My Date with a Vampireの呉廷燁・続き

呉廷燁鑑賞記（『My Date with a Vampire』其のⅡ）

第六篇
　別名第一滴涙篇。前回の話で未来を失い、完全にこの世に絶望した山本は終に計画の実行に移る。配下の吸血鬼を放ち、財界や警察と言った有力組織の人間を手始めに次々に吸血鬼を『生産』し始めたのである。一方、ここに未来を失った事で、もう一人の男が山本と正反対の決意、即ち山本と言う存在を消す事で未来を救えなかった自分への贖罪をなすという決意に辿り着いていた。阿Kenである。彼は山本に再び立ち向かうが53年前と同様いとも簡単にあしらわれ、なす術もなく、本来ライバルである況天佑に共闘を申し出る。山本の狂気の発端が自分にあることを知るが故、一度は共闘を渋った彼だったが、山本の余りに無慈悲且つ強引な手段を目の当たりにした事で本来の意気を取り戻し、阿Ken、馬小玲、金正中、そしてゲーセン親父・何應求と共に戦う事を決意するしかし、果たして彼らは間に合うのだろうか。刻一刻と吸血鬼が数を増やす香港……

　風雲急を告げるバイオレンスな展開。ついでに天佑を巡る珍珍、小玲の三角関係も急展開を見せる。天佑が吸血鬼である事、其の事について自分だけが知らなかった事、自分がどうやら死んだ山本の妻・雪の生まれ変わりらしい事、小玲が天佑の事を好きな事、そして況天佑が馬小玲と居る時、自分に対してはついぞ見せなかったはしゃいだ様子を見せた事が彼女の心をばらばらにしてしまう。天佑に『私を吸血鬼にしても構わない』と申し出る彼女。しかし彼は吸血鬼…不老不死である事の悲しみを彼女に背負わしたくない一心から其の言葉を拒絶する。そして終に彼女は山本ならば自分を吸血鬼を愛した苦しみから救ってくれると考え、何と山本の元へ走ってしまう。だが山本も彼女の吸血鬼となりたいという思いが、自分を愛する事から出た願いでない事を痛い程知っている為に、彼も又、珍珍を噛む事を拒むのだった。
　珍珍は皆から愛されているが故に、その皆の扱いが却って自分を阻害しているように思えて仕方がないのだろう。だから皆に認めてもらおうと思って信じられないような無茶をしでかすのだ。…物語の登場人物で、そういうキャラクター設定である事は重々承知しているのだが、彼女の行動は実に心臓に悪い。特に三十話クライマックスで阿Kenが乱入するまで胸の中に非常に嫌な感覚がついて廻っていた。
　この話では各人の恋愛模様がより深刻なものとなっている。唯一、金正中が青蛇精（姉は天界へ戻った）とお友達付き合いになっているのがマシな位か。あ、あと碧加か。彼女は山本に赦してもらった（もうどーでもいい状態では？）事と命令（人間吸血鬼化の事）された事で、喜喜として極悪な行動を実行している。多分騙されてるぞあんた。
　余談だが最終篇への伏線か、再び短期間とは云え、天佑と小玲が日本に赴く。そこで彼らは孔雀（石井弘こと洗浩英）の計らいで、謎の又ややこしい人物（本人曰く超人）・御命十三（(火韋)烈）に遭うのだが、そこまでの経過でやってくれるぜ亞州電視。十三の眠る塚を守る人物の一人が『JoJoの奇妙な冒険・第三部』のダービー・ザ・ギャンブラーと全く同じ真似を！。馬小玲の魂をコインに変えたり、況天佑が承太郎と同様の方法で倒すとこなんか大笑いさせてくれます。こういうのがあるから香港物は止められん♪

　阿Kenが本篇で漸く話の中心に食い込んで来た。ファンとしては喜びに耐えぬものがある。この話で彼は山本と決別し、共闘する事を選ぶ。彼は何應求の助けで精神で未来と出会い、彼女に『一番好きな貴方、決して自暴自棄にはならないで』と言われながらも、珍珍達、自分を受け入れてくれた人達を守る為に自分の命を捨てて戦いに赴く彼。自分が死ぬ事も辞さず、相討ち覚悟で吸血鬼用ドーピング薬を使用し山本にたった一人で挑む彼の姿は正に良き日本人像、侍そのものである。山本に『お前を生かしているのは私だ。其の私に勝てるのか？』といわれても『俺は死なない。死ぬのは貴様だ!!』と薬を飲み飲み戦う勇姿は忘れられようもないだろう。他にも、珍珍に託された、未来の好きだった花を一生懸命に剪定し世話する場面や、教会で『天よ、私が望むのは公平な裁きです…』と祈って其の為山本にぼこぼこにされた挙句顔面を靴で踏み躙られる場面など、見所が多い。服装が地味になるのもこの話からである。新しい服装はルンペンというか浮浪者ルックなのだが、これは山本達から姿を隠す為のものであると同時に、自分の帰属すべき場所があった事で殊更に他人との違いを強調する必要がなくなったものと推察される。そのせいか、妙に収まりが良く、似合っている。恐らくこれが呉廷燁云うところの『自分が着てゆったりしている物』なのかもしれない。

第七篇
　別名葬月篇。第30話以降の最終ストーリー。余りに詰め込んだ内容なので特に幾つかを特集して見よう。
第三十話～
　嘉嘉大厦の住人は何應求の結界を張ったゲーセンで吸血鬼と化した人々の目を逃れていた。しかし、其の結界も破られ、何應求達は逃げ場を失う。しかし、暴徒の一人に噛まれて吸血鬼化したものの未だ人格を失わなかった金正中の父、金守正（劉國誠）が自らを犠牲にして彼らを救う。その頃、阿Kenを倒した山本の目前で王珍珍は自刃し、『私を噛んで…そうしないと私は死んでしまう…』と彼に決死の嘆願をする。山本は見る見る生気を失ってゆく珍珍を抱きしめ、己の手で彼女を吸血鬼に変える決心をするのだった。だが、その場に現れた況天佑によって阻止される。彼女は況天佑に近付きたい一心でこの様な真似をしでかした事を彼に告げる。山本は（口から泡まで吹いて）逆上し、彼女を天佑から奪い返そうとする。しかしそこに阿Kenが立ち上がり、彼を食い止めた。駆け付けた珍珍の母・嘉嘉をはじめとする皆が天佑に懇願した。『彼女を助けてやってくれ』と。それはとりもなおさず、珍珍を吸血鬼にする事であった。彼は一度は拒むが、馬小玲にまで頼まれてしまった彼はどうしようもなく、彼女の首筋に歯を当てた。阿Kenを退けた山本が見たものは、珍珍の首筋に残された吸血の跡だった…。逆上した山本の怒りは頂点に達し、其の外見まで異形に変えてしまう。そして一方天佑も又、彼女を吸血鬼の業に塗れさせてしまった自責の念から彼も異形と化してしまった。そして二人の放出する力は時空の渦に飲まれた未来すらも現在の時間に引き戻す。思わぬ再会に喜び、彼女に近付く山本。碧加は未来を止めようとするが、『未来を傷付ける貴様など』と山本の手により一撃で殺されてしまった。彼女と抱き合う山本。しかし、其の僅かな時間が彼の命取りになる。何應求の手で傘に封じられていた馬小玲の祖母・馬丹娜の霊と馬小玲の二人掛りで放つ破邪の法術が彼の体を打ち抜いた。『未来…何故…珍珍…何故皆俺に…逆らうのだ…？』肉体が崩壊する最中、山本は呟いた。一方自己制御出来なくなった況天佑は見境無しに暴れるが、小玲は其の姿を見て思わず涙してしまう。それこそ、彼女が退魔の龍族の人間として決して赦されない行為であった。彼女の霊能力は愛した人間の為に涙を流すとき消滅してしまうのだ。其れを見て正気に戻った天佑は、力を使い果たして意識を失ってしまう。そして一年が過ぎた…

　この第三十話後半から第三十一話にかけて展開されるホームドラマ的展開は見る者を驚愕させるに充分だろう。吸血鬼として健気に生き、眠り続ける況天佑の世話を続ける王珍珍＆復生、能力を失った馬小玲から離れ求叔（何應求の事）の元で修行をする事になった金正中と其れを見守る青蛇、癌が進行して入院生活を余儀なくされた林國棟＆其れを見舞う嘉嘉、そして山本が死んだ為吸血鬼としての呪縛を解かれ普通の人間に戻り、結婚した阿Kenと未来。未来のお腹が大きい事にも注目だが、ハンディビデオ片手に自分の嫁さんを撮りまくり、親馬鹿振りを余す所無く見せる阿Kenの吹っ切れたような明るさは何か悪いものでも食べたのかと錯覚させる異様さがある。しかし、ぶっ続けでこの作品を見て感情移入した筆者にはこの光景が例え様も無いほど嬉しい。服装の色も明るくなり、話の雰囲気に合った可愛らしい…というのもなんだが…な格子模様に変わった。今までの苦しみから開放された嬉しさが画面一杯に広がっている。其の一方で目覚めた況天佑の嫁選び？も彼らしくて良い。じっと黙ってた彼が珍珍に向かって只一言『結婚してくれるか？』、其の答えも『ええ』と一言。この辺りの間の取り方は流石。阿Kenは嘉嘉大厦で未来と一緒に住んで、とっくに皆となじんでいるが、それは天佑に対しても同じで、彼らのやり取りも以前の険悪なものとは全く違った暖かいものになっている。馬小玲を想っていながらも吸血鬼となった珍珍を妻にする事を選んだ況天佑に阿Kenは『だが、お前の決定が何だったにせよ、俺はお前の味方だよ』と静かに告げる場面はジンと来るものがある。自室に戻った阿Ken（発音から「健」らしい）を未来が迎える。ここでの二人の会話が又、吸血鬼として長年辛酸を舐めて来たカップルらしい会話でお気に入りである。未来のお腹を蹴った未だ生まれ出ぬ子供に真剣な顔で『よおく聞くんだ。母さんをあんまり苛めるなよ』と告げるのが最高に楽しい。

第三十二話～最終話
　謎の赤マント怪人・御命十三。彼は日本の孔雀達、法力坊主の手を逃れ、香港にやってきた。彼は血液を山本の白骨死体に振り掛け、『1999年7月は来たれり。山本一夫…私がお前を助けてやろう…』と怪しげに呟く。彼こそは凶星・羅候の化身そのものだった。彼は幾度も人界の勇者と戦っては敗れてきた。彼が考え出したのは、自分を追って転生を繰り返す人界の勇者の魂を歪め、自分の側に引き込む事でその敗北条件を消滅させる事にあった。その歪められた勇者、それが山本だった。彼は十三に復活させられた挙句その自意識を奪われ、再び凶行を犯し、終には阿Ken・未来夫婦を皮切りに、何應求、金姐（正中の母親）、青蛇精、林國棟…と其の毒牙に掛けて行った。そして彼は王珍珍までも攫っていった。王珍珍の魂は羅候を呼ぶ為必要な触媒なのである。況天佑は山本を倒す為に集まった勇者の魂を持つ男達、云うまでも無く他の男性レギュラー＝高保、金正中に加え孔雀（おお！）、Peter(宗楊・パソコンで馬小玲と情報のやり取りしてた男）、そして何應求によって何故か死を逃れ、肉体を得た第二・三篇に居た阿平こと開平（程東）と共に山本ビルへと赴く。そこに祖母の力を与えられ霊能力を取り戻した馬小玲が加わり、世界の行方を決める最大最後の戦いが始まった！

　最終決戦で揃い踏みした中年戦隊+姉ちゃん一人。日本ではこんな戦隊物は絶対無理だろう。だがこれが無茶苦茶カッコＥ！はっきり云って痺れるぜ！

　最終話手前、第三十二話にて阿Ken、未来が死亡。それだけでかなりショックだった。其れだけでもないんだけれど、オチに関わるので本編に付いては詳しくは書かないでおく。あくまで阿Kenについて記す。山本の復活を悪夢として感じ取った阿Kenは『山本が復活すれば自分たちも吸血鬼に逆戻りし、せっかくの子供も確実に死んでしまう』と怯え始める。未来は只の杞憂くらいにしか考えていなかったが、ある日の晩、怪しげな笛の音に誘われるように寝室を抜け出した阿Kenを追った彼女は夫の恐怖が本物であった事を知る。山本は以前の記憶を強制的に排除されており、只『自分が裏切られた』記憶だけが強力に残っていた。山本と出会った事で吸血鬼化する阿Ken。この時の彼の顔は絶望と怒りで実に怖い。彼は子供が居るせいか、吸血鬼化しないでいる未来を守る為に彼は必死で戦うが、力の加減を持たず、且つ十三の力でより強力になった山本には到底及ばない。止めを刺そうとした山本の前に未来が飛び込み、二人とも半死半生になる。どうにか逃げ延びた（実際は泳がされただけ）彼らは天佑・珍珍の結婚式会場に辿り着くがそこで彼らの目前で命を奪われてしまう。今際に『私達、次生まれ変わっても一緒になれるかしら…』と泣きながら小さく問う未来に阿Kenも答える。『俺達はずっと一緒だ…』と。そのまま息絶える二人。そのまま二人の結婚写真にオーバーラップし、珍珍に未来が渡す筈だったメッセージカードをもはや誰も居ない未来の部屋で王珍珍、馬小玲が読んでいる。そこには、『送給永遠的好朋友　珍珍、天佑、祝永結同心（永遠の親友　珍珍、天佑へ、心がずっと結ばれん事を）』と書かれてある。部屋には生まれる筈だった赤子の為の玩具が置かれてあり、風が吹き込んで其れをからからと鳴らす…情けない話だがここで私は本当に泣けてしまった。台詞ではなく、生まれる筈だった子供の事に考えが行ってどうしようもなく泣けた。本当に良く出来た演出だった。

　オチはあの話の展開で考えられる限り、最高だった。…と言うわけで皆、見ようね、この作品。出来れば全話ビデオ化いやテレビ放映ってのが希望。マジで面白いって。

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