穴埋め企画第二号

偶人奇遇

Painting a metal miniature (in my case)

 このカラムでは製作者たる私・僑忠が一つのミニチュアを完成させるまでにどういうプロセスを経ているのか、写真を使用してその都度解説するものです。本来ならばこのカラムは某氏が行うのが筋なのですが、とある理由によって私が行う事に相成りました。

 こんなカラムをご覧になるような方ならば既にご理解頂いていると存じますが、この実例の通りに事を運ぶと1インチサイズフィギュアですら、塗装終了まで平均20時間以上、準備から含めると更に多くの時間を必要とします。早い話が時間に余裕がある方以外にはお勧めできない方法である事を予め申し上げます。

 尚、使用する絵具はCitadel Colourで、一部名称を除いて名称はそのまま使用しています。

1.Preparation

 塗装するに当たって、サーフェイサーを満遍なく吹きます。私はタミヤのファインサーフェイサー(白)を吹き付けて、更にその上からグンゼのMr.スーパークリア(つや消し)を吹いて色の食い付きを良くしています。シタデルやラッカムと云ったプラスチック製の台を使用するものにこの処理を行う場合は、縁の部分を見苦しくしないようにマスキングペーパーで保護する事をお勧めします。フィギュアによってはポーズ付けの問題や、重心を下に持っていく為にプラ台の裏側をエポキシパテで詰めたり土台に細工したりしますが、それはあくまでも塗装とは無関係ですので此処では省略いたします。今回私がこのカラム用に選んだのは、シタデルのWarhammer:Chaos Sorcerer(2)です。メリハリの効いた造型と、現在では国内でも入手できる手軽さから選びました。このフィギュアは首と左手の剣と右手が別パーツなので、サーフェイサーを吹く時点では瞬間接着剤を少量使用して仮組み状態にしておきます。勿論、仮組みの時点で、本番用にピンバイスを使用して1ミリ直径の穴をあけて真鍮線を通す事も必要です。
…とは言え、写真のものは購入時点で右手の無い欠品だったので首の位置をずらしてChaos Knightの腕を代わりに付け、エポキシパテで加工しててありますから実際の商品とは明らかに別物と化しています。足場を加工したのは単なる私の趣味ですが、このChaos Sorcerer(2)は足のポーズが他の三点に比べて動きがあるので足場工作の練習にはもってこいだと思われます。
 サーフェイサーが乾燥した後、未だ地色が残っていた場合には、私の場合サーフェイサーをもう一度吹くよりもシタデルカラーの「SmellyPrimer」をその箇所に塗り付けて良しとします。同じ白色なのでまず目立つ事はありません。

2.Painting

2-1 Black lining

 さて、ここから実際に塗装を開始する訳ですが、まず何処から塗るのが良いか。
 私の場合、何も考えずに顔から塗ってしまいます。この時、最初にしなければならないのがBlack Lining或いは墨入れと呼ばれる工程です。インクウォッシュと違い、自分で全ての隅、陰になる部分に黒を塗って凹凸を際立たせます。この時に使用する筆細ければ細いほど良いので、私はBUNSEIDO社のWoody fit, 10/0号の茶毛(白毛より細い)を使用しております。少々値が張ります(定価600円、店によっては500円弱)が、使い心地・精密作業に向くと言う点でベストだと思われます。これ一本で今後のモデル本体の塗装は全て行います。この筆は1インチモデルを5体程度塗るまではまあ持ちこたえますので結局200円程度の安価な筆を一体一体で潰すよりは経済的だと思われます。

 写真では当然のようにはみ出たりしていますがそんなものは別に気にする必要はありません。あとの工程で修正する事が出来ます。この方法では、塗る事よりも、如何に上手く修正を施すかと云う事の方が大事なのです。

 作例ではついでに鎖帷子部分も塗っていますが、鎖帷子も最初に墨入れしておいた方が良いでしょう。鎖帷子の隙間には絵具が入りにくく、何度塗っても塗り損ないの場所が出て来ますから、それを潰しておかないと後で不愉快な思いをする事になります。鎖帷子は黒地に銀でさっと終わらせる事も出来ますが、私は今回ImperialPurpleを下地色として使用しています。これは後でグラデーションを掛ける為の下準備です。

2-2 Gradation

工程1工程2工程3工程4

 マスクのグラデーションを連続写真風にしてみました。私は金属色を使用するよりも金属色のように見える塗装を行う事を好むので、それらしく見える色の組み合わせを考えます。今回は混沌黒→ShadowGrey→SpaceWolvesGreyという順でグラデーションを掛ける事にしました。
 工程@は、混沌黒を下地として、その上に黒2に対してShadowGrey1の割合で混色したものを塗り重ねた状態です。水との相対濃度は水2:塗料1くらいです。この時、墨入れ部分は残しておくよう努力します。墨入れ部分に塗料が侵入した時は、水を即座に塗り付けて洗い流してしまいましょう。どうしようもない時は諦めてその部分に墨入れをもう一度行います。この時点では殆どダメージが無いので修正を恐れる必要はありません。
 工程Aは、いよいよグラデーションの開始です。@で作成した混色に更にShadowGrey(筆の毛足の1/3程度の量)を加えた色を使用し、@よりもほんの少し狭い面積を、単にムラ無く塗るのではなく、グラデーションの中心となるであろう部分に近付くほど繰り返し塗る事で塗装を厚くしてゆきます。これが一通り終了すれば、更にShadowGreyを同じ要領で追加して塗り、追加しては塗ってゆきます。この時、筆ムラが出るようだと塗料濃度が高過ぎるので水を追加してムラが出ないレベルまで希釈します。この時、水滴にならないレベルで水を筆に含ませて加えてゆきます。また水性アクリル塗料は乾燥しやすいので、常に一定量の水分を含む状態を維持しなければなりません。尚且つ、、乾燥して塗れなくなる事を考慮して必要量のみを、特定部分にだけ塗る事を推奨します。同じ色を多量に使用するときも、一回の絵具は一個のパーツで使い切る覚悟で塗装します。早く塗り上げる事よりも、一つのパーツにどれだけのエネルギーを注ぐ事が出来るかが作品の出来不出来を左右します。工程Aの写真は、グラデーションの繰り返しを四度行い、四度目にShadowGreyのみでグラデーションを掛けた状態です。
 工程Bは、ShadowGreyに工程Aの要領でSpeceWolvesGreyを加え、マスクの中心線に向けてグラデーションを掛けた状態です。最後にSpeceWolvesGreyに白を混ぜて中心線を慎重に引いて仕上げとします。これが工程Cの状態です。

工程5工程6工程7工程8

 次に角のグラデーションを掛けます。下地は黒。これに、基本色として黒+BestialBrown+RottingFlesh少々を基本色とし、それ以降はひたすらRottingFleshを加えて塗ります(工程D〜F)。工程Gで、RottingFlesh+白で終了させます。右と左でグラデーションの掛かり方が違うのは造型のずれをそのまま利用したからです。
 私は今回グラデーションのパターンを変化させましたが、こうした歪んだ円柱状のものに対するグラデーションは基本的に難易度が高いので、敢えて挑戦しない限りは下から上に向かって明るい色を目指すグラデーション塗装を行う方が無難です。

工程9工程10

 工程Gでマスクの飾りにSnakebiteLeatherで下地を作りました。この時点で再び、墨入れを行い、ミスを修正したのが工程Hです。この状態から、SnakebiteLeather+LeprousBrownでグラデーションを二三層重ね、LeprousBrown単色を経て今度はBadmoonYellowを加えてゆき、これも二三層塗り重ねた後にBadmoonYellow単色、そして最後にBadmoonYellow+白で止めとします。やり方は工程@〜Cで示したのと同じく、塗料濃度と乾燥に気を付けながら行います。こうした小さなパーツは塗料濃度が他の大きなパーツよりも低くても充分発色しますから、多少水っぽい方が却って自然な仕上がりになります。

工程11工程12工程13工程14

工程15工程16

 次は鎖帷子です。私は綺麗に見えればそれで良しと思うので、最早リアル感は度外視しています。で、このような表現になりました。工程J〜Qは完成までを追ったものです。下地を手直しし、隙間を埋めた事を確認してNauseatingBlueを塗り、第一段階とします(工程K)。これに、HawkTurquoiseを混ぜてグラデーションを二三層重ね、HawkTurquoise単色を塗った状態が工程Lです。更に、JadeGreen単色を重ねてそこからVileGreenに向けてグラデーション(工程M・N)二三層を経た上でBadmoonYellowに向けて塗装を行います。工程Oは最終的に白を加えたものです。

工程17工程18工程19工程20

工程21工程22工程23工程24

 次に取り掛かるのは腹です。偶人を塗る時は、奥まった所から塗るようにしないと、折角塗った所に別の絵具が付いてしまう可能性があるのでこれは原則として覚えておかなくてはなりません。筆者が顔から塗るのは例外的なものです(人形だけに顔は一番気を使いますから)。
 墨入れした状態から、ScabRedを塗って下地とし(工程P〜Q)、残ったScabRedにBloodRedを加えて二三層のグラデーションを掛け、BloodRed単色からBadmoonYellowを少量加えたもので止めとします(工程R〜S)。これはこの偶人が着ているのはタイツ地のボディスーツであると私が解釈したからで、もしこれが鎧だったらより黄色の度合いを強くして光点を指定し、また絹状の服だと黄色の代わりに白を混ぜてグラデーションを行います。
 この偶人で最も面倒だと思われるのがDarkTongueをあしらった刺繍?です。私は赤に映える色と言う事で黄色を選びました。まず下地にSnakebiteLeatherを塗り、墨入れ部分にはみ出たところを逐一修正しつつ、LeprousBrown+BadmoonYellowからなるグラデーションを施し、止めに白を少々混ぜた色を使用します(工程21〜22)。尚、この偶人の刺繍は態とかどうかは知りませんが形が途切れたり歪んでいるので、そこもきちんと墨入れします。でないと、却って醜く見えてしまいます。
注意:金属色でこうした文字などの部分を塗る場合、それらは塗料の粒子の力が強い為に、いざ失敗という時になると、修正が非常に難しくなります(後が残る可能性高し)から非金属色よりも塗装に注意しなければなりません。
工程23・24は肩口のベルトです。黒を塗ってからBestialBrownで第一段階を塗った後、残りにVerminBrownとFieryOrangeを少量加えグラデーションを開始します。失敗箇所に部分を墨入れや修正を施しつつFieryOrangeへ近付けてゆき、ベルトの縁の部分に来た時点でFieryOrange単色で止めとします。尚、腹の黄色の刺繍がこの工程の合間に修正を受けた為、色調は変わっています。

工程25工程26工程27工程28

 さて、次は腰の金属らしいベルトと肩の装甲です。基本的にはマスクと同じく黒+ShadowGrey→ShadowGrey+SpecewolvesGreyへのグラデーションですが、今回はその間にUltramarinesBlueを少し加えてあります。これによって青味が増し、少し派手な方向に色が傾きます。ベルトに関しては、鋲の墨入れを塗り潰してしまわないように注意する程度で、それほど難しい作業ではありませんが、肩当はそうも行きません。まず、肩当が三段階に分離している事に注目して、其処に立体感をどう表現するか。楽なのは、例えば一番奥が赤、次が橙、一番上が黄色と三色別々に持っていくパターンですが、今回は鎧そのものは同じ色の明度の違いを表す事にしているので、墨入れ時に三段目にだけ全体を黒で塗り、二段目は半分、外側は下地塗装無しでそのままで塗装に取り掛かります。工程26は、ShadowGrey+UltramarinesBlueSpecewolvesGreyを一様に塗った状態ですが、下地として塗った黒が透けて見える為に微妙にグラデーションが掛かったように見えます。ここから、只管SpecewolvesGreyを一層毎に加えてゆき、光点を目指します。何層も繰り返していると、グラデーション部分が「光ってくる」のが実感できます。そうなると完成です(工程28)。別の言い方をすると、光るまではその手を留めてはいけない、と言う事になります。

工程29工程30工程31工程32

 次は巻物です。よく似た物体が隣り合っているときは、別の色にしておいた方が見栄えが良いので、別々に塗っていきます。墨入れ後に、BubonicBrown+LeprousBrown少々を下地として、そこからRottingFleshを加えて二三層塗った後に白を加えてグラデーションを終了させます(工程29・30)。もう一つは、BronzedFlesh単色を下地に、そこからRottingFleshを加えて二三層塗った後に白を加えてグラデーションを終了させます(工程31・32)。巻物は光沢があるのも不自然と思われるので、余りグラデーションを密にして光らせる必要はありません。紐は写真には撮っていませんが、JadeGreenに白を加えています。

工程33工程34

 さて、塗装も後半に差し掛かって来ました。次は褌?です(工程33・34)。写真では余り綺麗に色が出ていないかもしれませんが、LichePurple→TentaclePinkのグラデーションです。私は物を書き込むよりもグラデーションを優先させるのでこれで良しとします。

工程35工程36

工程37工程38工程39

 工程35〜39はブーツの塗装です。今回は黄色を目立たせるように考えているので、ブーツは黒系にする事にしました。ここで問題になるのは、黒ブーツ本体を何色で塗るかという事です。私は普段黒→ShadowGreyを使用しますが、その辺の組み合わせは既に鎧で使用してしまっているので使えません。そこで、今回はJadeGreenを少量ずつ混ぜる方法を使用しました(工程35・36)。あまりやり過ぎると却っておかしくなるので大体四五層程度で留めておきます。工程37〜39の黄色の塗り方は工程GHで示したSnakebiteLeather→BadmoonYellowグラデーションを応用したもので、光点位置・角度を決めてそれに向かって何層も重ねてゆきます。マスクの場合と違い、こうしたゆるいカーブを描く物体の場合は、光点位置を真ん中から少しずらした方が綺麗に見えるようです。実際塗ってる時は蛍光灯などを当てて確認すればより確実ですが、適当なものでも何とかなるものです。

工程40工程41工程42

 工程40〜42はシャレコウベの塗装です。下地にSnakebiteLeatherを用いてそこからBronzedFleshを混ぜてグラデーションを掛け、ある程度までしたら今度は白を混ぜてゆきます。取り立てて書く事はありませんが、失敗したら直ぐに墨入れをする事は忘れずに。

工程43工程44工程45工程46

工程47工程48工程49工程50

 さて、いよいよ最後の部分、剣です。工程43〜46は右手の剣で、グラデーションは黒→TentaclePinkです。やり方は一つ、只管に剣先がピンク色になるまでグラデーションを掛け続けます。工程43が掛け始めで44は凡そ5回目、45は10回強、46は20回強です。正直言うとここまで普通する事は私もありませんが、今回はグラデーションをどれだけ行えば元の色に近付くかという実験も兼ねてやってみました。黒からグラデーションを掛ける時の大凡の目安にはなると思います。
 残りの工程は左手の剣です。最初に剣のルーンをUltramarineBlueで塗り(工程47)、そこからIceBlueに向けてグラデーションを掛けます(工程48)。大体三四層も掛ければ充分だと思います。ハイライトはIceBlue単色で行いました。この剣は殆ど地面と平行に設置されるので、光点の向きには注意します。
 左手の剣本体は、右の剣を強調する意味でも、フィギュア本体と同系色で余り目立たない配色にしました。黒→UltramarineBlueで凡そ五層位のグラデーションを掛けて(工程49)から、残った色にSpacewolvesGreyを加えて何層か塗って終了とします(工程50)。

 この時点で塗装そのものはほぼ終了です。塗らねばならない残りの部分は鋲の部分に込める金属色だけです。しかし、それらは土台の加工を終え、表面保護剤を吹いて後の仕事なのでもう書く必要はありません。細心の注意を以って金属色が食み出ない様に置いてゆくのみです。長々と書きましたが以上です。私や私の友人が行うこの塗装法に一番必要なのは時間と根気です。ここまで見て、この塗装法を実行する気になった剛の者はどうぞ挑戦してください。

完成品

"It is particularly rewarding to spend extra time and effort on your own character models.
(貴方がキャラクターモデルに対してより多くの時間と努力をつぎ込む事で報われる)"

この言葉、信じてみませんか?

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