舞廰〜The Club〜

領銜主演 陳惠敏 徐少強 [廣β]美寶 (脇役:鄭則仕)

 幼少の頃から悪童に苛められていた阿細と馬志飛こと阿飛[徐少強]は何者をも恐れない剛直な性格に育っていた。彼らは阿飛の叔父、韓横山の片腕として敵対勢力と抗争の毎日を送っている。そんな70年代の香港で、阿飛、阿細は韓横山の娯楽事業を盛り立てていた。夜総会(ナイトクラブ)が出来て三年目、夜総会を何とか手に入れようと企む黒社会の周が動き始めた。阿細はクラブの花形の日本人女性を借金苦から救ってやり、その娘と恋仲になる。が…そこに周の陰謀が絡み、クラブは破壊され乗っ取られ、韓横山に続き娘まで殺されてしまう。阿細と阿飛は遂に怒りを爆発させ、周が嘗て自分達の夜総会があったその場所で新たな夜総会の柿落としを行う日にたった二人で殴り込みをかけた!

 日本人絡みの話で且つ、日本刀が出てくる事は出てくるが、残念ながら徐少強が日本刀を振り回す痛快作品ではない。主役・阿細がその担当である。徐少強演じる阿飛自身は暴走しがちな彼を抑える、理性的な男であるが、物語のクライマックスで一人殴り込みをかけようとする阿細に対して、黙って龍葉刀を翳して行動を共にするあたり、中々ボンクラ道を判ったキャラクターだと言えよう。物語の冒頭で阿非は白いジャケットに帽子と、何か宮内洋を彷彿とさせる格好で現れる。其の時は其れでいいのだが、話が中盤に差掛かったにも関わらず、彼の出番は数分しかない。しかも、冒頭ではなかった、徐錦江紛いの口髭まで付けている。そして最後まで口髭はついたままだった。…あんまり似合わないな。うん。

 この映画の見所は、夜総会で働くスタッフの一人・阿権が未だ余り肥っていない頃の(といっても肥っている事には変りはないが)鄭則仕(ケント・チェン)が演じている事だろう。織田無道の様な微妙な坊主頭がイカス。鄭則仕といえば、ワンチャイシリーズで黄飛鴻の一番弟子・豬肉榮をやった他は、『ファントム・セブン』や『新ポリス・ストーリー』に出演しているが、彼は香港では『肥猫』で有名である。肥猫というのは彼の当たり役で、弱痴者(知恵遅れの事)だが心が真直ぐで、その直向さは観る者に笑いと共に感動を与える好人物である。『裸の大将』みたいなキャラクターだと思ってくれれば良い。しかし、『裸の大将』と違って彼は別段何の才能を持っている訳ではない。一人の単なる弱痴者であるから、彼は心無い人間に苛められ、また家族や知人に様々な迷惑をかける。しかしそれでも、彼は物事の善悪は自分で決められるし、その言葉は余計な修飾を伴わない分だけ心を打つ。鄭則仕が他の映画の中で見せる、決して目だけは笑わないあの演技で、彼は弱痴者の肥猫を完璧に演じてのけるのだ。こうやって書くと実に胡散臭げなキャラクターに思われるかもしれないが、演技でも『裸の大将』の雁之介より凄みがあり、目にすれば決して忘れられないキャラクターである。96年には電視劇『肥猫正傳』として放映され、最終的には視聴率40%を超える人気番組になって、その年の最優秀番組になった筈である。『肥猫正傳』は弱痴者肥猫が様々な苦難を乗り越えて、最終的には結婚までする話だった。『ボクは白痴じゃない。弱痴なんだ。だから、自分で物事の善し悪しも判るんだ』彼の主張は世間に殆ど受け容れられるものではない。しかし、彼が少しずつ幸せを掴んでゆく過程で徐々に周囲の人々も彼を受け容れ、応援するようになって行く。その辺りの演出が素晴らしく、また香港電視劇特有の月〜金毎日の放送が余計な事を視聴者に考える暇を与える事もないせいで、次の展開が待ち遠しかった思い出がある。内容も凄まじくハードで、弱痴者同士で結婚する場合、子作りとか子育てはどうするんだ、等の現実問題が常に語られていた。其れも其のはずで、弱痴者を支援する団体がスポンサーに付いていた。其れではいい加減なものは作られない筈である。日本ではこの手の障害者を扱う連続ドラマは先ず作られず、寧ろ差別を助長するとしてタブーにされるのがオチだろうが、案外タブーにはせず、正面から扱った方が世間には良いのではないかとも思える。…て、俺は何を書いているんだか。

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