「我来自廣州」最終回

……何の話かというと、つい最近(99年1月29日)まで香港亜州電視本港台(ATV)で放映されていた抗日戦の遊撃隊員とその周辺を描いたドラマの事です。つい昨日(2/1/99)まで中国は广州にいたので見る機会に恵まれた訳ですが……

頼むから自分達の愛国心の出所を抗日(ゲリラ)戦に求めるのは止めてくれ。お隣の国の人。

粗筋

 抗日を叫び彼ら…日本人…との戦いを選択した中国青年二人と日本と中国との関係を少しでも良くしようと日本人と協力関係を続ける傍らその抗日ゲリラ『遊撃隊』にも好意的なその友人。彼ら三人は日中戦争に突入する直前の廣東で時代の嵐に立ち向かって行く。そして現地滞在の日本人将校を殺害した彼らが最後に彼らの選んだのは民族の自由と愛国の為、青天白日旗の国民党軍に共に参加する事だった。

私見

 私が見た限り日中友好などという事は毛ほども考えていない日本人と中国人が延々と暗闘を続けるだけで相対的な描写など全くなく、自民族礼讃の限りを尽くす頭の悪い事この上ないドラマであった。…と書いてしまうのは簡単だがそれなりに考えさせるものもあったのは事実である。この物語の時代背景では香港、マカオは既に外国に譲渡されており、日本軍は自国民滞在者の安全の為に廣東に駐留している。既に国民党との間では戦争状態にあり、当然、余計な対立を単なる駐留者の身分でしかない日本人が望むはずもなく現地の人間と誼を通じるのは当然の事である。そうして関係の出来た人間、中国人にとっての裏切り者「漢奸」が果たして自分だけの利益を考えた上で行動していたのか。このドラマの中には自己の欲望に忠実な結果日本人に荷担した敵役と、対立を避ける為敢えて日本人と誼を通じる主人公、二人の中国人が存在する〔無論この二人のうち漢奸なのは言うまでもなく敵役の方である〕。だがそれを描写するにしては余りに単純ではないだろうか。このドラマの中には無茶と言うか余りに酷い演出が見受けられたがその内の一つがその漢奸の描写である。高々日本人将校に対するホスト役でしかないその敵役の男が日本人一般兵を率いてその指揮を任されていたが日本軍は規律が厳しく、一介の中国人に指揮権を渡す事などは考えられないし、その人物の権力が上昇する事も有り得ない。あくまで外国人は外国人でしかないのである。そう云った意識が中国人である主人公側にはあって日本側にない訳がない。また、この時点で中国と言う国家は成立していない。愛国心以前の問題である。時代考証と云う物を無視して歴史を語ってはいけない。

 主人公が抗日戦に突入するに当り切っ掛けとなった事件も酷い。最終回において主人公は遊撃隊に参加する友人達に日本軍の次の計画を入手する様頼まれ、快諾する。折下4月29日、昭和天皇の御生誕日。主人公は恋人と共にそのパーティに参加する。君が代が流れ日本人は『天皇陛下萬歳』ではなく「天皇萬歳」を叫ぶ。主人公はその光景を苦々しげに見ながら自分もその言葉を口にした。宴酣の頃、日本人の将校の一人、最高責任者の三木大佐に個室で飲もうと誘われる。これを好機と見た彼は恋人も含め3人で飲み始めるのだが、この三木大佐、どうにもこうにも咸濕(はむさっ。廣東語で云う色魔の意)で主人公の恋人の手を握って離さず乾杯の言葉を繰り返すばかりで挙句に酔いつぶれてしまう。主人公は以前彼の軍服の胸ポケットに金庫の鍵が入っている事を確認している為、恋人にそれを抜き出させる事を促し、まんまと奪取に成功。三木大佐の相手を恋人に一時任せて金庫に向う。…嘗めとんのか。あくまでここは客地であり〔物語上〕つい最近も暗殺未遂事件があったばかりだというのに、個室でスパイの可能性の有る他国の人物と酒を飲む事を誘い、あまつさえ酔いつぶれるなど、危険極まりない行動を取る軍人の演出が何処にあるか!馬鹿にするのも大概にしろと思わず画面に向って叫んだわ実際。…金庫の中には何故か中文の指令文書が(笑)。そしてその文には何と本日真夜中にXX村において毒ガス実験を行い中国人を殺害せしめよとの命令が。しかもその責任者の中に件の漢奸の姿もあった。なんでやねん。

 最初不愉快極まりなかったが段々笑えてきた。まるでお子様向け特撮番組の演出ではないか。変に民族主義をあおる分だけ性質が悪いが。閑話休題。で、それを確認した主人公は自分が日本軍に騙されていた事を知り愕然とする。早くこの事を仲間に知らせなければと速やかに脱出しようとした彼の目前にもう一人の日本人、野口が現れた。主人公はもみ合った末に野口を殺し、急いで恋人の下にゆき脱出を促そうとするが恋人もまた三木大佐を殺害していた。彼女を酔った末強姦しようとした三木は花瓶で頭を割られてしまったのだ。何てこった帝国軍人。急いで脱出した二人は仲間に連絡し、男は遊撃隊と共に毒ガス実験が成されようとする村に向った。そして都合良く間に合った彼らはそこにいた漢奸共々悪の権化日本軍を殲滅し、自国を守る為立ち上がる決意を固めた。そこに現れた主人公の友人は国民党の軍人で共に戦う事を要求する。彼らは国民党軍人として正式に日本軍と戦う事を共に誓うのだった。そして女達と主人公の一人、以前の戦いで片腕を失い戦闘能力を失った男を残して二人は戦場へ。そして簡単且つぞんざいに大東亜戦争が語られ舞台は終戦後。時が流れ男達はついに帰ってきた。女達は涙で彼等を迎え、これからの新時代を喜ぶ。青天白日旗がはためいた。物語はこれで終わる。……おいおい待ってくれ。そっちから見ればそれで良かったで済まされようが見ているこっちは堪らんぞ。何であれだけ無茶苦茶な話をしておいて突然正確な歴史の流れを差し挟む。幾らこの作品はフィクションだと但し書きを付けてもあんな恣意的な演出ばかりでは信じる人間が出てくるではないか!一体どう云う了見だ。

 尤も、そうした状態であっても日本軍がまともに軍規を守っていたと思われる部分も劇中で見受けられる。中国の古来よりの戦争は酸鼻を極め、一般人が虐殺されるのは当たり前の話である。日本人はそれをしなかったから、遊撃兵が存在できる余地が有った。また、主人公も安心して女達を残して戦場に赴いたと考えられる。もしも日本軍が南京でやったとされる大虐殺が本当ならば何処ででもやった可能性が高い。その場合、日本軍が出現しやすい処から中国人が脱出しようとし、かなりの大混乱が発生した筈だがそれも見当たらない。と云う事はそれだけ日本軍の統制が取れており、信頼されていたと考えられるべきだろう。

 それからもう一つ重大な事がある。青天白日旗は国民党政府のもので現中国政権を握る中国共産党の五星紅旗ではないと云う事である。知っての通り後に国民党と共産党の間に大規模な争いが起こり、それこそ日本軍が殺害した以上の中国人が殺されている。主人公達の未来はその部分から考察すると非常に興味深いではないか。彼らの言う民族の自由、愛国と云うものが本物か否かはこの劇中から更に語られない未来において試される事になるのだ。しかも国民党はその内戦の結果敗北し台湾に落ち延びるという経緯を辿る。そしてその後には悪名高い文化大革命が待っているのだ。今の中国ではその辺りの暗黒の歴史が語られる事は決してないだろう。言い換えればその部分で出来た中国人の全ての罪が過去の日本軍に被せられているのではないだろうか。そう思えて仕方がない。と云う事は、中共が存在している限り、日本は永遠に責められ続けるのだろう。遺憾な事だ。

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