関西スポーツ文化振興協議会
GREEN SPORTS CLUB


スポーツを軸とした関西の産業再生への提案

  昨今、景気の低迷、教育問題、環境問題、健康問題、企業倫理など行政・学校・企業が単独の努力だけで問題解決することは難しくなってきました。今後は、産・官・学に住民が加わり、互いの目指す方向を一つにし、役割を理解ながら問題に取り組むことが必要と考えられます。しかし、これらの取り組みの方向性を示すのが国や自治体の政策であり、あらためて公共政策の重要性を感じます。

  教育問題においては、今の子供たちは、1日を家庭と学校と塾だけで過ごし、回りはライバルたち。また、遊びといえばテレビゲームが中心で、気にいらなけれリセットでいつでもやり直す。仲間との協調性を必要とするスポーツや生命の大切さを教えてくれる自然と接することが少なくなっています。このような環境で育った子供たちが、自己中心で他人の気持ちが分からない人間に育つ可能性が高いことは想像がつくように思えます。そして、いまだに親たちは自分の子供を一流の大学に入れ一流の企業に入れようと、一生懸命塾に通わせています。本当に今の詰め込み式の教育が、子供にとってまた社会にとってよいことなのか考えさせられます。

  環境問題においても、日本での取り組みは遅れています。ヨーロッパでは、少々高くてもグリーンマークのついた商品を購入するといいますが、日本では、まだ割高のエコ商品よりも、値段の安い商品が売れています。また、企業の環境への取り組みにおいても、本当に環境を考えているのではなく、環境を考えていることが売上げに繋がるという見せ掛けの取り組みが多いようにも思えます。ペットボトルの再生繊維ですが、再生利用の効率性から考えて欧米ではもうペットボトルの再生をしていないといいます。しかし、今日本の企業は、ペットボトルの再生繊維を使ったウエアなどをエコ商品といって堂々と流通させています。

  雇用問題においても、企業は自社の利益のために、従業員を解雇します。そして解雇された人を助けるために、私たちの税金が使われています。企業のために我々の税金が使われているような気がしてどうも納得できません。企業がこのままだと倒産するというのなら、解雇も理解できますが、人を解雇して利益を出し株主に配当している企業を見ると、わたしは自分本意な自己中心的な企業であると思ってしまいます。新規事業で雇用の機会を作るなど、他に方法はなかったのか、企業倫理の重要性と共に政策の必要性を感じます。

  健康問題では、毎日の運動が大切であり、国や自治体も健康管理の観点から運動をすすめていますが、運動を実施していない人が多いようです。ちなみに、日本人のスポーツ実施率(週1回以上)は約35%で、フィンランド、カナダ、オーストラリアでは、80%以上といわれています。

  オーストラリアは、数年前まで日本とほぼ同じ数字でしたが、オリンピックに先駆け、国民に広くスポーツの良さを知ってもらい、取り組んでもらおうと3歳から20歳を対象に「オージースポーツ」というプログラムを導入しました。このプログラムは、スポーツの技術を無理やり教えるのでなく、スポーツすることが楽しいという気持ちを芽生えさせることを主に7つのプログラムから作られています。指導者は、コーチングだけでなく審判、イベント企画、マネジメントを学びます。そして、このプログラムは、学校、スポーツクラブ、地域が一体となって推進されスポーツ実施率が飛躍的に伸びたのです。このように、参加する人のニーズを満たし、学校や地域の協力を得ることが政策成功のポイントといえます。

  このように、これからの世の中で大切になってくるのは、産・官・学・民の4者による共同作業であり、特に調整役となる国や自治体の公共政策がもっとも重要である考えます。そして、公共政策は、住民のニーズを十分に考慮し、産・学の意見を十分に聞き、長期的な視野にたって方向性を決め導入することが重要といえます。

  さて、「スポーツを核とした大阪産業再生の可能性」についてですが、現在わたしが生まれ育った大阪は長期的な経済情勢の悪化により厳しい財政状況にあります。大阪府の事業所の開業率も低く、廃業が開業を上回っています。また、企業や人材が府外へ流出するという問題もかかえています。そこで、大阪の産業再生のために、スポーツを活用したいと考えます。

なぜスポーツが産業の再生に繋がるのか? なぜ大阪の産業再生にスポーツなのか? その理由は以下に説明します。

T、なぜスポーツが産業の再生に繋がるのか?

  今やスポーツは、万人に共通する娯楽であり、スポーツを基盤とした明るく楽しい生活が、豊さを感じさせ、積極的な消費行動へと導きます。よって、スポーツには現在の心理的不安による消費の低迷を解決してくれる影響力を持っていると考えます。
  スポーツを中心とした地域活動により、子供からお年寄りまで楽しむ環境が作れます。また、地域のコミュニケーションが活発になり、地域社会の活性化に繋がります。
  スポーツに関する特有の文化があれば、それが大阪の魅力となり、世界に誇れるスポーツ文化都市として、ブランドを勝ち取ることができます。

U、なぜ大阪の産業再生にスポーツなのか?

  大阪は、スポーツ産業発祥の地であり、スポーツメーカーなど多くの一流企業があります。そのような状況から、大阪を中心としたスポーツ情報の発信が可能であり、新たなスポーツビジネスが大阪から生まれてくる可能性もあります。
  大阪市のオリンピック誘致やスポーツパラダイス構想、神戸市のアスリートタウン構想など自治体がスポーツに力を入れており、大阪はスポーツ文化都市として国際的にも認められる可能性を持っています。問題として大阪には、違法駐車、信号無視などルールを守らないという悪いイメージがありますが、スポーツにより、住民のマナーも変わり、スポーツの持つクリーンなイメージに変わることを期待します。

以下にさらに詳しく説明します。

T、スポーツが産業を再生させると考える理由。

T−@ スポーツは、単なる身体運動に留まらず、健康づくり、コミュニケーション、遊び、自己実現、個性や才能を育むなど様々な機会を与えてくれ、豊かな生活の基盤となります。

  スポーツは、音楽と並んでもっとも人気がある娯楽でもあります。音楽は鑑賞が中心であるのに対して、スポーツには、するスポーツ、見るスポーツがあり、まさに万人に共通する娯楽といえます。スポーツ(sports)の語源は、ラテン語のdeportareであり、仕事から離れる、どこかへいく、気分転換することなどを意味します。イギリスでは、山登りや、食事をすること、女性を口説くことまで幅広くスポーツとされていました。まさに、スポーツとは、競技をすることでなく、遊ぶこと、楽しむことを意味するのです。
  スポーツを通して得ることができる、豊な生活やこころの余裕こそ、心理的不景気といわれる社会に必要であり、これが産業再生のきっかけになると考えます。

T−A 文部省がすすめる総合型地域スポーツクラブの推進により、スポーツへの取り組み方が大きく変わり、スポーツクラブを拠点とした活動が地域の活性化に繋がる。

  現在、日本には30万ほどのクラブや学校の運動部がありますが、約90%が単一種目のクラブで、全体の60〜70%が20人に満たない小さなクラブです。約60%が限られた年齢層で構成されていますが、今後は、規模も大きくなり、年齢層の幅も広がってきます。
  現在の学校での運動部の現状を見ると、少子化の問題と運動経験のある先生が少ないことから、小・中学校での運動部が急速に減少しています。そのために、旧文部省はヨーロッパ型の総合型地域スポーツクラブをすすめ、今後スポーツは学校でなく、地域スポーツクラブでおこなうことになります。
  ここで、ヨーロッパ型の総合地域スポーツクラブの特徴についてまとめておきます。地域スポーツクラブは、地域住民の生きがいの場であり、スポーツだけでなくレストランもあり、結婚式もでき、様々なイベントにも参加できるコミュニケーションの場となります。クラブハウスには様々な年齢層の人が集り、子供たちの社会教育の場でもあります。クラブは地域住民のものであり、みんながクラブに参加し、自ずと地域の活性化に繋がります。
  しかし、現状は住民への理解や提供するプログラムの内容、指導者の確保、運営費用の確保とクラブ運営には多くの課題が残されています。
  そこで、国では申請のあった地域スポーツクラブに数千万円の補助金を出しているのですが、この補助金の使い方に問題があります。あるクラブでは補助金を参加費用に当て、補助の期間が終わると、参加費が高くなり参加者が減少するという、無駄な使い方をしています。地域スポーツクラブの運営における問題はもちろん、行政にも総合型地域スポーツクラブ推進政策において、単なる金のばらまきという問題があります。今後、地域スポーツクラブを有効に活用していくためには、補助金の使用規準の見直しを含め、支援策の見直しが必要といえます。

T−B スポーツ文化を充実させることで、国際的に魅力あるスポーツ文化都市となる。

  スポーツ文化は、スポーツをすることだけでなく、スポーツ施設、スポーツスクール、スポーツ用品や用具の製造、スポーツイベントの開催、プロスポーツチームの経営、公共スポーツサービスなど、スポーツに関連する教育、医学、産業、都市づくりまですべてを含めスポーツ文化と捉えることができます。これらを連携し充実させることで、他の都市にはないスポーツ文化を持った魅力的な都市ができあがります。また、そこに住む人たちも、スポーツ文化に対する、高い理解と高度な知識を持ち、世界から注目を浴びることが想像できます。
  スポーツ文化レベルが高いということは、スポーツへの参加人口が多いというだけでなく、スポーツに対する理解が高いということで、中学校・高校で使用するスポーツ用具の製造方法、スポーツ発祥の歴史、スポーツの重要性などを教え、企業はスポーツ文化を大切にし、協力的で、国や自治体も積極的に施設の充実やイベントの開催に取り組み、住民も積極的に参加するという取り組みを意味します。
  このようにして、産・官・学・民が協力し合い、都市ぐるみでスポーツ文化を盛り上げることで、国際的なスポーツ文化都市としてのブランドを手に入れることができるでしょう。
  また、これらの延長線上には、スポーツに関連する分野として福祉、医療、情報といった分野があり、よい意味でこれらの分野もスポーツ文化の影響を受けると考えられます。

U、スポーツと大阪には密接な関係があるという理由。

U−@ 大手スポーツメーカーの発祥の地が大阪であり、日本のスポーツ産業は関西から始まっている。また、それらの企業を中心に、スポーツ用品の研究開発が、関西を中心に行われている。

  日本のスポーツ産業の歴史は、明治36年にミズノが淀屋橋にスポーツ用品店を開業してからといわれている。日本の大手スポーツメーカーである、アシックス、デサントも大阪で育った企業です。大阪、関西がスポーツ産業に適していた理由は、ゴムや革ならびに縫製をおこなうところが多かったからといわれています。このように大阪は、スポーツ産業発祥の地といえる歴史的背景を持っており、もう一度、大阪がスポーツ産業を核にして発展して欲しいと考えます。現在、すでに大手スポーツメーカーが関西に集まっており、スポーツ用具の基礎研究は関西で行われています。そこで、スポーツファッションやスポーツ用品の情報などあらゆるスポーツ情報を大阪から発信し、スポーツに関連したニュービジネスが大阪から生まれることに期待したいと思います。また、スポーツメーカーの持つ研究施設や所有する歴史的な商品、スポーツ博物館もスポーツ文化の一つであり、大阪がスポーツ文化都市となり得る可能性があると考えます。


U−A
大阪市が、2008年のオリンピック開催地に立候補し、スポーツパラダイス構想を、神戸では、アスリートタウン構想など、自治体がスポーツに力を入れている。

  大阪市は2008年のオリンピックの候補地となっており、住民の関心がオリンピックに向いています。個人的な考えとして、2008年大阪オリンピック開催は難しいと考えますが、パリが開催地になりますと、2012年に大阪開催の可能性があります。(中国が選ばれると、2012年に日本の開催はありません)。大切なのは、オリンピックを開催することでなく、オリンピックやスポーツ対する理解であり、みんなが一つのことを助け合いながら取り組み、スポーツを盛り上げていくことが大切と思います。それゆえ、2008年に大阪が決まらなくても、2012年に向け、引き続きスポーツに対する啓蒙活動、普及活動ができる準備が必要と考えます。(余談ですが、個人的には2008年パリ開催のあと、2012年のオリンピックを日中共同開催で提案したいと思っています)。また、オリンピックだけでなく、国際的なスポーツイベントの開催や、プロ野球、Jリーグなどプロスポーツイベントに観客が集まる仕掛けを、産・官・学で取り組みたいと思います。スポーツは、音楽、映画、食事、お笑いも含みます。遊び=スポーツです。とにかく、スポーツを楽しくするための演出に全力を尽くすことが大切であり、大阪であればこそ、市や府の支援が得られ、実現できるのではないかと考えます。

  ただ、関西のスポーツイベントへの参加率は関東に比べ低く、96年のデータで見ると東京都市圏の人口約3200万人、京阪神都市圏の人口約1600万人で人口はほぼ半分ですが、Jリーグ観戦者の比率は東京都市圏58%に対し、京阪神都市圏で10%になっており、関西のJリーグ観戦率の低いことが分かり、今後、住民へのスポーツの理解と啓蒙活動が重要と考えます。

  このように、スポーツによる大阪の産業再生には綿密な計画と、産・官・学・民の4者による共同作業が必要となり、その計画を支援する政策は不可欠といえます。また、これらの4者を理解しコントロールできる人材も不可欠といえます。

いずれにしても以上のような理由で、21世紀の大阪は、スポーツ文化を中心に産業が活性化すると考えます。

  今後の課題としては、昔から、祭りには金を出すが、スポーツには金を出さないといわれますが、この地域スポーツクラブにより、スポーツは祭りと同じくらい楽しいものであることを理解してもらえば、スポーツにもお金を使ってもらえ、それが消費へと繋がると考えます。そのためには、大学関係者だけでなく、民間のコンサルタントも加わり、新しいスポーツへの取り組み方とそれを支援する施策の研究が必要と考えています。

また、大阪を中心とする関西には、大手スポーツメーカーの研究施設があり、スポーツ用品用具の研究は関西が進んでいますが、スポーツ経営学やスポーツマーケティング、スポーツ政策等の研究においては、民間ならびに大学においても関西は遅れています。今後、魅力的なスポーツ文化都市を築いていく上で、スポーツを総合的に研究するところがないということは非常に残念なことです。ぜひとも、スポーツを総合的に研究するスポーツ総合研究所の設立を、大阪市・大阪府に提案したいと思います。また、スポーツを理解してもらう、人を育てるという意味からも、大阪市立大学、大阪府立大学に、スポーツ産業関連講座の開講を提案いたします。

2001/1/1


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