彼には最早組織も、恋人も、何も残されてはいない。ディックの手助けでケンが放った散弾銃が彼の腹を穿つ。だが、テッドも並の人間ではない。その程度で倒れはしない。そして続いて撃たれた第二発目の散弾が彼を地獄の縁に叩きこんだ。彼は最期まで同情の余地も無い悪人であった。流石、徐少強と唸らせる名作だった。

いっぷさん、ビデオ提供どうもありがとー!多謝。

 

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