銀剣殺手沈勝衣 Shen Sheng-Yi

沈勝衣(徐少強飾)

最新はここ。

 何時頃の作品かは不明。大陸で購入したものの一つで、表紙に徐少強と呉廷Yが出ていると言う筆者の脳天直撃なデザインだった為に即座に購入した…が、全十六枚組みといいながら既に相当編集(しかも下手)がなされているとしか思えないその出来に見ていて先行きが不安が残る。ノークレジットである為に私の知識では誰が何の役で出ているのかさっぱり判らないのも困るなあ。
 何よりも問題なのは、本当に表紙の通り呉廷Yが出てくるのか?ということだったりする。

第一枚〜二枚目『剣侠情仇』篇

 武林の公子の一人、柳展禽の元に黒衣覆面の男が現れた。金欲しさに自らを襲ったその男を撃退した柳展禽は、其の男を殺そうとせず、五年の間に彼の要求する刺客指令をこなす事を命じる。男は自らを孫羽と名乗り、以来『銀剣殺手・孫羽』の名は武林高手の間に恐怖の代名詞として知られるようになった。そして五年の月日が流れた。生死の境で会得した孫羽の戦闘能力は柳展禽の予想を遥かに超えており、これなら、と彼は孫羽に最後の指令を発する。
「我が愛する只一人の女の為に…『沈勝衣』を殺すのだ」
 だが、孫羽は其処で初めて冷酷無情の覆面の奥に驚愕の光を見せた。それも其のはず、孫羽こそ其の殺しの標的に柳展禽が選んだ沈勝衣本人だったからである。何故、柳展禽の「愛する女」の為に自分が殺されなければならないのか。その答えは彼には決して理解したくないものだった…

 初登場の第一話については、徐少強は目しか見せてくれないに等しかったが、第二話からは通常の服装に戻ってくれて嬉しいやら寂しいやら。「昼は大侠『沈勝衣』、だが夜は殺し屋『孫羽』」とやや自嘲気味に話す(音声が普通話の為オリジナルがどうなのかは不明)彼は、単純に善悪で語れない人物である。彼が殺しに手を染めたのは、愛する妻・月蛾の生活を楽にせんが為に金が欲しかったからである(彼は大侠としての体面を保たんと表向きは大判振る舞いだったものの、実のところ家計は火の車だった)。…という設定ではあるものの、その手口は残虐とまではいかずともあくまで無情、相手が女だろうが全く容赦無しである。当時スターの名前を欲しい侭にしていたに違いない彼がピカレスク系の主人公をやってると言う時点で目を見張るものがある。彼の若さのかげんから『名剣』よりも過去の作品だと思われるが、この時点で徐少強の暗黒系キャラクターへの布石はあったと言う事になる。尤も、当作品ではあくまでもやむなく刺客道に踏み入れただけと言う方向で、決して悪人方向に強く出たキャラクター設定でもないわけだが。今後の彼の活躍に期待しよう。それにしてもドラマの展開そのものが日本の時代劇のそれに近いような気がするのは気のせいだろうか…
 彼の使用する剣は普通の中華剣よりも更に細い剣で、握りが単なる木の棒にしか見えない…あれ?この設定って『多情剣客無情剣』の阿飛の剣と同じでないの。

第三枚〜四枚目『十三殺手』篇

 沈勝衣の妻、月蛾は沈勝衣が暗殺者・孫羽として裏家業に精を出していた間に、柳展禽と不義密通の関係を持っていた。柳展禽の『自分を殺す』指令を受け愕然とした沈勝衣は彼女を問い詰めたが、その結果彼はその認めたくない真実を認めざるを得なかったのである。しかし、不義の妻を斬る事は沈勝衣には出来なかった。何故ならば、彼はそれでも妻を愛していたのである。「ここから出て行ってくれ。…二度と会いたくはない」彼にはそれだけ言うのが精一杯だった。月蛾は…その場で自害した。過去自分が沈勝衣に向かって告げた愛の言葉が今の自分を責苛み、その良心の呵責に耐えられなくなったからである。妻を失い、生甲斐を失った沈勝衣に残されたのは復讐だけだった。互いに愛する女性を失った二人がついに対峙する。『断金手』の異名を持つ柳展禽は着物の袖を使い彼の剣を封じるが、柳展禽の戦法を予期していた沈勝衣は隠し持っていた短剣を使い辛くも勝利を収めた。しかし、柳展禽は死際に彼に告げた。
「十三人の刺客が貴様を…殺す」
 今回は只管沈勝衣が刺客を切り殺すアクション篇である。柳展禽が「沈勝衣を殺した者に身代の全てを与える」条件で動かした刺客達が次々に沈勝衣に襲い掛かり、それを撃退するに過ぎなかった彼が、刺客の名を聞き出して逆襲に出て壊滅させる、その経過が僅か二時間弱の話で語られる。…普通こう云うのって、もっと時間を掛けても良いシチュエイションの様な気がするのだが。柳展禽の妹が十三人の一人で仇討ちを決意していたり(後に兄の正体を知って沈勝衣に付いた)、沈勝衣が十三人の一人と聞いて殺しに行った先の相手が既に半身不随の身になっていた(それでも嘗ての仲間のために沈勝衣に剣を向ける)とか、十三人のうち一人が漁夫の利を得ようと、沈勝衣と仲間を巧みに煽って全滅するように策を弄したりと、もっと掘り下げても良い要素があったのに…実に勿体無い。
 あと、目立つBGMが日本の時代劇(必殺とか水戸黄門)ってのは…なんだかなあ。

第五枚〜六枚目『相思夫人・白蜘蛛』篇

 柳展禽の妹・歩煙飛(馬敏兒)は兄の正体を知って誤解を解き、彼女は酷薄に見える沈勝衣の内心の善性に気付き、惹かれ始めた。しかし、妻の裏切りと死が同時に襲った衝撃から彼は彼女の好意に気付きつつも、それに応えようとはしなかった。そんな折、仮面の殺し屋・白蜘蛛を追う事となった沈勝衣は依頼者の娘を救った事から好意を寄せられる。歩煙飛は嫉妬し、つい、出任せで『白蜘蛛の事を知りたければ…』と口走ってしまう。その為、正体が露見する事を恐れた白蜘蛛当人に誘拐されてしまった。無気力状態に近い状態だった沈勝衣だったが、もはや見過ごす事も出来ず白蜘蛛の正体を探るべく行動を開始した…

 沈勝衣が女性に囲まれて…いない。全然囲まれていない。歩煙飛は嫉妬深いくせに彼に付かず離れずの態度を崩さないし、今回のヒロインは急速に彼を好きになったと思うと後半冒頭で早々と死亡。彼女の死の前に『貴方は歩煙飛と私、一体どちらを愛しているのでしょうか』と問い掛け、お約束通りに彼は『私?』と聞かれた時に無言で頷くものの、『嘘…』とすぐに返されてしまう辺りは、笑うべきか否か困ってしまう。そもそも、当作品に出てくる女性が皆顔が『怖い』のだから余計そう思わずには居られない。アクションにワイヤーが使われていない事情を鑑みるに、まず体が動くことが要求された時代の話なので仕方がないのかも知れないが…結局もとの鞘に納まったものの、沈勝衣本人は歩煙飛に対しての感情をこの一篇の最後まで『判らない』で押し通してしまった。良いんだか悪いんだか。

第七枚〜八枚目『地獄鬼蕭』篇

 甘家の娘、シャンリェンは、父と離れている間に、二人組の暴漢「紅虎・藍豹」に襲われあわや、と言う時に一人の青年インに助けられた。いつしか恋に落ちる二人だったが、彼女には自分の事を嫁に貰おうと動く林家の御曹司が居た。インは御曹司に「彼女との婚約を破棄しろ!」と迫るが、御曹司も家格の違いを盾に同意を渋る母親を説得する身、決して引く事は出来ない。そんな時、御曹司に嘗て顔面に十文字の傷を負わされた刺客・鬼蕭が現れたと言う知らせが入る。折しも、紅虎・藍豹と諍いの出来た沈勝衣が結婚を控えたシャンリェン達の所に現れる…

 沈勝衣と歩煙飛、全く今回の物語に必要なし…。今回の話の肝は、親の反対する結婚と二人の選んだ恋愛の帰結、と言う悲劇にこそあって、沈勝衣らの扱いはオチ付け役ではあっても主役とは到底言えるものではなかった。しかし、人の柵と殆ど縁の無くなった沈勝衣と歩煙飛、この二人の恋愛のようでそうではない微妙な関係と今回のゲストの物語は完全な対比になっている。恋愛とそれに続く結婚と言う流れを止めようとする林家の母、娘の望まぬ結婚を推し進めようとする甘家の父親、婚約者が別の男に身を既に許してしまった事を知り、結婚を直前で破棄しようとするが既に発表を済ませてしまったが為、家の面子の為に結婚せざるを得なくなった男、恋する男が極悪な盗賊である事を知ってもそれでも忘れられずぐずぐずとする娘、そして愛する娘を手に入れようとして恋敵に告げてはならぬ言葉を告げてしまい、それが原因で娘を失うことになる盗賊…見事に沈勝衣ら二人と類似する点が見当たらない。この話の教訓は『過ぎたるは及ばざるが如し』だったようである。アクションシーンでは、沈勝衣が背後で転倒した敵に向かってブリッジの形で相手を刺殺するシーンがある。ぱっと見はすごいのだが素直に振り返るほうが遥かに楽だと思うのだが。流石は徐少強と言うべきか…

第九枚〜十枚目『髑髏殺手』篇

 旅を続ける沈勝衣と煙飛の前に、一人の奇妙な老人・赤燕霞(呉桐)が現れた。彼は「神医」の称号を持つ人物で、江湖の世界からは当に足を洗っているはずの人物だった。郭薬は生き返りの秘薬の研究の為、実験材料を兼ねて二人の悪党を始末するとその死体を弟子・郭薬(顧冠忠)に運ばせた。生き返りの薬に興味を持った沈勝衣は一旦歩煙飛と別れてその後に従う。ところが、赤燕霞が倒した二人組は、毒使いで悪名高い無情道人(楊澤霖)の弟子達だった。自分の弟子達が殺された事を知った無情はすぐさま赤燕霞の前に姿を現し、沈勝衣に撃退されたものの、必ず復讐してやると捨て台詞を残して消えた。そして、その晩、赤燕霞の一人娘が何者かによって毒殺された…

 第十話にて漸くエンドクレジットが入った…とは言え、只単に大陸側のひどい修正の結果なのは言うまでも無い。文句はさておき、今回の沈勝衣はかなり苦戦していた。…物語のラストバトルで敵の刃が思いっきり腹に刺さるほどに。つーか、はっきりと死に掛けていた。敵がそこまで強力だった訳ではなく、生死の境の戦いで歩煙飛の自分を呼ぶ声に気を取られた瞬間に一撃食らったのである。それでもって辛くも敵・髑髏殺手を倒した所で歩煙飛が「貴方を殺すこの時を待っていた…!」とやらかしたのには参った。しかも、わざわざ沈勝衣が自分を愛した上で裏切り殺す腹積もりだった事まで告白するのである。この手の「冥土の土産」パターンは現在となってはいささか使い古されている為次の展開が見え見えになる欠点があるが、本作の制作された時代を考えるとそれも已むなしか。
 それにしても気になったのは赤家の人々である。娘は死人の宝を横取りしようとするわ、親は親でネクロマンサーまがいの研究に取り憑かれているわ、弟子は弟子で嫉妬に狂った上で殺人計画に手を染めるわ…碌なもんじゃない。

第十一枚〜十二枚目『魔鬼剣侠』篇

 前回から暫しの時が流れ…舞台は雲南大理国。珍品秘宝ばかりを狙う怪盗・紅梅盗を捕らえようと、高官バイ・ユーロウは嘗ての誼から沈勝衣に助けを求めた。そんな時、剣士ドゥ・グーイェンは自分の妻が友人である大理段氏の皇子と密会しているのを発見、怒りに燃えた彼は皇子を殺害、逐電する。すぐに追手が放たれ、グーイェンは徐々に追い詰められるが、萬花洞の主・慕蓉家の娘グーパンに救われるのだった。このままでは死ぬしかない彼に、彼女は生存の道があると告げ、グーイェンは一縷の望みに賭ける事を決意する。彼女は「変化大師」なる一人の和尚を紹介した。彼こそは希代の変装術の達人であり、グーイェンに死人の顔を移植する事で別の人生を送る事が出来ると申し出た。手術は成功しグーイェンは別人ファン・ヅンシェンとなり、慕蓉の娘に協力する事に同意する。果たしてグーパンの企みとは…

 どれ位時間が経過したのか分からないが、沈勝衣の顔に見事な口ひげが生えている。それはそれとして、歩煙飛は何処に行ったのやら。前回ラストで彼女の企みは失敗し、彼女が沈勝衣に対してマウントポジションを取ったまま回が終わってしまったのでこちらとしては非常に気になるのだが…沈勝衣は前回の影を全く引き摺る事もないようだし、ちゃんと次回以降で説明されるのだろうな。だが、何よりも問題なのは、後半突如として徐少強とは似ても似つかない代役が出現した事だろう。てっきり沈勝衣の影武者とばかり思っていたのだが、どうも扱いからそうでもないようだし…だが、この代役、折角徐少強が付けていた口ひげを付けていないのである。しかし、最大の衝撃はこれではない。使った剣から自分の出自が暴かれるという演出が案の定行われるのだが、グーパンが「じゃあ変装でしたら彼の顔を良く御覧なさいな」と言い、グーイェンの事を知る雲南の人間がじっと見る(普通はここでばれる)クライマックスで、何と「いや、私の勘違いだったようだ」とその男が頭を下げて突然「劇終」の文字が!余りの展開に思考が停止してしまった。オーバーテクノロジーは連発するわ代役立てるわ、大丈夫かこんな話ばっかりで…

第十三枚〜十六枚目『魔鬼剣侠』篇続きNEW!

 グーパンの恐るべき目論見、それは、バイ・ユーロウの娘にして天下第一美人の誉れある娘・インの顔を己のものとするというものだった。彼女は変化大師とファンの力を借りて追手の目を欺き、インはあわや拉致寸前とあいなったが、バイや武当の使い手フォン・ユーソン、そしてバイの部下に成りすましていた沈勝衣らの活躍でそれらは阻止された。ファン、変化大師は悉く沈勝衣の手に掛かり、その時初めてグーパンは自分の上を行った沈勝衣こそ、(犯罪の)天才である自分を理解した人間である事を知った…

 最終篇だというにも拘らず、主人公の沈勝衣(徐少強)は六話中その半分も出張っていない。そりゃ、グーパンを油断させる為に敢えてバイ配下の無名人士を演じていた(アイパッチしかしていないにも拘らず俳優が変わる!)というのも分からなくは無いが、せめて本人が変装後も演じろよ!本放送時には絶対クレームが殺到したに違いあるまい。歩煙飛との関係も清算されず彼女は出て来ずじまい(居た堪れなくなって姿を消したらしい)だし、本当にこれが最終話かどうかすら疑わしくなってくる。最終話とすると、かなり打ち切り臭いのだが今となっては検証の仕様が無い。…全く盛り上がらなかったし困ったもんだ。

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