『第三版の中にも旧版に流用できるルールはある』

 取り敢えずコアルールも出揃い、もうプレイを本格的に始めた方々もいるであろうというのが第三版のAD&DもといD&Dですが、其の余りな変更故にざっとルールに目を通した時点で『こりゃだめだぁ』と投げ出してしまった旧版からのプレイヤーも多いかと思われます。
 言うまでも無く筆者もそうです。
 しかしながら、流石と言うべきでしょうか、今までの版であった様々なルール解釈の解決案が、この第三版では最初から提示されているのも事実です。このカラムではそうした、旧版でも流用可能なルールの解決案を抜き出して見ようと思います。

 旧来のAD&Dにおいて、特にパワープレイヤーとそのDMの間で頻繁に交わされる会話の類型としてこう云うものがあります。
『マスター、これ(呪文・特殊効果其の他諸々の言葉が入る)効きますか?』
『…少なくとも現存するルールには効かんとも書いてないしなあ。』
『じゃあ効くんですね』
『常識で判断すれば怪しいもんだが仕方あるまい』

…こうした会話を無くす為にはルールの増加が(ゲーム運営上は)望ましいのですが、旧版のルールは最早これ以上更新される事はありません。よって、今後のルールのグレーゾーンの解決法はいきおい、第三版用のそれから持ってくるしかなくなります。こうした版違いのルールからグレーゾーン解決策を導き出すのは、第一版からのAD&Dゲーマーならば最早当たり前の事ですが、現在主流となる第二版からのゲーマーの方はこうした行為に対して拒否反応を示すかも知れません。が、わざわざ旧版のゲームを続けようと言う意志があるのならば、こうした行為をゲームの寿命を延ばす為の必要悪として是非容認していただきたいものです。
 尚、詳しい事についての記述は避けますので、各人がルールブックを参照してください。

『Undead』

 所謂アンデッドはモンスターマニュアルの解説に於いて、得てして『Charm, Hold, Sleepに対して耐性を持つ』なる記述が記載されています。第一版のDMGには『Soulless Monsters which are neither truely dead nor alive』というアンデッドの定義があり、精神活動すらも存在しないという前提がある(その割には人間的な吸血鬼はよく出てくるが)のでCharmやHoldのような相手の精神に働きかける力は無効であり、また生理活動も停止した状態にあるので疲労というものがない→眠る事もない、という結論が導き出されます。問題はここから更に『Undead』という状態を考察し、彼らの持つ耐性がどこまで延長され得るのか、と云う事です。
 『Powerword, Stun』を考えてください。この呪文はHPがある一定値より低い相手を強制的に昏倒状態にしてしまう効果を持つ事がゲーマーの皆様には理解されていると思います。この効果はアンデッドには効くのでしょうか。又、Paralysis効果は?
 これらの問いに対する答えは、所謂常識的見地からすると、『生理作用としての意識(人間の意識も神経伝達の結果である)というものがない死体には意識が昏倒することなど有り得ないし、運動神経の伝達が阻害される事で発生する麻痺状態にもなる筈はない』となります。
 しかし、AD&Dの場合、必ずしも我々の云う所の『常識』が働いているとは正直言えない部分(超自然力の事)が多々あり、判断基準はゲームルールの記述をAD&D世界の『法』として運用するしかないと云う事になります。しかも、Lichについての記述を読むと何と耐性を示す能力の中に、麻痺もあれば死呪文すら書かれているではありませんか。
 で、前文にあったような質問のやり取りが行われる訳です。Lichには書いてある、しかし他のアンデッドには書かれていない、と。
 しかし、第三版のMMにはありがたい事に総論としてアンデッドの記述が与えられており、其れによるとアンデッドにはそうした効果だけではなく更に耐性が延長されています(P.6参照)。これを流用する事で少なくともその耐性の数だけ質疑を減らす事が出来ます。中にはクリティカルヒットへの耐性も含まれているので吸血鬼以外にはVopal Bladeによる必殺効果も関係なくなっています。

『Magic Resistance』

「この呪文はレジスト出来るのか?」  旧版からプレイし続けられている方は、少なからずPCの行使する呪文やSpell like Powersに対して考えた事がお有りだと思います。Magic Resistance(以後MRと略す)に関わる記述はDragon誌上ですら二転三転し、現在最終解釈として掲げられているのが#218の記事によるものです。
 ですが、この記事ですら判定におけるグレーゾーンの完全な解消とまでいかなかったというのが現状です。Wall、即ち何らかの障壁を発生し侵入者の進行を阻む目的を持った一連の呪文に対して有効な回答を示さなかった為、解釈の違いで議論が発生したのです。更に、MRを持つ存在の所持品に対してもMRは働くという現状から、この『所持品』は何処まで延長され得るのか、と云う疑問も解消されてはいませんでした。
 そうした疑問に対する有効な解決法が第三版には示されています。第三版DMGのP.81-83には、件のDragonの記述がSpell Resistance(SR)として再構成並びに加筆され、更にPHBにおける呪文各論について、SRの有無が示されたのです。これを使用しない手は無いでしょう。

『Spell Duration』

 旧来のAD&Dにおいて、Dispel Magicの有効性について議論が交わされる事がしばしば見受けられます。近年ではこういう例も有り得なくはないでしょう。
『効果が永久とされる治療呪文にDispelはどうして効かないんですか』
『High-level Campaignルールでそうなった。まあ、そう云う事だ』
『じゃあ、あのルールブックを使わない限り治療呪文もDispel出来るんですね』
『…そう云う事になるな。しかし今の我々はそれを使用しているのだから問題はない』
『更に質問します。Durationが永久の呪文はAnti-magic Shell下では効果を一時的に中和される…そうですね』
『うむ』
『では、治療呪文によって治った傷や石化したキャラクターも、かの呪文で中和されて傷が開いたり石化が一時的に元に戻ったりするのですね』
『う…っ』
 Dispel Magicによって破壊できる呪文の限定が確定化したのはHigh-level Campaignルールが発売されてからの事ですが、それまでは治療呪文Dispel不可の解決は『常識』に拠って解決されてきました。…つまり、『傷は治ったのだからそこからDispelを掛けられたとて傷が再現される訳はない』と云う解釈です。しかし、其れでは効果時間を示すPermanentの表記が怪しくなります。何故ならば、治療呪文以外のDurationがPermanentである呪文は、呪文が働いている状態が永久に維持された状態であるが故にAnti-magic Shellによってその魔力が一時的に中和されてしまうと云う事にもなるのです。
 結局、第三版ではそうした混乱を示す呪文群のPermanentの表示は全てInstantaneousに書き換わりました。第三版ではPermanentの効果はDispelし得るものとなりましたので、それらの記述を参考にすれば旧来のAD&Dの呪文において、どれがDispel可能か否かを客観的に判断する事が出来ます。

『Spell Compornent』

 呪文行使における主な要素の中に、マテリアル・コンポーネント、所謂呪文用触媒と云うものが存在する事はAD&Dプレイヤーならば常識であり、またそれらの触媒が殆どの場合消え失せる事も周知の事実として受け取られている事でしょう。
 過去の版において、再使用可能な呪文用触媒がどれなのかは呪文各論の記述に任されてきたわけですが、この時も又『ではこの触媒は消費されるのですね』という確認をプレイヤーから求められた時に困る事がありました。例えば僧侶の呪文を行使する場合に殆どと言ってよいほど必要とされるHoly Symbol・聖印がこれに当たります。『常識』による推測に従えばこんなものが一々呪文の度に消費されてしまうと、終いには聖印が尽きてしまい、色々な弊害が予想されるとの理由で消費されないという事になるかと思われますが、これまた明確に定義されていなかった訳です。Dragon#81の記事を使用する事で裏付けは出来るのですが、それにしてすら、どちらとも云えないと言う記述の触媒名が散見されています。
 第三版PHBでは、呪文行使の際に消費される触媒をMaterial components、消費されずに再利用出来る触媒をFocus(僧侶系の物はDivine Focus)と呼び分ける事によって明確に区別しています。所謂Spell Compendiumにはそうした分類ができかねる呪文が未だ数多く残っていますが、それでもCommon Spell群に関しては一目で判る分、負担その物を幾分軽減できる筈です。

『Alignment』

 旧版、特に第二版におけるキャラクターの倫理道徳(AL)については、例(PHBのあれ)が余り良い例とは云えずしかもキャラクターの本音にALがあるだけで、実際のゲーム上ではプレイヤーを規制させる…その枠の中で人物をプレイさせる…だけの明確な規定は殆どありませんでした(ジレンマに有った時位では拘束力などあろう訳もない)。特にEvilの性格の描写に付いては好い加減な記述に終始していました。お陰で、NE・CEそしてCNのキャラクターが実際にプレイすると殆ど区別の付かない状態になっていました。何故ならば、キャラクターの本音がALとして規定されているせいで、パーティを組むのに阻害要因となる外面部分の違いが出なくなった為です。尤も本文ではそれを覆い隠さんが為に色々書かれてありましたが、実際にプレイして見れば、第二版のALルールに殆ど拘束力がない事を認めずにはおれないでしょう。
 第三版ではそうした性格付けのグレイゾーンを無くすべく、殆ど断定的と言ってもよい記述によって倫理道徳が再定義されました。相変わらずEvilの性格に付いてはPCではなく『悪役向け』とされていますが少なくとも善悪の基準はずっと判り易くなっています。第三版P.89からのALに関する各論を読めば、今までのALの定義に比べれば天と地ほどの差異が認められる事でしょう。
 まだあります。第三版のMMにある各生物のAL欄には新しく"Always""Usually""Often"という修飾語が付き、旧来の版には無かったこれらの記述によってNPCの性格を幅広く選択できる様になっています。例えばElfのALは"Usually Chaotic Good"とあり、これは50%以上のElfがCGである事を示し、"Usually"の理由は文化的乃至種族誕生の際の遺産とされ、彼らの場合その主神Corellon Larethian(CG)の影響によるとされています。この神に従わぬ少数派(>50%)がそれ以外のALになる事が多いという推測も成り立ちます。これは云いかえれば、PCがある種族のステレオタイプのそれと違うALをしていても余り珍しくもなく、奇異な目で見られはしないという事になります。
 しかし、ALの再定義の結果、一部の種族のALが旧来のそれと比べて変化してしまったのも事実です。OrcのALがLEからUsually CEに、DrowのALがCEからUsually NEになった事などが挙げられます。Orc場合は主神GruumshのALが旧来のLEから分類上CEに転向した(PHBではLEともCEとも書かれており矛盾しているが恐らくはCE)せいでしょうが、我等が"Demon Queen of Spiders"LolthがNEに転向したかどうかは未だ判らない(個人的には彼女には転向して貰いたくないなぁ)ので、DrowのAL転向の理由は、ぎりぎりレベルで社会(家族以上の単位からなる利益調整体=ゲゼルシャフト並びに意識共同体=ゲマインシャフト)を構成する為に仕方がなかったと今は思われます。新しいAL定義でのCEに社会を作り上げる事は不可能と言っても良いですから。Orcに関しては、その異部族同士で常に争うと言う生活信条から考えてもCE化はやむを得ぬものとして筆者は認識しています。
 ここから類推すると、Drowの社会においては精神世界に関してはCEの僧侶が上位を占めるものの実際に社会を運営しているのはNE(と少数のLE)の実務担当官である可能性がある、と思わせるものが有ります(政教分離はしていないでしょうが)。Drowに関しての記述はDragonの2001年1月号で追加される様ですから、もしかすると何らかの変更が為されるのかもしれません。

『Stacking Bonus』

 AD&Dを続けている中では、シナリオアイテムとも云うべきユニークアイテムが時折見られます。あからさまに強力な剣や、奇妙な防御アイテムなどに思い当たる節はないでしょうか。そうしたアイテムの中には、DMGやUAに掲載されているアイテム群に似た効果を持ち且つ形態が違う物があり、マギカエンサイクロペディア(EoM)に再録されてあったりもします。そして、このような会話が交わされる訳です。
『マスター、この防御アイテム、効果重なりますよね』
『一応他のと重なると書いてあるしなぁ。釈然としないんだが』
 或いは、こう云うパターンもあるでしょう。
『マスター、このアイテム、効果が重ならないなんて書いてありませんよね』
『それじゃあ重ならないんじゃないかね』
『じゃあ、このブーツとディスプレースメントクロークの効果併用によるACの上昇はない訳ですか?』
『防御アイテムにはそう云う記述は有るんだが…仕方ない、認めておくよ』

 EoMが出て、アイテム選択の自由が大幅に増えた事自体は結構な事ですが、結果として更なる混沌状態を引き起こしたのも又事実です。そうして暫しの時間が過ぎ、第三版が出る直前になってDragon誌のSage Adviceに画期的且つ強力なルール変更の見解が発表されました。『似た効果を持つ魔法、アイテムの効果は共に働く事はない』と言うものです。この時点の見解では『…もし貴君が本当にHigh-powered Campaignを営んでいるのであれば別にそれでも結構ですが』というどちらかと言えば歯切れの悪い物でしたが、TSRスタッフがそうした同系統魔法効果の累積について発生し得る問題をはっきりと拒絶する意志が感じられました。この見解によって、Ring of Protectionと Cloak of Displacementは効果の発生原理が違っている為に従来通り併用できますがRing of ProtectionとCloak of Protectionの併用は不可能になってしまいました。
 第三版ではこのルール記述がDMGp.177に最初から記載されており、過剰なキャラクターの能力上昇を抑えています。この記述を旧版に採用するかしないかは各DMの判断に委ねられると思いますが、今後発生し得る危機に対し事前にこうした歯止めのルールを掛けておいても悪くはないでしょう。非魔法手段と魔法の組み合わせと言うのにはOKな訳ですし。

『Face』

 ミニチュア使用時における、クリーチャーの空間占有率とそのリーチをこれまでの版ではまともに表現されることがありませんでした(C&Tでも不充分ではあった)が、第三版MMではクリーチャー各論のFaceという形で空間占有率を定めているのと同時に、DMGのp.67でその生物の持つ攻撃の為の間合い延長の例が記されています。この間合いの変化はクリーチャーの持つ武器の間合いの延長だけではなく、ナチュラルウエポンの間合いにも適応されます。また、スクエアシート上での魔法効果やグレネードエフェクトの表記なども例を挙げて解説してあるので、タクティカルコンバットを行うに当たって大変役立ちます。処理の実際処理を見るとまるでタクティクスオウガみたいだ…と思えんでもないですが。

『Other Creatures』

 ゼラチナスキューブやスライムのようなモンスターに対して、一体如何なる呪文が有効であり且つ無効なのか。また、植物怪物には?アンデッドだけではなく他の生物のタイプに対しても、第三版MMではその辺りの解決がなされています。大体アンデッドと同様の常識的解決が為されるようになっている他、今までGiant、Owlbear、Displacer beastといった怪奇生物の視力がどこまであるのか?と言った物への答えすら、MMのp.5-6に掲載されています。

 更なる解読に付いては…皆様各人が頑張られる事を。

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