『THE UNDERDARK CRAWLER』

或いは

『闇仙子シェリンの受難の日々』

 無事に渡河を完了した一行は、どうやら取り越し苦労か、と少々安心した。一行は更に奥へ奥へと進んで行った。

5.Fighting with Drow in Darkness

 地下世界を縦横に冒険するシナリオで、遭遇する事そのものが災難以外の何者でもないエンカウンターは多々存在する。その内の一つがDrowとの遭遇である。彼らはその全員が魔法戦士である他に、その強力な魔法抵抗能力は生半可な実力の呪文行使者の魔法など殆ど無効化してしまう(注意;筆者の所ではレベルに応じて魔法抵抗能力の%が前後する第1版ルールを使用しています)。彼らの戦術は基本的に殺戮の為ではなく、強力な催眠性を持った毒物による無力化を目的としている。彼らの武器は基本的に魔法を宿していないが故に毒物を仕掛ける事が可能(Dragon#32の記事より)であり、その為に彼らの脅威性を更に高めている。彼らの使用する、一般にはDrow Sleep Poisonと呼ばれる毒物を塗られたハンドクロスボウの毒矢は、彼らの生来持ち合わせている(R.A.Sarvatoreの著作によると訓練で身に付けさせられるそうだが)Faerie Fireの呪文、敵の目に向かって放たれる5'半径のDarknessといったSpell like powerと組み合わされる事で脅威的な命中率を誇る。命中してしまえば対毒ST判定に-4の罰則を付けて強要され、且つ失敗してしまえば1-10ターン気を失ってしまうのだから始末に負えない。それに実際の所は、彼らの使用する武器の殆ど全てにこの種の毒物が塗られているといっても過言ではない。刃に塗られた毒物が戦闘に於いて効力を発揮するのは精々二度の命中(第1版DMGのp.20より。命中判定ではない)であると言っても、二度対毒判定をする事には変わりがない。また、Drowに関しては筆者も含め相当数のファンがいるらしく、ルールの追加も多種族に比べて多い事にも注意を払わなければいけない。

 …と云う事を踏まえて今回の解説を。敵Drowは先ずLeomund's secure shelterに気付き、Dispel Magicをその効力範囲である30'立方から充分に離れ、且つ狙撃可能な距離に自分達を配置しておいて投射した。判定は成功し、当の呪文を破壊しついでにマイロン(9th LV)の他の呪文も破壊している。更にその手下がFaerie FireのSpell Like Powerを使用し、人間四人をその効果に入れたがシェリンには魔法抵抗能力が備わっていた為に判定は失敗、彼は全く何の影響も受けなかった。シェリンは『安寧』のサイン…これはサルヴァトーレの小説に描写がある…を使用したが受け入れられず、已む無く自分の5'半径darknessを使用し彼らの視界を閉ざした。この間1セグメント。第1版ではSpell Like Powerの使用は通常移動・攻撃と同時に行う事が出来る(sage adviceによる)のでこの行動もOKと言う判断を筆者は下した。Darknessの呪文はDrowにとっても見通す事は適わないので、飛び道具を躱すにはもってこいである。何せ、標的を狙う事が出来ないのだから。また、闇黒空間が5'半径の球体の形で発生する事も利用できる。敵が飛行生物でない限り、必ず足元から人間達の光源に入ってくるのだから、其れ目掛けて斬り掛かれば良いのである。相手は闇の中に居る以上イニシアチブを取る事は適わない為に楽で効果的な戦術と言える。
 小説の中ではDrowがパーティの中に居る為にこの様な作戦が可能であるが、もし普通のパーティでこの事態になったならば、かなりの危険な状態になったと言えよう。今回の小説で使用した敵Drowは、5lv戦士/5lv魔技を小隊長とする、ごく当たり前(Dモジュールでエンカウントする標準的男Drowによって構成される)小隊である。他の構成員は、4lvの戦士*1、2lv戦士*8名(実際には7-10の乱数)であり、数字だけ見ていれば大した事はないのだが、それらが全員darkness、faerie fireを単なる意思発動で使用できる事、魔法を高確率で無効化してしまう事、そして件の毒を標準装備している事を考えた時、如何に危険か想像できるだろう。対応に時間を掛ければ掛けるほど、忌まわしい毒によって眠りにつかされるキャラクターが増えるだけであり、最後には奴隷にされるか、慰み者にされた挙句殺されるのがオチである。

6.Scouting

 偵察行動や情報入手活動が必要なのは別に屋内・外を問わない。未知の領域を探査する為には、そうした活動は当然の向きと考えられる。目的地とその周辺の地図が入手可能ならばそれを入手するだろうし、敵が何者か知った上で作戦を練るのはこの上なくパーティに有利に働くことだろう。これは現実世界においてツアーではない旅行を計画した時、訪問先の情報がないのとあるのではその安心の度合いがずいぶんと変わるのと同じ事である。全ゲーム中一を誇る危険度の高い旅を提供してくれるAD&Dでは尚更だろう。DSGのp.59でも、短いながらもその重要性を説いている。尤も、得てして実際のゲーム上の冒険においてそうした情報がDMから予め提示される事は殆どないので、そうした活動の殆どは専ら魔法と自らの足に頼る事になるのであるが。情報収集を行い、その結果、計画を実行するのが冒険家としては当然の事である、とAD&Dのプレーヤーならば考えるべきである。無計画な冒険を決行して遭難する輩はゲーム、現実に区別はない。
 このカラムで行っているような、どれだけ時間が掛かるか判らない地下世界をさ迷う事になる冒険は実際のゲームでは殆どないと思われるが、長時間の冒険、しかも集落に立ち寄って補給が取れない事が予め予想される冒険を決行する場合、Create foods & waterを行使できる僧侶系キャラクターを同行させる事は有効いや、必須と言っても良いだろう。早い話、この小説のパーティは彼女の作り出す糧食に頼っているので、彼女が倒れる事は直接パーティの危機となるので皆が守ろうとするのは当然である。
 冒険の現場に着いても、情報入手活動は重要である。パーティの移動の前に、パーティ本隊から幾分先行して状況確認を行える斥候の存在は貴重で、特にアンダーダークを進む場合、シェリンのようなDrowやDwarf、Svirfneblinといった、地下環境に適応した種族を味方にしておく事が望ましい。そうでなければ危機が増えるだけの事である。
 少なくとも斥候に出すキャラクターは光源を所持していても使用せずに済む赤外視能力を持ったキャラクターを使用すべきである。闇に住まう生物は光に頼らぬ生活を強いられている為に赤外視能力を持ったものが多く、光に対しておよそ敏感なものである(完全に目のない生き物は論外であるにしても)から、自身が光を使用する場合は限られている。因みに灯りを敵が見分ける事が出来る距離についてはWSGのp.74・75に掲載されているので其れを参考にする事。最低でも敵対者と同じ条件でないと偵察は出来ないと考えよう。偵察行動者の視力が封じられていたのでは何にもならないし、もしもそうでないならば、パーティから先行するキャラクター(囮でもある)は、Rangerの様に不意打ちを受ける可能性が少しでも低いキャラクターにすべきである。尚、先行するキャラクターは本隊から30フィートは離すべきである。AD&Dで不意打ちの判定を強要されるのは10-30フィートであり、そんな判定をするのは一人だけに止めたい。又、複雑に入り組んだ洞穴を探検する場合は、後衛の者も其れくらいは離しておいた方が良い。理由は同じである。横穴から追跡者が現れないとも限らないからである。
 尤も、暗視能力も持たないパーティが地下に挑む事自体自殺行為だと思わなくもないのだが。
 また、偵察者はパーティに一人は居るだろう魔法使いにInvisibilityを掛けてもらって動く事を希望したい。赤外視の能力ですら、透明化したキャラクターを看破する事はないからである。DSGの例ではGaseous formを使用する事も挙がっているが、此れは少々特殊と言えよう。シェリンの場合は自分の持つ外套・Piwafwi(75%確率のElvenkind Cloak)と足音を消す事の出来るブーツ、そして彼自身の持つThief能力からこの問題を解消している。Drowを倒した場合、その所持品は無駄にすべきではない。日光を浴びればボロ屑のようになるのは致し方がないが、それまでは有効利用させてもらおう。…生き残りたければ。
 さて、偵察自体の有効性はこれまで述べて来たが、偵察行動をしたからといって必ずしも安心できる訳ではない。アンダーダークには、隠遁能力に秀でた敵が多いので偵察によってそれらを看破する事が出来ない場合も十分有り得る事だし、場合においては次元の壁を乗り越えて攻撃してくる敵すら存在する。こうした連中が存在する事が、何らかの痕跡によって確認されたならば速やかにそんな場所からは離れた方が良い。この小説でシェリンが警戒を呼び掛けている敵、それはMindflayerの事である。彼らの持つ超能力のルールそのものは第1版の其れを使用しているとは云え、彼らの能力は決して侮れない。Wareratを使って攪乱させている間に彼らがパーティの背後にEthereal Planeから現れ、Mindblastその他の攻撃を発射するのは良くある手である。彼らの精神攻撃に対する判定を失敗したならばパーティには悪夢が訪れる事になるのは必定である。

7.Use of Poison

 マインドフレアの恐怖から逃れたパーティを助けたのは闇仙子の使用する毒物である。今回は生き残りの為に毒物を使用する事について書いてみようと思う。
 AD&D第1版において毒物の使用が規制されている基本クラスはParadinと騎士(Evil除く)僧侶(Evil除く)、Bard(Evil除く)位なもので、他は特に記述がない限り、DMの使用許可が下りる場合(これが曲者だったりするのだが…)は使用が赦される。毒物についてのルールはDragon誌のそれも含めると幾つもあり、Dragon誌の32、59、81号は目を通しておいた方が良いと思われる。それによるとGoodのアラインメントを持ったキャラクターは原則として使えないし、ニュートラルのキャラクターにしても止むを得ない場合に使用する云々と書かれており、基本的には悪人の使用するものと認識されている。しかしながら、非常手段としての毒の使用は心に留めておくべきである。楽に戦闘に勝つ為ではなく、自分達が生存する為に毒物を使用する事にまでDMは口出ししないと思われるし、生存の為の努力をしないキャラクターは死んでも文句は言えない。
 AD&Dの毒物には大別して5種類が存在する。内服する事によって毒効果が発生するもの、武器に塗り付け傷口から毒効果を生じさせるもの、同じく武器に塗り付けるが、その効果は生体に触れた時点で発生するもの、毒ガス、そしてある種の生物が攻撃乃至防御用に備えてある毒物である。内前者4種類については暗殺者ギルドがその販売管理を手掛けており、眠り薬を除いて、暗殺者の他には盗賊・魔法使いしか入手を赦されていない(しかも低い効果の物に限る。尤も、Dragonのルールを片端から入れて行けばアルケミストやらアンチパラディンやら毒物の製造或いは入手可能なキャラクターが他にも居る訳ではあるが)。
 プレイヤーキャラクターが地下世界を探索する際にはこうした毒物も可能ならば予め入手しておく事をお勧めする。理由は小説でも述べた通り、生き残る為である。戦闘が連続しやすい環境である以上、一々時間を掛けていたのではキャラクターが疲弊しきってしまう、その危険を減らす為である。眠り薬は毒薬の中で最も入手しやすくまた効果的(失敗すれば2ラウンド後に眠ってしまう。対毒判定を成功しても3ラウンドはSlow状態になる)なので戦闘を有利に運びやすい。普通キャラクターが使用する毒物は内服型以外のそれになるだろう。毒の瓶一本でどれだけの得物に塗り付けられるか、その辺りは使用するルールにもよるが、筆者が判定で使用しているDragon#32の記事によると6本の鏃か8本のダーツ、或いは12本の針、1本の短剣か槍の穂先に塗る事が可能である。と言う事は、剣に塗るにはより多くの量が必要となる事がお判り頂けると思う。Longswordに充分な毒を塗り付けるには3本の毒瓶が必要となり当然その分コスト高になるので、普通こうしたものは闇仙子宜しく飛び道具に使用する事が望ましい(パーティに飛び道具を使えるキャラクターが居るのならば、パーティにとって素晴らしい戦力となろう)。ついでに言うと、毒物を仕込むにも其れなりの時間が必要なので、それに対する工夫も怠ってはいけない。
 毒能力を所持するモンスターを殺した時、その毒物を採取しておくのも良い方法である。毒虫の怪物は大抵そうしたものをモデルとなった生き物と同様に所持しているので簡単に採取できる筈である。こうしたものについてはDragon#81に詳しく纏められているので参考にしていただきたい。きっと新しい楽しみをプレーヤーに提供する事が出来る筈だ。尚、毒物は魔法の刃には塗布する事が出来ないというルールを採用する場合、DM、プレーヤーはその事に注意しなくてはならない。折角の毒を使用できないのでは宝の持ち腐れである。

続く

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