
| 日 時:2001年2月21日(水) 19:00 〜 場
所:泰盛ビル 2階 会議室 講演者:今田ひとみさん(大阪外国語大学院生) テーマ:『ベトナムの水上人形劇−その演目に見る特徴−』 |
| 水上人形劇の演目を分類し、それぞれが表現しているものが何であるか分析することで、水上人形劇という民間芸能がどのような特徴を持ち、また、何故今日まで伝えられてきているのかを考える。 |
<ベトナミスト・シンポ報告>
水上人形劇は、元々ベトナム農村における農閑期の娯楽でした。11世紀には人形を遣うグループが形成され、それが発展し、「座」となって、大きな祭礼で人々に見せるようになります。活動範囲も北部全域に広がり、座同士も競い合いますが、その後は戦争により活動を一旦中止します。それらの地方の座は、第1次インドシナ戦争後には活動を再開し、1956年には、専業の人形劇団である中央人形劇団が設立され、地方の座とも交流を深め、互いに上演演目を増やしていきます。現在では、同じく専業の昇龍人形劇団も加わり、外国での公演も行い、外国のマスコミに取り上げられるようになっています。
水上人形劇の舞台は池や湖の水面を利用します。人形の動くスペースと、人形遣いが人形を操るスペースとは、竹の簾で仕切られています。人形遣いはその簾の隙間から、人形の動きを確認するのです。操作方法には、竿を使うものと糸を使うものがありますが、両方を組み合わせたものもあります。また、操作方法は秘密で、一子相伝となっています。
座の構成員は基本的に親族ですが、女性は参加できません(専業の劇団−例えば昇龍水上人形劇団などでは参加しています)。女性は結婚して他所へ移るので、秘密を漏らさないようにするためだと言われます。
演目のほとんどは、生活風景を描写した、非常に短く劇性のないもので、台詞のやり取りはほとんどありません。その代わりに前口上を持つ演目もありますが、それもなく、人形の動きのみという演目も多くあります。何故、このような劇性のないものが、現在まで続いてきているのかという疑問を解決するために、演目を分類・分析し、各演目が象徴するものが何かを考察することにしました。とはいえ、全ての演目について分析結果を挙げていくと膨大な量になるので、分類別の性格を挙げることにします。
演目は、大きく分けて@無劇性A有劇性の2つがあります。この2つを更に分けると、@は
(a)開演の演目 (b)生活風景の描写 (c)祭礼に関する演目
(d)霊物の登場する演目 (e)その他、Aは (a)歴史物語
(b)民話、説話、神話に関するもの (c)戦争に関するもの、となります。これらの分類に含まれる演目をいくつか挙げます。
@-(a) :旗揚げ、前口上、テウの舞… A-(a)
:三国志、徴側・徴弐…
@-(b) :アヒルを飼う、魚捕り、農耕… A-(b)
:氏敬観音、唐僧経を探す…
@-(c) :闘牛、ぶらんこ、神輿担ぎ… A-(c)
:10号線の戦い、ロ川の戦勝…
@-(d) :四霊の舞、仙女の舞…
@-(e) :バナナを切る、競馬…
各分類の持つ特徴は、次の通りです。
@-(a): 「旗揚げ」では、爆竹の音と共に、舞台の両側で素早く旗が揚がったり、テウが観客の同意を求めつつ、「前口上」を述べることで、観客を惹きつける。
@-(b): 普通の人々の生活風景を、楽しいものとして描写している。人生を楽しみ、また、愛するベトナム人を描写しているといえる。
@-(c): 儀礼に関するものと娯楽に関するものとに分けられる。特に宗教儀礼に関するものは、同じ宗教でも、儀礼の形式は、その国独自のものとなっていると考えられるので、ベトナム人自身の意識しない特徴を表しているといえる。
@-(d): 龍と仙女が多く登場する。「(ベトナム人は)龍の子供、仙人の孫」という成句にもあるように、この2つは欠かせない登場人物である。
@-(e): 登場人物の象徴、表現するものが不明。
A-(a)(b): 人間劇の演目を、水上人形劇用に単純化したものが多い。特に舞台(=水)
を活用しているわけでも、水に関する物語が多いわけでもないので、操作技術、人形の造形技術の向上により可能になった、まだ試みの段階にある演目群といえる。
A-(c): 1976年の資料と1996年の資料を比べると、1996年の資料では数が減少している。戦争に対する、人々の意識を高めるために作られたものと考えられる。
水上人形劇の演目は、@の分類に当てはまるものが圧倒的に多く、中でも@-(b)の演目が多いことが大きな特徴で、「劇」というよりも「舞」に近いものです。@の分類に含まれる演目は、全て何らかの形で生活に関わっているもので、人形の動きを見れば、何をしている場面なのかが、老若男女を問わず理解できます。更に、常時、上演されるものではなく、農閑期の村祭りで、上演されるものなので、村人にとっては、その日を「待つ」という楽しみが付加されます。また、上演の準備などに人々の協力が必要です。つまり、水上人形劇の上演は、観客も上演する座も一体となって作る、1
つの小さな共同体ともいえます。
そして、この小さな共同体の結束を高める役割を果たすのが、テウという人物です。テウは「道化」と言われますが、ただ観客を笑わせて上演の間をつなぐといった、純粋な道化とは少し異なります。
テウは、前口上を述べたり、演目の紹介をする人物で、水上人形劇の特徴のひとつです。全ての座に存在する人物ではありませんが、同様の働きをする人物を持つ座もあります。テウは、前口上の中で観客を笑わせることもありますが、笑わせつつ人々を諭したり、世の中を風刺したりします。また、テウは登場する際に、「名乗っても良いですか?」と観客に聞きます。すると観客は、「名乗らなければ名前が分からないでしょう?
」と合いの手を入れます。「合いの手」は現在、観客ではなく、上演する側が代わりに行いますが、元々は観客が入れるものです。この「合いの手」という形式によって、テウは観客と舞台の橋渡しをし、観客はただ「見る」だけでなく、上演に「参加」し、舞台と一体化できるのです。
前口上には様々な種類があります。村人の悪習を諭したり、国の統一を祝うものなどがあり、上演の目的により内容が変化します。例えば、村が村人に伝えたいことを前口上に折り込めば、テウによってそれを伝えることができますから、テウは観客と舞台だけでなく、村と村人の橋渡しの役割を持つと言えます。もっと言えば、テウによって村人同士の結束、村と村人の結束を強めることができるのです。
これまで述べてきたように、水上人形劇はただ見るだけというよりも、参加して共に楽しむ「催し物」といった趣が強くあります。人々の生活に密着し、人々が共同で作り上げる民間芸能の性質が、いわば原型のまま保たれているといえるでしょう。その性質ゆえに、現在まで続けられてきたのだと思います。
(今田
ひとみ)
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*過去のシンポジウムについては、こちらをどうぞ!
・ 2000.11月シンポ(Huynh Thanh Xuanさん講演)
・ 2000.9月シンポ(小林守さん講演)