何時頃の作品かは不明。大陸で購入したものの一つで、表紙に徐少強と呉廷Yが出ていると言う筆者の脳天直撃なデザインだった為に即座に購入した…が、全十六枚組みといいながら既に相当編集(しかも下手)がなされているとしか思えないその出来に見ていて先行きが不安が残る。ノークレジットである為に私の知識では誰が何の役で出ているのかさっぱり判らないのも困るなあ。
何よりも問題なのは、本当に表紙の通り呉廷Yが出てくるのか?ということだったりする。
初登場の第一話については、徐少強は目しか見せてくれないに等しかったが、第二話からは通常の服装に戻ってくれて嬉しいやら寂しいやら。「昼は大侠『沈勝衣』、だが夜は殺し屋『孫羽』」とやや自嘲気味に話す(音声が普通話の為オリジナルがどうなのかは不明)彼は、単純に善悪で語れない人物である。彼が殺しに手を染めたのは、愛する妻・月蛾の生活を楽にせんが為に金が欲しかったからである(彼は大侠としての体面を保たんと表向きは大判振る舞いだったものの、実のところ家計は火の車だった)。…という設定ではあるものの、その手口は残虐とまではいかずともあくまで無情、相手が女だろうが全く容赦無しである。当時スターの名前を欲しい侭にしていたに違いない彼がピカレスク系の主人公をやってると言う時点で目を見張るものがある。彼の若さのかげんから『名剣』よりも過去の作品だと思われるが、この時点で徐少強の暗黒系キャラクターへの布石はあったと言う事になる。尤も、当作品ではあくまでもやむなく刺客道に踏み入れただけと言う方向で、決して悪人方向に強く出たキャラクター設定でもないわけだが。今後の彼の活躍に期待しよう。それにしてもドラマの展開そのものが日本の時代劇のそれに近いような気がするのは気のせいだろうか…
彼の使用する剣は普通の中華剣よりも更に細い剣で、握りが単なる木の棒にしか見えない…あれ?この設定って『多情剣客無情剣』の阿飛の剣と同じでないの。
沈勝衣が女性に囲まれて…いない。全然囲まれていない。歩煙飛は嫉妬深いくせに彼に付かず離れずの態度を崩さないし、今回のヒロインは急速に彼を好きになったと思うと後半冒頭で早々と死亡。彼女の死の前に『貴方は歩煙飛と私、一体どちらを愛しているのでしょうか』と問い掛け、お約束通りに彼は『私?』と聞かれた時に無言で頷くものの、『嘘…』とすぐに返されてしまう辺りは、笑うべきか否か困ってしまう。そもそも、当作品に出てくる女性が皆顔が『怖い』のだから余計そう思わずには居られない。アクションにワイヤーが使われていない事情を鑑みるに、まず体が動くことが要求された時代の話なので仕方がないのかも知れないが…結局もとの鞘に納まったものの、沈勝衣本人は歩煙飛に対しての感情をこの一篇の最後まで『判らない』で押し通してしまった。良いんだか悪いんだか。
沈勝衣と歩煙飛、全く今回の物語に必要なし…。今回の話の肝は、親の反対する結婚と二人の選んだ恋愛の帰結、と言う悲劇にこそあって、沈勝衣らの扱いはオチ付け役ではあっても主役とは到底言えるものではなかった。しかし、人の柵と殆ど縁の無くなった沈勝衣と歩煙飛、この二人の恋愛のようでそうではない微妙な関係と今回のゲストの物語は完全な対比になっている。恋愛とそれに続く結婚と言う流れを止めようとする林家の母、娘の望まぬ結婚を推し進めようとする甘家の父親、婚約者が別の男に身を既に許してしまった事を知り、結婚を直前で破棄しようとするが既に発表を済ませてしまったが為、家の面子の為に結婚せざるを得なくなった男、恋する男が極悪な盗賊である事を知ってもそれでも忘れられずぐずぐずとする娘、そして愛する娘を手に入れようとして恋敵に告げてはならぬ言葉を告げてしまい、それが原因で娘を失うことになる盗賊…見事に沈勝衣ら二人と類似する点が見当たらない。この話の教訓は『過ぎたるは及ばざるが如し』だったようである。アクションシーンでは、沈勝衣が背後で転倒した敵に向かってブリッジの形で相手を刺殺するシーンがある。ぱっと見はすごいのだが素直に振り返るほうが遥かに楽だと思うのだが。流石は徐少強と言うべきか…
第十話にて漸くエンドクレジットが入った…とは言え、只単に大陸側のひどい修正の結果なのは言うまでも無い。文句はさておき、今回の沈勝衣はかなり苦戦していた。…物語のラストバトルで敵の刃が思いっきり腹に刺さるほどに。つーか、はっきりと死に掛けていた。敵がそこまで強力だった訳ではなく、生死の境の戦いで歩煙飛の自分を呼ぶ声に気を取られた瞬間に一撃食らったのである。それでもって辛くも敵・髑髏殺手を倒した所で歩煙飛が「貴方を殺すこの時を待っていた…!」とやらかしたのには参った。しかも、わざわざ沈勝衣が自分を愛した上で裏切り殺す腹積もりだった事まで告白するのである。この手の「冥土の土産」パターンは現在となってはいささか使い古されている為次の展開が見え見えになる欠点があるが、本作の制作された時代を考えるとそれも已むなしか。
それにしても気になったのは赤家の人々である。娘は死人の宝を横取りしようとするわ、親は親でネクロマンサーまがいの研究に取り憑かれているわ、弟子は弟子で嫉妬に狂った上で殺人計画に手を染めるわ…碌なもんじゃない。
どれ位時間が経過したのか分からないが、沈勝衣の顔に見事な口ひげが生えている。それはそれとして、歩煙飛は何処に行ったのやら。前回ラストで彼女の企みは失敗し、彼女が沈勝衣に対してマウントポジションを取ったまま回が終わってしまったのでこちらとしては非常に気になるのだが…沈勝衣は前回の影を全く引き摺る事もないようだし、ちゃんと次回以降で説明されるのだろうな。だが、何よりも問題なのは、後半突如として徐少強とは似ても似つかない代役が出現した事だろう。てっきり沈勝衣の影武者とばかり思っていたのだが、どうも扱いからそうでもないようだし…だが、この代役、折角徐少強が付けていた口ひげを付けていないのである。しかし、最大の衝撃はこれではない。使った剣から自分の出自が暴かれるという演出が案の定行われるのだが、グーパンが「じゃあ変装でしたら彼の顔を良く御覧なさいな」と言い、グーイェンの事を知る雲南の人間がじっと見る(普通はここでばれる)クライマックスで、何と「いや、私の勘違いだったようだ」とその男が頭を下げて突然「劇終」の文字が!余りの展開に思考が停止してしまった。オーバーテクノロジーは連発するわ代役立てるわ、大丈夫かこんな話ばっかりで…
最終篇だというにも拘らず、主人公の沈勝衣(徐少強)は六話中その半分も出張っていない。そりゃ、グーパンを油断させる為に敢えてバイ配下の無名人士を演じていた(アイパッチしかしていないにも拘らず俳優が変わる!)というのも分からなくは無いが、せめて本人が変装後も演じろよ!本放送時には絶対クレームが殺到したに違いあるまい。歩煙飛との関係も清算されず彼女は出て来ずじまい(居た堪れなくなって姿を消したらしい)だし、本当にこれが最終話かどうかすら疑わしくなってくる。最終話とすると、かなり打ち切り臭いのだが今となっては検証の仕様が無い。…全く盛り上がらなかったし困ったもんだ。