穴埋め企画第二号

偶人奇遇

Tips for Painting metal miniatures

 ここでは、AlienさんのHPで解説されたグラデーションの説明と被らない別種類の技術…というか小手先の技に近い方法を紹介します。…小手先ではないのもありますが。

瞳の塗り方

 メタルフィギュア塗装技術の向上を目指すものにとって、美しく塗る事は偶然に成されるものではなく、自ら勝ち取るものでなければいけない、即ち「何を塗っても得心が行く程に技術を磨いた結果」であります。しかし、ただ朴訥にグラデーション技術を磨いても、それだけではどうにもならない部分が存在するのもまた事実です。偶人の瞳といった箇所は幾らグラデが出来ても巧く塗る事は適いません。しかも、多大な労力を払う割に報われない箇所であるといっても過言ではありません。何故ならばそれはグラデーション技術とは全く違った精密塗装技術が必要となるからです。
 しかし、それはグラデーションと違って、もともとの手先の器用さに相当な部分を頼るもので、如何様にもし難いものです。問題解決の手段としてはこういうものがあります。

解決策1:瞳を塗らないで白目のみ

 実はこれが完成してみると巧くいったりするものです。アメコミのキャラクターをご覧ください。瞳がない表現によって、「尋常ではない感情の爆発」を表している例が多々あります。これを偶人塗装にも応用するのです。目が大きなキャラクターの場合、更にグラデーションを掛ける事で強調する事も出来ます。悪人や化物系の偶人の場合は瞳に10倍位に薄めた赤色をインクのように流すだけで綺麗に行くものです。

解決策2:流し目にする

 白目にするのは抵抗がある方用の比較的楽な方法。最初に濃い色で流し目を作り、次にそれに白を混ぜた色をハイライトとして重ねます。ハイライトは3と併用する事で更にグレードが上がります。

解決策3:0.05ミリの水性インクペンを使用

 これが一番楽です。何せ押し付けるだけですから。今のところ「Mr.スーパークリアつや消し」による表面保護処理でも流れていませんから、かなり有効な方法だと思われます。現在のところCopic multilinerの0.05ミリペンには黒の他にも数色バリエーションがあるので便利です。

 筆者の場合、2を行った後に3で仕上げています。必ずしも成功する訳ではありませんが、全て筆で行うことに比べれば効率の良い方法だと思います。

20020617追加

瞳の塗り方(達人編)

 瞳にハイライトを入れるにあたり、上記の方法を更に推し進めた方法を考え付きました。 。これは失敗するとやり直し確定と言うリスキーな方法ですが、筆で目玉を入れる事が出来るレベルの人間ならば可能だと思われます。それは銀色でハイライトを入れる事です。シタデルカラーの場合Chainmail又はミスリルシルバーを、入手できる限り最も細い筆(BUNSEIDO Woodyfit10/0茶毛推奨)の先にほんの少し(先から0.5mm程度)付け、そのまま水に筆の毛足の部分だけ漬けて塗料皿で溶きます。その上で毛先が鋭く尖るまで筆を調えていざ瞳に突撃。色がついたと感じた時点で筆を置き、ミリペンで黒目を入れなおします。その時、せっかく入れた星を塗り潰さないように注意して下さい。完成すればギラリと光る星が貴方のフィギュアの瞳に煌いている筈です。
…写真に出るかどうかは角度次第です。ですから写真を撮ることを前提とする方はミニチュアの特性を理解した上で白か銀か、選んでください。

20020617追加

毛髪(髭含)の塗り方

 毛髪並びに髭の表現は3cmフィギュアを塗る時、最も難しい箇所の一つだと私は認識しています。本格的に塗装にのめり込んだここ一年以上、未だに髭小人の類は一体たりとも塗っていない(所持していない訳ではない)のはそのせいです。最近になって女性フィギュアを手掛ける様になり、髪の毛の表現にある程度の得心が行くようになった事もあり、今回のカラムと相成りました。

基本解決策:谷を後から塗る

 基本はこれです。

 @自分の塗りたい色を先に塗る。
 A@の色よりも暗い色、或いは同系色のインクを5倍以上に希釈し、谷部分に流し込む。
 B@の色で失敗箇所を修正。

 この方法で最も注意しなければならないのは、Aで付けた暗い色の筋の太さが一定になるように修正する事すなわちBです。辛い作業ですがこの努力を怠ると後に悔いを残す結果となるでしょう。この工程を終了させるだけでも相当な労力と時間を必要とします。焦らず、集中力の続く範囲でのみ作業を行ってください。余程巧くいったのならばAの時点で終了もありえない事ではありませんがそんな事は考えず、修正作業は当然の仕儀として、修正を怠らないのが上級者への道です。また、Aで形成される境界線ははっきりしていればしているほど良いです。

解決策(達人編):谷から山へグラデーション

 基本工程@〜Bを終了した時点で更に上を目指す人間(基準:海外品評サイトCoolMiniorNotで7+の評価)は、ここから先の境界を越えなければなりません。即ち、毛髪にグラデーションを掛ける事です。勿論簡単な事ではありませんが、海外の肥えた御眼鏡に適う作品を作り出すにはそれだけの正確な塗りが要求されます。色が食み出るレベルでは高評価は期待できません。グラデーションのパターンは、@毛先に向うA光点に向かう、の二点が挙げられます。比較的楽なのは@の毛先に向かって明るい色を掛ける方向でグラデーションを掛けるパターンです。明るい色を作るには白を混ぜるのが一般的ですが、海外では黄色系の色にはBleachedBone、青系の色にはRottingFleshを混ぜる方法も確立されています(止めのハイライトには白ですが)。茶色や赤色の髪の毛の場合、黄色への方向に持っていくのも良いでしょう。髪の毛を塗るときは一本一本丁寧に、失敗、修正を恐れない事が肝心です。

20020702追加

赤色のグラデーションの掛け方

 基本的に、アクリル塗料を使ったグラデーションは暗い色から明るい色へと色を重ねる事により形成されます。これは基本中の基本なのですが、単に明度を上げる為に白を少しずつ混ぜれば良いというものでもないのは経験者の誰もが理解している事でしょう。今回はそうした色の一つ、赤色を取り上げます。

工程@工程A工程B工程C工程D工程E工程F工程G工程H

 上記の連続写真をご覧下さい。工程@はScabRedに黒をほんの少し混ぜた色で作ったベースカラーです。ここからBloodRedを少量ずつ加えてグラデーションの基礎を形成します。光点によって出来る微妙なラインのずれを出来る限り正確になぞりつつ、どんどん面積を少なくします。そうした結果、約四層ほど重ねた上でBloodRed単色を施した状態が工程Bです。今度は、BloodRedにFieryOrangeを少量ずつ加えていきます(工程C〜E)。グラデーションの方向は塗装者の自由ですが、今回は金属色っぽく塗る為に「山」型のグラデーションではなく、「崖」型のグラデーションを施しています。この「崖」型グラデーションは、同じ技術力で施せるにも関わらず、ぱっと見のインパクトが強くてより「巧く見える」非常に便利な手法です。「崖」型のグラデーションのコツは、片方を境界線として定め、そちらにはグラデーションを掛けない事です。工程Eに到達した時点で、今度はBadMoonYellowを加え(工程FG)、ハイライトとして白を混ぜて終了です。布の表現ならば、ここまでシャープな表現にする必要は無く、ハイライトをFieryOrangeで使用すればよいでしょう。気を付けなければいけないのは、グラデーションが進むに従ってきちんと面積を減らしてゆく事です。

20020901追加

肌色の塗り方

 今回はシーマン2K1さんからリクエストにお応えして肌色の塗り方です。サンプルはRackham社のケルト女性三人組ブリスターのうち一人です。

工程@工程A工程B工程C工程D

 連続写真風にすると以上のような形になります。サーフェイサの状態に墨入れをして当りを取り(@)、DwarfFleshで下地を塗ります(A)。この時、墨入れ時点で失敗した部分を修正するのもお忘れなく。得心が行った時点でその上から濃度を抑えたElfFleshを塗ります(B)。この工程が尤も難しい部分で、墨入れの部分はもとより、皺から発生する陰を決して侵食しないように注意しなければなりません。失敗した場合は工程Aまで戻ってください。私は眉毛がはっきりしている方が好みなので男性的な顔付きになっていますがその辺は各自調節してください。私はこの工程で瞳も入れます(『瞳の塗り方』参照)。その後に、PallidFleshでハイライトとします(C)。更に最終的な修正をElfFleshとPallidFleshで施し、唇をPallidFleshにBloodRedを極少量加えたもので塗って終了です。私はアイシャドウもこの色で行いますが、他の色、例えば緑色や青で行うのも良いかもしれません(怖くなる事が多いのですが)。

 彫りの深い男性の顔の場合、この工程を少々ずらします。下地の色をVerminBrownとDwarfFleshの混色にして、以後の工程をDwarfFlesh単色、ElfFleshを経てPallidFleshとElfFleshの混色でハイライトを掛けて終了します。

 尚、墨入れの時点で巧く行かない人は筆が太いか、修練が足りないと思って下さい。やってる内に必ず巧くなりますから決して諦めない事が肝要です。

20021021追加

NMMレシピ(上級者専用)

 現在、BobbyWong氏を代表格として世界の高レベルペインターに流行しつつある技術、それがNMM(Non Metalic Metal、或いはNear Metalic Metal)塗装です。この塗装技術はテクニカルグラデーション技術と密接に関っており、テクニカルグラデーション技術の上達に従い、より高度な金属様表現を可能とします(テクニカルグラデーションについては前述)。ここでは筆者の使用するカラーレシピを紹介します。この技術は高度なグラデーション技術を必要とするペインター向けの塗装法ですから、挑戦される方は自分の技術力と相談の上行ってください。

銀色系:クロムシルバー

 黒下地、Codexgrey+黒或いはFortressgrey+黒多めを使ってグラデーション開始、ある程度の明るさになった時点でIceblueを混入します。この時、Iceblueよりも暗い状態である事が条件です。Iceblue混入のタイミングをずらすと、又違った表現になります。そこからIceblue単色に限りなく近付け、しかる後にSpecewolvesgreyを混ぜて単色を使用しても違和感の無い時点で投入する色を白に切り替え、あとは 個人の技術の許すままにグラデーションを展開してください。

銀色系:黒鉄色

 黒下地、Shadowgrey+黒からグラデーション開始、Shadowgrey単色を塗っても違和感が無くなれば、Spacewolvesgreyを混入、単色で違和感が無くなれば白混入で最終処理。

金色系:A(暗褐色)

黒下地、Bestialbrown+黒からグラデーション開始、単色で違和感が無ければLeprousbrown使用、単色で違和感が無ければBadmoonyellow混入開始。Bパターンと違うのは、グラデーションの過程でGoldenYellowに近い色になった時点で白混入、そのまま最終処理に。

金色系:B(黄色)

黒下地、Scorchedbrownをその上に重ね、Badmoonyellowを単色で違和感がなくなるまでグラデーション。しかる後に白混入で最終処理へ。

銅色

黒下地、Verminbrown+黒からグラデーション開始、単色で違和感が無くなればFieryorange混入、単色で違和感が無くなればBadmoonyellowを混入し、色がGoldenYellowに近付いた時点で白混入、最終処理。

20030315追加

適切な塗料濃度

 Tipsとは少し違いますが、参考までに私が塗装時に使用する塗料の濃度を解説します。例として使用した色はCitadel ColourのBloodRed、筆はWoodyFitの10/0、紙はインクジェットプリンタ用の光沢紙です。

@
A
B
C

 まず、写真@は原液をそのまま塗りつけた状態です。これは作品用としては全く適しておりませんので、水で希釈します。希釈の仕方は、まず筆先に塗料原液を含ませた状態で水に筆を浸します。この時の濃度が写真A、これで約2倍に希釈した状態です。ベースカラーとして使用する場合はこの程度で十分ですが、グラデーションを掛ける場合は更に希釈する必要があります。塗料皿で溶いた状態から更に筆を水に含ませます。これを溶いた状態が写真Bです。大体3から4倍希釈となります。普通私はこの位の濃度で行いますが、これでグラデーションを掛けた際に境界線の段差が見えるようだと不十分なので更に水を含ませます(写真C)。この濃度を維持しながら、次々に明度の高い色を加える事でグラデーションを構成するのが私やAlienさんの技法です。

戻る