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はじめに
 この論文では、スポーツで産業再生ができるのかを検証し、欧州のスポーツ産業政策事例を上げ、大阪のスポーツ産業政策を提案する。
 1章では、スポーツの意味・役割・効果を明らかにする。2章では、大阪の目標となる国際スポーツ文化都市と現在の大阪とのギャップを明確にする。3章では、なぜ大阪でスポーツ産業なのか理由を説明する。4章では、スポーツで産業再生できるのか、スポーツ産業の市場規模を検証する。5章では、欧州のスポーツ産業政策の成功事例をあげる。6章では、スポーツイベントと健康に関するスポーツの経済効果を明らかにする。7章では、大阪を再生するスポーツ産業政策を提案する。

1章、スポーツのバリュー
スポーツ(sports)の語源は、ラテン語のportare(ポルターレ=ものを運ぶ)に由来したものであり、仕事や生活から離れる、どこかへいくこと、気分転換することを意味するものであり、現在のスポーツの持つ意味とは若干異なる。
スポーツの役割として、日本体育協会は、健康の増進や体力の向上のみならず、豊かな生活の実現、地域の活性、人間の育成、国際化の推進、経済発展などさまざまな役割をあげている。また、スポーツが地域に与える効果には、「施設等インフラ整備」「スポーツ用品消費」等、金額であらわせる経済的効果と「知名度・イメージアップ」「社会交流促進」等金額であらわすことができない社会的効果がある。

2章、国際スポーツ文化都市と大阪の現状
大阪が目指すのは国際スポーツ文化都市であるが、大阪の現状を生活面から調べてみると、安全は、治安が悪くひったくりは25年連続全国ワースト第1位。教育は、小中学校の30日以上の長期欠席者(病気および不登校生数)が全国でワースト1。健康は、病気の訴求者率は全国でワースト1となっており、大阪を経済再生するには、スポーツ産業の活性とともに、生活の改善も必要である。

3章、大阪とスポーツ、そして文化
大阪の産業再生にバイオやITやベンチャーといわれているが、バイオや医療関連会社は、東京と大阪の両本社制をとり、決裁権は東京に移っている場合が多い。研究所も地方に移っているが、スポーツ関連企業は、大阪に主機能を置いている。

大阪は文化の街である。関西には全国の約50%の国宝・重要文化財がある。また、大阪はかつて「天下の台所」と呼ばれ、いまでも「食い倒れの街」と呼ばれている。また、昭和20年頃大阪の松屋町でこども向けにマンガが出版されたのが、マンガ産業の始まりといわれている。スポーツのブームとマンガには大きな関係がある。

 大阪はスポーツの街である。1915年夏の高校野球が豊中球場で始まる。今も全国高校野球大会は甲子園球場でおこなわれている。日本初のラグビー専用グランドで、全国高校ラグビー大会で有名な花園ラグビー場が東大阪にある。第1回国民体育大会が1946年に京阪神地方で開催された。1948年第1回東西学生選抜アメリカンフットボールも甲子園球場でおこなわれた。かつては全国高校サッカーも、高校駅伝も大阪で始まった。
スポーツ新聞の始まりも大阪であった。神戸新聞系のデイリースポーツが昭和23年に最初のスポーツ新聞を発行。その後、同年に毎日新聞系のスポーツニッポン、翌年朝日新聞系の日刊スポーツ、さらにサンケイ新聞系のサンケイスポーツ、読売新聞系の報知新聞が発行されている。
 日本のスポーツ産業は、明治36年(1906年)に現在のミズノが淀屋橋にスポーツ用品店を開業したのが始まりされている。大阪がスポーツ産業に適していた理由は、神戸ではゴムやケミカルによるシューズが盛んで、大阪では河内木綿をはじめとする繊維が盛んであり、奈良・和歌山では革製品が有名で、野球グラブなどがつくられている。このように大阪は、スポーツ産業クラスターを形成することで発展してきたのである。

4章、スポーツ産業の規模

 スポーツ用品は、あらゆる素材が使われ、あらゆる商品が作られる。最近ではスポーツドリンクやサプリメントなどもあり、スポーツ産業は、あらゆる産業に波及する。
また、スポーツ産業はいち早く新素材を取り入れる産業でもあり、新素材を生む産業でもある。かつてカーボン繊維が高価で一般用品に使うことができない時、ゴルフクラブのシャフトに使用し、量産効果により価格が低下し、一般に使えるようになった。新素材を生み出したケースでは、冬山の登山者の暖をとるために開発された発熱繊維や肌に触れると涼しく感じる冷感繊維がある。

 スポーツ産業市場は大きくレジャー白書2001によると4兆9590億円が日本に於ける市場規模となっている。しかし、ヨガやジャズダンス、スポーツ新聞やスポーツ雑誌は、含まれていない。そこで、自らが独自に試算すると約11兆6000億円となった。英国のスポーツに対する消費者支出は£152億に達し、英国全体の消費者支出の約3%に相当する。アメリカのスポーツ産業規模は1520億ドルで、アメリカ国内の産業別ランキングで11位になっている。

5章、欧米のスポーツ産業政策
シェフィールド(イギリス)は、ユニバーシアードをきっかけに、スポーツ施設を整え、英国Sports政府より第1号の「National City of Sports」の認定を受けた。また、シェフィールド大学に国際スポーツエンジニアリング協会、シェフィールド・ハーレム大学にスポーツ産業研究センターを設置。大学が研究者と産業界を結び付けて、国内外におけるさまざまなスポーツに関連する研究に取り組んでいる。

ロッテルダム(オランダ)は、NPO団体である「ロッテルダムトップスポーツ」を1990年に設立し、「するスポーツ」と「みるスポーツ」両面を振興している。市内には約1000以上のスポーツクラブがあり、一般向けからトップクラスまで、広範囲なスポーツを推進している。また、都市マーケティング戦略として、1997年に「スポーツと都市マーケティング」という国際会議も開催している。

リヨン(フランス)は、サッカーのワールドカップをうまく活用し、コンベンションや企業誘致、投資を呼び込んだ。スポーツイベントは、取組み方によっては非常に効果的な地域づくりの手法となり得ることがわかった。例えば、海外のプレス対応に力を入れ、国際的なコンベンションを誘致している都市であることをPR。リヨン市で試合が開催される国の投資家や企業のトップを招待し、試合観戦と経済セミナーを実施した。

ミュンヘン(ドイツ)は、コンベンションの街で、ISPO=国際スポーツ用品・ファッション専門見本市おこなわれている。ラスベガスにて開催されるTHE SUPER SHOWと並ぶスポーツ産業界における世界の2大見本市の一つである。ここで開催されている理由は、ドイツがアディダス、プーマという世界的なブランドの本拠地であること。周辺国にスポーツ用品会社の集積が多く、スポーツの消費国でもあることがあげられる。コンベンション産業の核として伝統とブランド力のあるスポーツを活用した例と言える。

6章、スポーツの経済効果
 大阪市のワールドカップの経済波及効果を浜銀総研の方法により試算すると、直接投資(消費支出のみ)は87億3493万円、経済波及効果は約114億4718万円となった。W杯開催にようした投資を考えると、約114億円の経済波及効果はわずかであるとおもわれる。また、観戦者はW杯に支出した費用を、どこかで抑えることになり、マクロで見た場合さらに効果は低いと考えられる。重要なことは、一過性で終わるのでなく、継続性があることである。

運動による医療費の削減の調査によると、1日1時間の運動が年間約6万円の医療費削減となることがわかった。東北大学大学の辻 一郎教授が、宮城県の大崎保健所管内で40歳から79歳までの国民健康保険加入者へアンケート調査を実施、回答者約52、000人について1995年1月から23ヶ月間、医療費の状況を追跡調査した結果、喫煙習慣だけある人は約3.3万円、肥満のみある人は0.9万円、運動不足のみの人は11.3万円、医療費が高くなっていることが分かった。年間では5.9万円の経済的効果があることになる。

7章、経済再生へのシナリオ
1、国際スポーツ博物館による観光客の集客
スポーツイベントは一過性で終わってしまう。そこで、継続的なテーマパークとして、世界NO1規模の国際スポーツ博物館の設置する。これは、大阪が国際スポーツ都市となることをアピールする広告塔でもある。ワールドカップの15万人などのスポーツイベントに比べ多くの観光客を集客できる。

2、スポーツ産業としてのクラスターの形成
 大阪はスポーツ産業発祥の地であり、大阪の繊維、神戸のゴム、奈良・和歌山の革などの環境に恵まれ栄えてきた。今後は、さらに産業クラスターを強化し、関係者が情報交換することで、新しいスポーツ用具、新しいスポーツビジネスが生まれ、世界にスポーツ情報を発信でき、大阪の知名度がアップし、国際スポーツ文化集客都市としての権利を得ることができるだろう。

3、需要の喚起 特に中高齢者へのスポーツ・レジャー提案
スポーツによる健康的なライフスタイルの提供は、大阪への定住にも繋がり、さらに大きな経済効果をもたらす。また、55歳を境に可処分所得が増えることからも、そこに巨大市場がある。中高齢者が楽しめるスポーツ関連サービスの提供が望まれる。
レジャー白書2001を参考にすでに活動している現在市場と今後活動を望む潜在市場を計算するとゴルフ、水泳、テニスだけで8兆3000億円の市場規模になる。高齢者に限らず、こども、女性を含め、ゴルフ、水泳、テニスを普及し、消費の拡大と共に健康の増進に取り組むのことも考えられる。
 
4、スポーツ産業研究所の設置
スポーツ・レジャーに関連する学識者、経営コンサルタント、マーケッターにより、スポーツの経済的効果の拡大等、実践的な研究をおこなう。産・官・学を取りまとめる接着剤となり、新しいスポーツライフの提案をし、新しいビジネス・産業を生み出し、世界に通じるスポーツ・パラダイス都市、国際スポーツ文化都市の実現を考える研究所を設立する。

8章、まとめ
以上のことから、大阪とスポーツには繋がりが深いこと。さらに、スポーツ産業市場が大きいこと。他国では、産業再生にスポーツを使っていることから、スポーツを核とした大阪の産業再生は十分可能であると考える。
今後の課題として、さらに都市におけるスポーツの経済的効果、社会的効果を充分に示す必要がある。そこで、スポーツシンクタンクであるスポーツ産業研究所の役割が重要になる。

2003/1/20


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