R.A. Salvatoreのページ

サルヴァトーレといえば、富士見からアイスウィンド・サーガの名前でIcewind Dale三部作の和訳本が全六巻で発売されているのみであとは未訳の物ばかりというAD&Dゲームをやっている人間以外では先ず全く知られていない作家であるが、そのマニアックな内容ゆえにやっぱり日本では此れ以上有名になる可能性は低いだろう(笑)。個人的には好きな作家なのではあるが。

 

作者の紹介( The Silent Bladeより)

R.A. サルヴァトーレは幻想小説の類で最も愛されているキャラクターの一人、ダーク・エルフのドリストDrizztを生み出した事で最も良く知られている作家である。三百万冊以上のサルヴァトーレの作品が違う言語、オーディオ・バージョンに翻訳され販売されている。彼がTSRノベルとして過去発売されたものはThe Icewind Dale Trilogy〔アイスウィンド・サーガ〕, The Dark Elf trilogy, The Cleric Quintet, そしてThe Legacy, Starless Night, Siege of Darkness, Passage to Dawnがあり、The Dark Elf trilogyは現在ハードカヴァーの愛蔵版が発売中である。The Silent BladeはTSR用に書き下ろされた第十六作目の作品である。

1997年の秋、ボブ〔訳注:サルヴァトーレの事〕の手紙、作品、そして他の専門書の類がマサチューセッツのフィッツバーグにある彼の母校、フィッツバーグ州立大学のR.A.サルヴァトーレ図書館に寄贈された。

執筆活動をしていない時、ボブは彼の三人の子供達とホッケーゲーム、乗馬、フェンシング試合を行っている。彼のゲーム仲間とは18年の長きに渡り、いまだに日曜日になると集合してNintendo 64 Goldeneyeから〔訳注:不明〕AD&Dまで幅広く遊んでいる。彼らは現在1999年出版予定のIcewind Daleを舞台としたフォーゴトンレルムのゲームモジュールセット、The Accursed Towerを共同執筆中である。

 

作品紹介

The Icewind Dale Trilogy〔アイスウィンド・サーガ〕全三巻、邦訳全六巻

The Crystal Shard, Stream of Silver, The Halflings Gemの三冊からなるこの作品は和訳された物としてはフォーゴトンレルム小説の中で一番受けが宜しい様で、続きが出る事を期待されていた〔少なくとも私の身の回りでは〕がAD&D関連書籍がこれ以降翻訳される事が無かった為、がっかりした覚えがある。それどころか今や絶版になり古本屋にしかその存在を確認する事は出来ない。この作品が最もアクション小説としての体裁を持ち且つAD&Dの匂いをさせていたのは皆の知るところ(笑)であり、活劇を期待させながら(AD&Dというのはファンタジー活劇を楽しむTRPGで心理描写や神様に重点を置くゲームではなかっただろうに)「ムーンシェイ」「シャドウデイル」と全くその気配も無く読者の期待を萎えさせた件のシリーズ中で読者を掴み易かったのだと想像される。第1巻〔邦訳では第二巻まで〕が魔遺物クレンシニボン(クリスタルシャード)を手に入れた新米魔術師アカル・ケッセルとその配下となった敵対種族や奈落界の魔物エルトゥといったAD&Dでも割とお馴染みの怪物達を相手に戦う寒冷地テンタウンズの人々と主人公達を描く。第2巻〔邦訳第4巻まで〕が主人公の一人、山ドワーフのバトルハンマー氏族を率いるブリューナーの故郷、ミスリル・ホールを探す冒険の旅を、第3巻(邦訳最終巻まで)では一行のトラブルメーカー、レギスを攫った南方の暗黒都市カリムシャンの刺客アルテミス・エントレリとその雇い主、黒社会のパシャ・プークを相手に戦う主人公達。詳しくは本を購入して参照してください。

元々作者は蛮人勇者ウルフガーを主人公に据えたかったらしく初期段階では彼が目立ちまくっていたが今更そんな使い古されたようなキャラクターが受ける訳も無く、どんどん只の乱暴者の兄ちゃんに変って(変えられて?)行くその展開が悲しいと言えば悲しいが、如何せん対抗馬がこれでもかと言わんばかりの設定である反逆Drow(ダークエルフ)のドリスト(邦訳ではドリッズト)ではお話にならない。出版当時の公式AD&Dのルール中五指に入る強力な種族の一つであるDrow、且つ正義を信ずる性格しかなれない最強クラスのレンジャー。ついでに言えばレベルも只の餓鬼から成長したばかりの蛮人勇者に対して歴然の差がある。少なくともこの手の小説を最初に購入する輩は先ず作品中にゲームの知識が反映されている事を期待する訳だから、ドリストがその辺の心の琴線を刺激する要因は充分にあった訳である。

この作品が書かれた当時、AD&Dは第一版ルールであり、そこに登場する人物、怪物の双方が第一版ルールに基づいて描写されているのが良くわかる。ドリストは云うに及ばず、山ドワーフのブリューナー、バーバリアンのウルフガー、ベイラー(Type6 Demon)のエルトゥ、アサシンのエントレリ、ファラストゥ・デモダンド…と当時のAD&Dゲーマーならばうむと頷ける部分が非常に多かった。これに多少の小説的非ゲームルール要素が加わり、バランスの取れた作品になっている。ゲームルールだけで小説は創れないと言う良い見本である。

ここからは未訳作品となり、購入して読めと云う訳にもなかなかいかないでしょうが…

The Dark Elf trilogy 全三巻

Drowのレンジャー、ドリストの昔話…と言ってしまうと身も蓋も無いが、その通りである。彼の誕生に関わる秘話、彼の知られざる過去が明らかになると云う趣向の小説は、Drowという資料の無いゲーム用の種族を掘り下げる意味で大変役に立つものだった(特に第1巻Homeland)。この後にTSRはDrow of the UnderdarkMenzoberranzanというダークエルフをPCで(笑)プレイする為に必須のサプリメントを発売する事になるが、その裏にはこの三部作の成功があったからである。(上記のサプリメントの濃さは屈指のものであり、1つの種族を扱ったものとしてはTSRの製品史上最高峰に位置するだろう。AD&Dをやる人間ならばこれらの作品は必ずゲットすべし。)

第1巻Homelandではドリストが誕生してから故郷メンゾベランザンを脱出するまで、第2巻Exileではワイルド・アンダーダークでの彼とその仲間の冒険を描く(ついでにドゥアーデン家の崩壊も)。そして第3巻Sojournで彼がテン・タウンズに流れ着きブリューナーとキャティ・ブリーに出遭い、漸く落ち着きThe Icewind Dale Trilogyへと続く布石とする。

買える人間は買った方が良いと薦められる出来である。作品としては前の三部作よりもゲーム性が薄れて読み物としての完成度はあがっている様な気がする。つまりは、一般の幻想小説としても充分楽しめるという事である。その語られる設定がFRというゲーム用の設定を飛びぬけた物であるが故であろう。所謂ゲーム小説と言うのはゲームを知っている人間がにやりと出来れば良いくらいの代物が多い訳だががそれではどうしても小説としての風格には劣るものである。が、本作品は物語的には優れ、ゲーム小説としては例外的過ぎる作品であった。その為後にTSRから出版されたこの辺りの設定を記したものは全て例外的なまでに強いキャラクターのオンパレードとなっている。メンゾベランザンに住まうDrowの方々は作者がSiege of Darknessの小説上で「彼は人間としては強かった。(何百年も殺人技術を修練しつづけたベルグイニオン・ビーンラーを相手に)5分もったのだから」と語るほどの強さの形容である。本来AD&Dでは人間最強伝説が前提にされ、デミヒューマンはクラスの頂点までいけないと云う事にされているのだがここではそんなゲーム上のバランスなど宇宙の果てに吹き飛んでしまい、まるでムアコックの作品のメルニボネ人か何かの様な設定である。だが、却ってそこの辺りが心地よく思えるのは気のせいだろうか。

お気に入りのキャラクター達
この作品では過去のThe Icewind Dale Trilogyにおける設定と食い違う点が幾つか存在する。その中でも最も大きな物がドリストが過去斬殺した、魔豹グウェンワイバーの持ち主であった男、マソジ・フンエットの設定である。彼はドリストにメンゾベランザンの街角で暗殺されたのではなく、ドリストを殺そうとして返り討ちに遭ったのである。このマソジ、第1巻でディープノームの集団や地上エルフの子供達に向って殺戮の嵐を巻き起こすなど大活躍し、悪の限りを尽くしてくれる。これぞ正にDrow!と喝采したくなってくる位に。そのせいか(笑)本来自我意識もなく主に尽くすだけのグウェンワイバーにまで裏切られ死を迎えてしまった。確かに、ここまでしないとドリストの義憤の目覚めにはならんだろうが…憐れマソジ。

ドリストの父親、ザクナフェイン・ドゥアーデン:暗黒都市メンゾベランザン、2万人の邪悪集団Drowの中にあって最強の戦士。そのレベルたるや24(Villain's lorebookによる)と最早他の戦士の追随を許さない。ここまで強力な戦士でありながらDrow社会の軋轢に勝てず、彼は内心に善の光を持っているにも関わらず実行できず、その積もった鬱憤は同族同士の争いにおいて爆発する。この屈折した人格が素晴らしい。彼の下でドリストはメンゾベランザンでも屈指の戦士(レンジャーではない)に訓練され、後のサバイバルの大いなる助けになった。ザクナフェインはドリストに「共に逃げよう」と持ちかけられるがそれを「不可能だ」と断る。彼にはマトロンマザーによって支配されるDrow社会から逃げられない事を身に染みていたに違いない。だが、その直後彼はマトロンマザーの手に依り斬殺される。彼は恐らく他の可能性をメンゾベランザンに見出す事が出来なかったのだ。だからこそ、彼は反抗もせずに殺されたのだろう。と云う事にしなければドリストの逃走は無かったろうし、ついでに言えばこんな親父が付いていたのではドリストよりも目立つ事は間違いなかっただろう。惜しい事だ。第二巻で彼は死後、反魂の術によりマトロン・マリスの操り人形と化し、ドリストを追い詰める役割を担うがぎりぎりの処で自我意識を取り戻し、酸の海に自らを投じた。
 彼はPassage to Downにも話が上り、当初ドリストはエルトゥに捕らえられている魂がザクナフェインの其れと考え、彼の魂を開放する為に奔走していた。

ベルワー・ディッセンガルフ:マソジ達の襲撃したスヴァイアフネブリン族小隊の戦士でたった一人の生き残り。第1巻〜第2巻に登場。ドリストの嘆願を聞いたマソジが殺さない代りに両手を切り落とした。この事が切っ掛けでドリストはマソジに殺意を抱くようになった…とは本作では今一つ語られていない。あくまでもマソジは返り討ちにあっただけの事である。…で、このベルワー。何とか生き延びた結果両腕にハンマーとツルハシの義手を付けて生活するようになる(出来るのかどうかは兎も角)。そうして幾年も過ぎた後に今や瀕死の状態になったドリストと再会し、彼と冒険を共にするようになる。彼と更に他者変身の術を掛けられてフックホラーと化したPechのクラッカーが加わって三人組が結成され、共に地下世界をさ迷うのだが何かドリストは彼らと組んでいる時の方が居心地がよさそうだ。ベルワーの性格はブリューナーのそれに似ているがもう少し穏やかだと言う印象を受ける。どうもアイスウィンドデイルの住人は短気な輩が多すぎるせいか。
 この男はSiege of Darknessにも同族の友人ファーブルと共に顔を見せている。

傭兵団ブリガン・ダエルシェのジャラクシル:このシリーズからレギュラー(?)として殆どの作品に顔を出す事になるDrowのナイスガイ。戦士としての実力はドリスト、エントレリに匹敵する能力(Menzo…では17LV戦士)を持つが戦闘よりも口で物事を解決する事を好む傾向があり、他の二人とも旨く直接対決を避けてナアナアの状態を維持している。孤高を好む二人(といっても内一人は表面上だけなのは言うまでも無いが)に比べると仲間も多く、人生を楽しんでいるようだ。非常に陽気且つ気障な人物で真赤な羽飾りのついた帽子を愛用し、その服装も洗練されている(らしい)。報酬次第でどんな相手にもつく傍ら、他人に対する配慮も欠かさず、本来敵対者である筈のスヴァイアフネブリンにも連絡網を持つ。彼はメンゾベランザンの身分の低い男Drowの常として剃髪しており、目立つ特徴として片目に眼帯を当てている。この作品を読んで彼の事を「最早出て来ようがあるまい」と思っていたがLegacyにおいてドリストの姉ヴィエルナを助け出していた事が発覚し、またStarless Nightではドリストを追って地下まで来たキャティ・ブリーに一目惚れする(求婚するとまでは行かなかったが少なくとも妾にはするつもりなのは明らかだった。誤解があった様で申し訳ない)などなかなか美味しい役割を貰っていた。殺気立った印象のあるドリスト達の周囲に彼が来ると雰囲気が和む(毒気が失せる)。実に有り難いキャラクターである。

The Legacy 全一巻

ジェフ・イーズリィの怖いドリストが表紙。何かルトガー・ハウアー(映画ブレードランナーのレプリカントやレディホークの主人公を演じた俳優)を彷彿とさせるものがある。話はアイスウィンド三部作の後、主人公御一行がミスリルホールでドワーフのバトルハンマー氏族と共に暮らしている所から始まる。ウルフガーはキャティブリーと結婚と云う事になり、ダークエルフ三部作の最終巻から実は彼女に秘めた恋慕の想いを持っていたドリストは複雑な思いをしている。そんな状況の中、前作でカリムシャンの盗賊ギルドを頂いていたレギスが祝いの為にやってきた。だが、彼は不可解にもドリストとウルフガーの師弟、友情関係に皹を入れるようにウルフガーに嘘を吹込む。彼はドリストがキャティブリーと只喋っていただけなのにそれをキスしていたと我等が単純筋肉馬鹿ヒーローに告げたのだ。云うまでもなくウルフガーはその嘘に引っ掛かりドリストに敵意すら抱くようになる。素朴なのは良いがここまで来れば問題である。誰か奴に教育してやれよ。

一方、アンダーダークの闇にExileの最後、ドゥアーデン家の滅亡時に死んだと思われていたドリストの姉、ヴィエルナがジャラクシルの手によって救出され生存していた。彼女は同様に生き延びたドリストの兄ディニンと共にドリストを倒し御家の再興を画策する。彼女にそう女神ルロス(ロルスのメンゾベランザンでの呼び名)が神託を与えたのだ。そして彼女に協力するジャラクシル達Drow集団がミスリルホールに刻一刻と近づいて行く。果たして心の結び付きを欠いたドリスト達は暗黒のエルフ集団にどう立ち向かうのか。

ドリストの新たなる冒険を描く第3シリーズ三部作の一作目。本作、Starless Night、Siege of Darknessをその区切りとするがこれらには確固とした名称が与えられていない。敢えて云うならばタイムオブトラブル前夜三部作、或いはTSR倒産直前三部作と云ったところか。表題のThe Legacyとは遺産の事で本作ではドリストの父ザクナフェインが子供達に残した良心を指す。尤もその『遺産』を受け継いだのはザクナフェインの血を受け継ぐドリストとヴィエルナの二人で兄ディニンはやっぱり典型的なDrowのままだったが。本作でドリストの血筋は彼を残して完全に絶えてしまう。また、ドリストは終に親族殺しの罪までも背負う事になる。もうこの時点でドリストにはまともな死に方は約束されないだろう。

アルテミス・エントレリが本作で再登場する。しかも、マジックアイテムで武装して。しかも使うアイテムがHat of DisguiseとWings of FlyingというAD&Dでは有名且つ通なアイテムである。彼が本作でどう使っているかは粗筋から察して頂きたい。ドリスト対エントレリ対Drowといった三つ巴の戦いの中、宿命の二人の対決はクライマックスを迎え、終にドリストが勝利しエントレリはアンダーダークの闇の中へと落ちて行く。だがその一方でDrowに依る攻撃に依る損害は予想外に大きかった。ウルフガーの死とブリューナーの片目がそれである。ウルフガーは敵の起こした落盤に巻き込まれ、ブリューナーもDrowの攻撃に無傷ではいられなかったのだ。ドリストは友の死、親族殺しの心の傷を負いながらも全ての決着を付ける為、二度と戻らぬと決意したはずの生まれ故郷、暗黒都市メンゾベランザンへ行く為、只一人悲しみに濡れるミスリルホールを後にする。

ダークエルフ三部作により吹っ切れた作者の暴走が収まり落ち着いた印象を受ける。本作ではゲームルールに基づいた演出が多数見受けられ、例えばそれはエントレリの持つマジックアイテムだったり、バトルハンマー氏族最強の突撃部隊ガトバスター・ブリゲードを構成するバトルレイジャーだったりするのだが以前までの出展が粗判らない小説だけの演出とは違い、ゲームルールの設定を旨く小説中に使用している。また、人物描写も慣れて来たせいか各キャラクターの人格の書き分けがはっきりしてきた。ドリストが実は内向的で悩める性格であり、何かあると「俺の真の友はお前だけだ、グウェンワイバー」とか言い出す笑える部分を持つ男である事も定着してくる。この辺りはダークエルフ三部作にも出てくるが如何せんあれは彼に友人が本当にいなかった時代のものだから、まさかそれが彼の性格になるとは思いも依らなかった(しかし彼はそれで確実にファンを増やしたに違いあるまい)。また、ウルフガーがどうしようもなく単純馬鹿である事も本作ではっきりする。アイスウィンド三部作では大した役柄を貰っていなかったキャティ・ブリーも自立した女性である事を強調されている。ブリューナーは父親として、王としての役割を果たし、その風格を確固たる物としている(彼のマッチョな部分はガトバスター・ブリゲードの隊長シブルドルフ・プウェントが負う事となった)。レギスはより抜け目なく世故たけた性格となり、実に美味しい役を貰っていた。その分エントレリについての書込みが足りなかった様に思うがそれは次回作に回された様だ。

Starless Night 全一巻

 ロブ・ラッペルのドリストとキャティ・ブリーが表紙。今まで描かれたキャティ・ブリーの中では一番美人。その分ドリストの面がクリント・イーストウッドそっくりでいただけない。あれではダーティ・ハリーだ。表紙を描いたロブ・ラッペルの作風は人間をモデルにしている時としてない時が余りに露骨に判るのが何だが、筆者のお気に入りのペインターである。さて、話はというと、ドリストとそれを追うキャティ・ブリーが話の軸になる。前作の悲劇から数週間後。キャティ・ブリーが気付いた時にはドリストの姿は既になく、ハーフリング・レギスの手にグエンワイバーが託されていた。キャティ・ブリーはレギスを締め上げドリストの行方を聞くと、グエンワイバーを持って彼を追うべく一人で飛び出して行った。一方、前作で闇黒の穴に落ちて死んだと思われていたアルテミス・エントレリは、Drowの傭兵団ブリガン・ダエルシェに助けられて一命を取りとめていた。エントレリは、適者生存が最大の掟である闇仙子の社会に自分の生きる道があると思い、彼らと共に行動していたが過ごせば過ごすほど、自分がDrowでないが故の差別、自分が素の状態では目が見えない為一般生活にも支障が出るといった現実の壁に突き当たり、さりとて自分は逃げ出したくとも地上への道など知りよう筈もない、という暗鬱とした日々を送っていた。ドリストはと言えばベルワー・ディッセンガルフと再会したり何やかやしながら闇黒都市に到達したのは良いが例によって潜入がばれてビーンラー家に捉まってしまう。
 そしてメンゾベランザンにおいてドリストが捉まった事を知るや一人ほくそえむ男がいた。その名はダントラグ・ビーンラー。メンゾベランザン第三の剣士である。彼は何時までも「第三の剣士」と呼ばれる事に苛立ちを覚え、今や伝説となった男、今は亡きドリストの父、ザクナフェインに勝つ為にどうしてもドリストと勝負せねば気が済まなかったのだ。強敵ばかりがひしめくメンゾベランザン、そして仇敵エントレリとの邂逅。八方塞となったドリストとジャラクシルに求婚されたキャティ・ブリーの運命や如何に。

 ますますパワー溢れる第3シリーズ三部作の二作目。今回の話は矢鱈と話があっちこっちに飛ぶので若干読みにくい(別にこの話に限った事ではないが今回は特に)。読みたい部分が盛り上がって来たと思ったら「そしてその一方では」みたいな、白土三平の漫画じゃないんだから、あんまり話を散らさないで欲しい。実際、ドリスト、キャティ・ブリー、エントレリ、そして居残り組のブリューナー、その他色々な所に話が飛ぶ。折角の話が台無しになってしまうと思うのは気のせいか。ビーンラーに捉まったドリストをエントレリ、ジャラクシルとキャティ・ブリーが共同戦線を張って(組みたくて組んだ訳ではない)助けだし、その中で明らかになったメンゾベランザンのミスリルホール侵略計画をブリューナー達に知らせるべく再びミスリルホールへドリストが戻ってゆく事になる。
…ドリスト、貴様は捉まる為にあんな所まで行ったのか?と彼の馬鹿さ加減に歯噛みしたくなる。貴様は筋肉よりも機転と作戦能力で勝負するレンジャーではなかったのか。それとも久しぶりの地下世界の空気で酸素欠乏症状にでも掛かってしまったのか。今回彼はダントラグと戦う場面以外いいとこなし。

 この話で一番美味しい役はジャラクシル以外にはない。結局この三部作で彼はトリックスターの様な働きをし、物語に笑いを提供してくれる。あくまでその行動は大げさでけれん味たっぷり、しかし押さえる所はしっかりと押さえる、名バイ・プレーヤーである。とても主人公になるキャラクターではないが短編辺りでなら充分やれると思う。また、エントレリが割りと人間性を持ち始めるのもこの話からである。彼は前作までの機械みたいな暗殺者から脱却し自分のエゴを主張し始めた。キャティ・ブリーとドリストについてのやり取りをする件が、彼の焦りからなのか完全に同レベルになっているのが笑える。また、一時の感情で突撃しようとする彼女を、その経験の豊富さと彼女の死によって、地上への帰還の可能性が薄れる事から必死で押し止める彼の態度には喜劇性すら感じられる。彼もジャラクシルと付き合うようになってから人格が丸くなったらしい。物語の最後、地上に出てまだドリストと遣り合うかのように見えたが、彼はただ、去っていった。色々と考える事があったらしい。結局彼はその後、The Silent Bladeにおいて復活するまで旅に出た様だ。ドリストとの決戦を忘れるほど、いやな目にあわされたんだろう。

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