哈林行動〜Champion Operation〜

領銜主演 徐少強 他

 邦題『野獣たちの挽歌』。主な登場人物が粗死亡する『〜の挽歌』の名前を受けるに相応しい香港皆殺し爆発暴力映画。この映画の最大の見所はスタントとは言えあの香港の街中で人間が車に引きずられ、あまつさえ街中で車を爆発させてしまう所にある。また、今の香港映画では余り見られないが濡れ場でモザイクが掛かる(今なら掛かり様もないシーンで)のも印象深い。この映画、大陸から密入国してきた肉体労働者達の作った幇会『大圏組』と地元香港のヤクザとの仁義なき戦い、そしてそれに巻きこまれた警察との三つ巴の死闘を描いた物だが、監督が大陸出身者なのか、彼ら大圏組に概ね好意的な描写が多く、香港ヤクザのやり方は非常に薄汚く描かれている。警察に関しては、冒頭とラストバトルの前に警察学校の描写があるくらいで、『鳴謝』と付いている割に扱いは少ない。だから『鳴謝』なのかどうかは知らないが…何よりも引っ掛かったのは彼らがここまで荒んだのは全部香港と云う土地が余りに余所者に対して過酷な環境である、とすべての原因を香港におっ被せている事である。そんな事言われたってどうなると言うのだ。そもそも密入国までして香港で金を得ようとしたのは他でもない、大陸仔の連中ではないか。どうも漢人と云う輩は国と国との境が何故に存在するのか考えない傾向が強いようだ。だからあんなに自分達の領土を侵略される事には敏感なくせに自分達が同じ事をしている事に無自覚なんだろうな。

 この物語で徐少強は喘息持ちで家族思いだがその愛情を他人にまで注ぐ事は全くしなかったんだろうな、と思わせるロマンスグレーのヤクザの親分。娘であるヒロイン・イバを心から慈しんでおり、自分の裏稼業の事は出来る限り知らせようとはしない。しかし、息子(こいつがまた冷酷残忍を絵に書いたような人物で、多分徐少強演ずる親分も若い頃はこんなのだろう)が大陸仔に殺された後、彼等を皆殺しにするよう報復命令を発する。そして、その命令が実行されているまさにその時、娘と碁を打つのである。彼にして見れば、大陸仔を殺すのは碁を打つのと同じ位に簡単なことなのだろう。彼は全く淀みなく手を進めている。しかし部下の戦果報告を娘に聞かれ、死んだ息子の為だと語る徐少強に娘は逆に『貴方が兄を殺したのよ!』と彼を責めた。そしてクライマックス、掃討作戦の生き残りの大陸仔男女二人が、『男達の挽歌』よろしく殴り込みを掛けて来た時彼は長い間忘れていた『自分が殺される』と言う感覚に襲われ、只一人汗だくになって襲撃者を自室で待ちうける。この時彼は彼は自分が喘息持ちである事も加え、老いを痛感したに違いない。外では引切り無しに銃声と爆発音が響く。そして遂に部下か敵のどちらかが殲滅した事を示す沈黙が彼の周囲を取り巻いた。部下が勝ったならば良い。しかし、もし大陸仔が部下を皆殺しにしていたのならば…と考えた彼は圧倒的な恐怖の中、銃を握り締め、自室のドアがノック無しに開いた瞬間、反射的に銃弾を撃ち込んでいた。それも一発ではない。目の前でくずおれて行く人物のシルエットを見た彼は自分のしでかした罪の大きさに慄然とする。撃った相手は自分の娘だったのである。思わず名を呼びかけ寄った徐少強に娘は今際のきわに悲しそうに言う『父さん…とうとう私まで…』。その時、彼の自我は崩壊した。彼はへらへらと笑いながら『死んだ…死んだ…』と呟き続けるだけの廃人と化してしまったのである。
 台詞も少なく、喘息持ちのせいでアクションも出来ない設定の初老の人物を徐少強は落ち着いた雰囲気で演じている。決して目立つ訳ではなく、この手の物語ではありがちなキャラクターを彼が演じているのは珍しい。今回は口髭にロマンスグレー、やや長髪のナイスな外見をしている。服装も現代もので他作品に見られるような何か違和感を感じさせる物ではなく、ややもすると『え?』という印象を抱かせる。

情報&資料提供:MEGUMIさん 多謝!

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