『THE UNDERDARK CRAWLER』

或いは

『闇仙子シェリンの受難の日々』

 さて、とある事情でダンジョンサバイバルについて書く事になった訳ですが、そのままDungeoneer's Survival Guide(以後DSG)の通り述べ立てても筆者が面白くも何ともないので、状況を小説から拝借して解説する事にします。

1.Climbing

注意:闇仙子のシェリンが彼らには見えないのに崖下までの距離を大凡云えたのは、彼が種族特有の非常に強力な赤外視力を使用した事による。このパーティは魔法の剣による半径20'の明かりを光源として使用しているが、不意打ちの事も考慮しシェリンは常にパーティの30'前方で行動している。正直、彼の本意ではないのだが…

 シェリンが魔法使いマイロンの言葉を聞いてうんざりするのには理由がある。マイロンは事も無げに『ロープを伝って』降りるといったが、事はそう簡単ではない。レビテート能力の助けを得る事が出来るDrowのシェリンならばいざ知らず、普通の人間はこの菌糸でぬらぬらする状態の壁を足を滑らせずに降りる事は出来ない。
 確かに、DSG14-16ページをテーブルだけ読むと、ロープを伝い、壁を蹴りながら降下すれば普通の人間でも80%の成功率とある。しかしながら菌糸によってぬらぬらしている状況を分析すると、実際足場としてはこの段階はSlipperyに分類され、全く何の役にも立たない事がはっきりする。結局、ロープを伝う事でしか降下できないのである。
 となると、ゲーム上この判定はRope & Wallではなく、Poleの項目で判定しなければならない。成功確立はロープ其のものが乾いて丈夫であるNonslipperyであるとしても僅か60%でしかなく、更に鎧の装着によってその確率は更に低下する。しかも、Thiefではない彼ら一行の移動速度は、1ラウンドに12フィート(+Dexのリアクション修正)しか降下できない。約9ラウンドで降下を終了できるとは云え、その落下の確立は相当高いと云わざるを得ない。安全に降下するには、ロープにキャラクターを縛り付けてゆっくりと荷物と同様に下ろすしかないのである。
 だが、ロープの荷重限界がDragon#135にて設定されている(普通のロープの安全荷重は1100ポンド)であるといっても、冒険用装備を身に付けた戦士なんぞ、並みの筋力の持ち主では到底支えきれるものではない。シェリンが魔法使いに良い方法はないか、と聞いたのは、一度にキャラクターを安全に降下させるために便利な呪文、例えばFeather fall…を覚えてはいないかと言う意味である。

 結局、彼らは遠廻りをし、ワンダリング・モンスターとの戦闘に巻き込まれる嵌めに陥った。

2. Poisonous Gas & Cave-ins

 洞窟探検をするに当たり、恐ろしいのはモンスターばかりとは限らない。天然の毒ガスや落盤はそうしたものの例の一つである。毒ガスの類は自然界に意外に転がっている。比較的出遭いやすいのは小説でも出た硫化水素ガスである。この空気よりも重い、卵の腐ったような臭いを出す火山性ガスは充分な殺傷能力を持つ。ゲームの上でも充分に役立つ?事だろう。其れだけではない。換気というものが先天的に不足しているダンジョン内ではモノが燃焼した時に発生する二酸化炭素であれ、一酸化炭素であれ、溜まっている可能性が十分あり得るのである。DSGではダンジョン内で発生するであろう悪影響を与える気体を総じて単にPoisonous gases、Noxious gasesとして紹介しているが、化学を齧った人間ならば兎も角、ゲームの判定レベルでは余り頓着する必要はないだろう。これらの気体に臭いがある場合は、DSGのp.37・38でOdor detectionの判定(Wisdom基準)を行い、成功すれば判るようになっている。しかし、一酸化炭素のように無味無臭の毒気ならどうするか。こうした場合を考慮し、DSGでは生きた小鳥を携帯し、人よりも毒ガスに反応しやすい弱いこうした生物の反応を見る事を奨励している(現実世界でも行われている)。
 こうした事態を発見した場合、普通は適宜な対処策がない場合は撤退する事が良いのは云うまでもない。魔法使いが大量にDrawmij's Breath of Lifeの呪文を所持しているとか、空気要らずの一部のアイテムを全員が所持してでもいないのならば…。

 そして、落盤はダンジョン探索において、何時発生するか判らない一番の恐怖である。熟達したDwarfですら、その発生を予見する事は不可能である。小説では都合良く?発生した落盤であるが、実際のゲーム上に於いてもその確率は無視できる値とは云えない。落盤の発生し得る脆い天井部分をDMが設定した場合、その地点を通るキャラクター毎に5%という、1/20で発生するのである。しかも、DMは状況に応じてその確率を変動させる事が出来る。例えば、そこを通りぬける生物が大型だったり重い荷物を運搬していたり云々。その地点を走り抜けた場合ならば確率は倍になるといった例がDSGでは紹介されている。その地点で戦闘が起こった場合、その時発せられる音ですら落盤の危険性を増す。迂闊な行動は死を招くものである。大体、何も設定していなくとも、ダンジョンに潜っている1日ごとに1%(又は10日に10%)で落盤は発生し得るのだ。
 更に、一度落盤が発生すると天井はそこから連鎖的に洞穴の天井を次々に崩してゆく可能性が存在する。所謂連鎖反応Chain reactionというものである。これについてはDSGp.40に表が存在するが、相当な確率で発生してしまうそのルールは静かなる恐怖となってDSG読者の意識を捕らえる事だろう。
 大体基本の落盤のエリアは20'*20'であるが、そこからその真上と両隣の同じ位のエリアで連鎖反応が約3割で発生し、更にそこから隣接するエリアでその半分の確率で更なる連鎖反応が発生する。こうして発生した落盤によるダメージは落盤した岩(泥や水ではダメージが変化する)の厚さ10'毎に4-32ダメージを与える。このダメージは対石化STの成功により半減できる。一度に崩れる天井の厚みは特に設定されていない限り3フィートとして設定されており、これが連鎖反応によって更に強化される可能性は無いとは云えないが、まあ、この位のダメージは覚悟しておく事である。熟練したレベルの冒険家ならば耐えられるだろうが、体の弱い専業魔法使いは特に注意せねばならない。一体何個の石が落ちてきているのか判らない以上、(特に第1版用の)Stoneskinの呪文は当てにならない。

3.Crossing a Chasm on a Rope

 地底河やクレバスといった大きな空間を渡る為に、PC用の殆どの種族は色々な手段を必要としなければならない。方法其のものに付いては、非魔法的な手段から魔法的な手段、果ては超能力まであるのだが、この場ではあくまでも誰にでも使用し得る非魔法的な手段を挙げて行く事にする。
 今回小説で挙げたスヴァルトジェットの川幅はざっと60フィートである。この距離が鈎縄(Grappling Hooks)を使うにせよ、ロープを環っかにして引っ掛ける(Thrown Loop)にせよ、彼には無理な話である。
 何故に無理なのか。DSGのp.16から17を見て頂きたい。シェリンはStr12の典型的なFiend Folioルールを使用した男のDrowであり、Thiefとしてのクラス能力を8LVとして持っているのだが、鈎縄を届かせようにも其の有効距離のルールが(Str/3*10)フィートと規定されている為、彼の膂力では有効距離は12/3*10=40フィートでしかない。ロープを引っ掛けるのはそれよりもマシだとは云っても、表6を見れば其の距離は50フィートであり、10フィート足りない。
 しかし、STRが18/82の設定であるアボットが鈎縄を使用した場合、其の距離は計算の結果60フィートとなり、ぎりぎり届く計算になる。このパーティには他にロープを投げる事が出来るキャラクターがいない(ロープの使用に慣れ親しんだと思われる身分の出自のキャラクターがいない)し、ましてや組み立て式のボートを持って来ている訳でもないので他の方法はいきおい魔法に頼る事になる。シェリンがアボットに鈎縄を渡す事よりもマイロンに魔法の使用を促したのは唯単に時間が節約できると考えた為である。
 鈎縄を巧く引っ掛ける為には、DSGのp.16、表3に従い、石筍をStone Parapet或いはRockey Edgeと見なし(筆者は引っ掛かりやすいと見なせば前者だし、そうでない場合は後者とする)判定を行う。1ラウンドに1度この試みはなされるが、失敗すればロープの巻き戻しに1-4分を必要とする。かつ、本当に巧く掛ける事が出来たかどうかの確認も必要であり、そうでない場合1-6分で鈎は外れてしまう。こうして大体平均すると20分強もの時間を要してしまうのでシェリンは鈎縄をアボットに託したのである。この河がもっと幅の短いものであれば、シェリンもマイロンにFlyではなくWall of Stoneでもないかと尋ねていたかもしれない。最も、この呪文を使用して橋を掛ける(壁を曲げる)場合、その出現する壁面積は減らされてしまうので、マイロンのレベルでは話にならないかもしれないが。
 参考程度だが、DSGのP.17にはジャンプのルールも掲載されている。これを読むと自分のPCがほんの3メートルを飛び越す事すら容易には出来ない事を知らされ愕然と出来る。

4.Bridge(Rope Bridge)

 渡河、或いはクレバスなどをロープだけで渡る事は得てして危険な状態に陥り易い。無論これが全て我等が冷血にして他人(プレーヤー)の苦悶する様を見て喜びを感ずるサディストDMの思惑によるものだとはあながち云いきれるものでもなく、PC達の敵となる連中も阿呆ばかりではないと言う事であろう。パーティが容易に分断するこの状況は実に敵にとって襲撃しやすいと言うことである。
 渡河そのものについては、ロープで互いを繋いでざぶざぶと進む方法が一般的だが、それについてはBeholder氏の所に既に解説されているのでそちらを参考になされるが良かろう。今回小説のキャラクター達は河に足を踏み入れる事をせずに、崖を越す時と同じ方法を用いている。理由としては既に述べたが、この河には大魚がいる事が知られている為に、敢えて水の中に進入する危険を犯したくない為であり、そんなものがいないと予想される程度の川幅、水深、流れの速さならば彼らもそうしていただろう。地底には思った以上に危険な水中戦に優れた生物が豊富で、そんな連中と戦う羽目になった場合、相当の犠牲を覚悟する必要がある。特に流れのある河での戦いは、PCが何処ともわからぬ下流へ流される危険性を常に内包しており、そうなったら先ずそのキャラクターはプレーヤーの手元から消えてしまう事となろう。
 DSGのp.19には、PC達が出会う、或いは作り出す事が出来るであろう『橋』についての解説がなされている。そのうちの一つ、最も簡単にPCが作り出す事が出来るのが「ロープの橋」である。小説でも述べたが非常に簡単で且つ、信頼の置ける代物である。
 DSGのルールでは『1.Climbing』で述べた成功確率に+50%も加えられるので、割と安心して使用する事が出来る筈である。尼僧ロザリアの能力(Dex16)では、1ラウンドに19フィートこの方法で進む事が可能であり、又そのラウンド辺りの成功確率は基本の40%+pole使用によって+20%、更にロープの橋を使用することで+50%が加えられる。…失敗する事はこの時点ではあんまり考えないでも良いだろう。しかし、シェリンが更に彼女に落下防止のロープを付けた理由は、彼女がChain Mailを着用する事で、その成功確率の15%が阻害されてしまう事による。よって、実際には彼女の橋を伝う成功確率は95%となり、万が一レベルでの危険(このゲームでは1/20が『万が一』レベルだと私は考えている)をはらむ事になる。その為の対応策である。
 また、何らかの要因によってロープの一方が切断された場合、キャラクターは落下から助かる為に2通りの選択がある。一つは未だ切断されていない方のロープを掴む事である。この場合は通常のClimbing判定を成功させる事により掴む事が可能である。もう一つは切断された方のロープを掴む事で、この場合、Climbingの判定を-20%の修正をつけて成功すれば、結果としてターザンよろしく綱の固定された方向に向かって振り子の様に突っ込む事になる。この為のルールはDSGのp.18、"Swinging Across"を使用する。この方法は余程の場合以外にはお勧めできないが…。
 DSGのルールだけを使っていればこの程度で済むのだが、このシーフ以外がClimbingする為のルールは、シーフのそれに掛かる他の能力制限が同様に加えられる為に、混沌ルールを使用している一部パワーDMならばDragon#103に掲載されている、Unearthed Arcanaの拡張ルールを使用している可能性がある。この場合、Chain Mailの使用によって加えられるClimbing判定に対するペナルティは-40%に跳ね上がる。UAの拡張記事は色々な点で非常に有難い記事なのだが…DMには実行前にちゃんと確認しておこう。油断してはならない。

続く