GLOBE Japan通信


No.59 『地球環境』 09年6月号


シンポジウム再録「再び問う、日本の環境教育」

行動に結びつかぬ環境教育 「環境科」新設を

地球環境国際議員連盟(GLOBE Japan)は3月23日、ホテルニューオータニ(東京都港区)で毎年恒例のシンポジウムを開催した。テーマは「再び問う、日本の環境教育」。2003年に環境保全活動・環境教育推進法が成立して5年、節目を迎えた日本の環境教育は今後、どのような方向を目指すべきか。学識者やNPO(民間非営利団体)代表など3人の講師が行なった講演要旨を再録する。

 

講演1 「日本の環境教育の今とこれから」

日本環境教育学会会長 東京学芸大学名誉教授・東海大学教授 小澤(こざわ)紀美子氏

 

関係の再構築と「生き方」を教える環境教育
 環境破壊には「外なる自然破壊」のほかに「内なる自然破壊」という要素があり、私は環境教育にはこの2つの観点が必要と考えます。今の日本ではさまざまな関係破壊が生まれ、子どもたちの自己否定感も強くなっています。環境教育の現場では、持続可能な社会をめざして共生について学びながら、子どもたちの自己肯定感や内なる力を喚起させる努力が必要だと思います。

 日本の環境教育は公害問題を学ぶことからスタートし、発展してきました。しかし、環境教育は単に生態系や自然の仕組みを教えるだけではなく、人と人、自然あるいは文化や歴史、地域、そして地球との関係の再構築について教えるものだと思います。具体的には、人間の活動が環境に及ぼす影響や人間と環境のかかわり方、その歴史や文化なども環境教育に含まれます。

 そこには学習者自らが体験し、感じ、わかるというプロセスを取り入れることが必要です。自然は「生きる力」の原点で、環境教育における自然体験は学びの土台づくりになっていると思います。しかし、同時に自然体験は「サプリメント」ではないということも強調したい。

 こうした環境学習は豊かさや価値観の変容を促し、ライフスタイルそのものの変革につながります。つまり環境教育を考えることは、教育そのもののあり方を問うことでもあります。

 

環境教育には地域再生力がある

 「センス・オブ・プレイス」という言葉があります。これは「場所のもつ意味」ということです。日本という国は独自の自然や文化を持っています。その素晴らしい地域特性の持つ意味を考え、守り伝えていくことも環境教育のひとつであると思います。  地域の素材や人材、ネットワークを活用し、地域の伝統文化や歴史、先人の知恵を生かしていくことも、環境教育にとって大切な要素のひとつです。教室を越えて学び、多様な他者との出会いを通じ、学ぶ側の想像力や創造力を育くみ、地域社会の再生にもつながります。

 実際、日本のいくつかの地域では、教育から始まる地域づくりが行われています。たとえば北海道の当別では食に根ざした地域づくりが行われており、スイカから砂糖を作ったり、麦を植えて石うすでひくなど、子どもたちは地元の方に学びながら、自然・文化と経済や社会の結びつきも学んでいきます。こうした取り組みが、全国に広がることを期待しています。

 1997年には文部科学省と経済産業省により、学校施設のエコ改修を推進するエコスクール・パイロットモデル事業がスタートしました。2002年からは農林水産省、2005年からは環境省とも連携し、エコ改修に加えて環境教育や環境対策などを合わせて実践することが推進されており、実施校数は全国で合計781校に達します。

 モデル校のひとつである東京都荒川区の第七峡田小学校でも、地域の方からの学びが行われています。子供たちはその人の生き方に学ぶんですね。たとえば三年生の子供たちは75歳の方のお話を通じて、あっという間に50種類もの植物について学びました。

 また、体育館では二重ガラスや外壁外断熱などのエコ改修が行われましたが、子供たちが設計者に話を聞き、今度は自分たちで模型を作り、地域の方にその内容を伝えるということもやっています。

 こういった学びは、コミュニケーション能力や他者とともに働く能力、社会的想像力といったスキルの育成につながります。こうしたスキルを土台に、複眼的な思考力、軽やかなフットワークと柔軟性などを備え、次世代の新しい環境知性としてリーダーシップを発揮するのが望ましい形です。


講演2 「ヨーロッパ及びイギリスでの環境教育」

ブリティッシュ・カウンシル駐日代表 ジェイスン・ジェイムズ氏

 

EUの高校では環境教育はほぼ必須科目

 ヨーロッパには約50の国があり、欧州連合(EU)には現在27カ国が加盟しています。EUの欧州委員会では1993年の決議で、あらゆる教育レベルにおいて、環境教育の要素を入れることが望ましいという指針が定められました。この指針に拘束力はありませんが、現在、ほとんどのEUの国では何らかの形で環境教育を組み込んでいます。

 EU加盟国の中の18カ国を見ると、初等教育で環境教育を個別教科として教えている国は5つ、科学や地理など他の教科に取り入れている国は14、あらゆる教科にテーマとして取り入れている国は5つあります。合計すると18を超えますが、これは個別教科として教えているほかに、他の教科にも取り入れているなど、一部重複している国もあるためです。他教科に環境教育を取り入れている国が最も多いですが、たとえばデンマークでは「グリーン教育」と称し、すべての教科に環境教育を取り入れ、自然の中で得た知識や経験を通じて学ばせるという方針をとっています。

 高校では、教科を自分で選ぶことができ、専門分野も絞られてきます。しかし、多くの国では必須科目の教科をいくつか設けており、科学はたいてい、そのひとつに入っています。科学には環境教育が含まれることがほとんどなので、結果としてEU加盟国の高校では、環境教育がほぼ必須科目となっています。

 また環境教育を高校の専門科目としている国も少なくありません。ギリシャやポルトガル、スペイン、イギリスなどでは、高校に環境専門コースを設置しています。その中で指導される主な分野は、政策や環境法令、都市計画、土地・資源管理、社会と経済的要因、生態系と生態学など、多岐にわたります。

 

歴史やデザイン学にも環境教育を導入

 イギリスの環境教育についてお話します。2005年、イギリス政府は「持続可能な開発戦略」を策定しました。これは消費や生産、天然資源の保護など多岐にわたる分野で、持続可能な発展を推進するという計画で、その達成のためには行動様式を変えることが必要とされ、それには教育が重要な役割を果すと位置づけられています。このため、イギリスの省庁のひとつである子ども・学校・家庭省(DCSF)では、「持続可能な開発のための教育Education for Sustainable Development」(ESD)を国の教育カリキュラムに組み込む方針を打ち出しました。

 ESDはいわゆる環境教育にあたり、イギリスではほとんどの教科に組み込まれています。地理や化学だけでなく、歴史や公民、経済学やデザインとテクノロジー学、体育、音楽や体育といった一見環境問題とは関係ないように見える教科にも、ESDが組み込まれています。

 たとえば歴史では、過去の行動や選択、価値観が未来の社会や経済、そして環境にどのような影響を与えるかという点について学びます。また、デザインとテクノロジー学では、資源が適切に利用されているか、製品の製造が地球環境にどのような影響を与えるかなどについて考えます。  また、イギリス政府は全ての学校に対して持続可能な活動を促進しています。その具体的な活動の入口として「食料と飲み物」「エネルギーと水」「消費と廃棄」など8つの項目が設けられており、どれを選ぶかはそれぞれの学校の自由です。

 各項目は、3つの柱から構成されています。その項目について学ぶこと、校内で各項目に基づき、環境負荷の軽減を実践すること、そうした活動の重要性を地域に対して啓蒙することです。政府は、2020年までに、すべての学校が太陽光発電や再生可能エネルギーの活用など、何らかの形で地域をリードする活動モデルとなることを推進しています。

 

講演3 「環境教育・環境保全活動の現状と今後の課題―法の見直しを視野にー」

NPO法人 環境文明21共同代表 藤村コノエ氏

 

法律制定から5年経ち、見えてきた課題

 私は20年ほど前から、環境教育の専門家として活動していますが、社会の劣化が進み、持続可能ではなく「持続不可能な社会」に近づいているという危機感を持つようになりました。

 そこで、環境教育を全国的に推進する仕組みを作っていただきたいと、私どものNPOから国に骨子の提案などを行い、2003年7月に制定されたのが「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(略称:環境保全活動・環境教育推進法)です。活動を始めてから、わずか2年でのスピード立法となりました。

 5年を経過した2008年2月、環境省が小・中・高校、自治体、企業など計877の組織団体を対象にアンケートを実施しました。その結果、環境教育に関するさまざまな課題が浮かび上がってきました。

 学校教育の面では、中学や高校での環境教育の位置づけが不十分なこと、教職員の研修参加率が30%前後にとどまっていること、すべての学校で環境教育に取り組んでいるわけではないなどの問題点が挙げられます。

 また、自治体・市民レベルで見ると、都道府県での計画策定は進んでいるが、市町村レベルでは8%と割合が低く、環境保全活動が仲良しグループの活動にとどまり、発展性が見られないことなどが問題点として挙げられます。

 企業では幅広い内容の環境教育が実施されていますが、本業部分への反映がほとんどない点が挙げられます。環境省が行なった別の調査でも、80%以上の企業が環境への取り組みを社会貢献のひとつと回答、環境と経済の統合はできていないと言えます。

 全体を見ると、環境教育は意識や知識の向上には役立っているが、具体的な行動に結びついていないこと、環境保全活動は人材の固定化・高齢化が進み、広がりが見られないといった課題が見えてきます。実際、この5年間で二酸化炭素(CO2)の排出量も減っておらず、残念ながら法律の具体的な効果が出ていないのが現状ではないかと思います。

 

「環境科」の新設で環境学習の機会を平等に

 一市民としてNPOで活動する立場からしますと、法律の効果が上がっていない要因は、努力項目がほとんどで、法的拘束力がない点が大きいのではないかと思います。やってもやらなくてもいいのなら、やらないという人も当然出てきます。結果として社会全体に、環境教育や環境保全活動の重要性が十分認識されていないということが言えます。  こうした状況を踏まえ、法の制定から5年を経て見直しの時期を迎えた今、いくつか提案をさせていただきたい。

 第一が、学校教育での「環境科」の新設です。生きる基盤である環境について学び、子どもたちの「生きる力」を育むことはまさに緊急課題です。環境科の設置により、すべての子どもに平等に環境についての学習機会を提供でき、教職員の能力も向上し、教材の開発整備も進むと思います。

 また、環境保全活動を促進する仕組みも必要だと思います。ボランティア的な活動や行政の下請け的な活動にとどまらず、持続可能な社会の創造につなげるには、助成金の拡大など、財政面での支援策がより求められると思います。

 また、環境政策の策定や実行の段階で、NPOが参加できる仕組みも強く希望します。市民の立場に近いNPOからの情報や提案を得ることで、より実現性が高い政策が作れると思いますし、環境教育で学んだことを生かす場も増えると思います。

 現在の環境問題は市民の主体的な参加なしには解決しません。それには、環境教育や環境保全活動を通じて、持続可能な社会を作る力を育てることが重要です。そのためにはあらゆる子どもが環境について学ぶ仕組みを作り、継続的に環境保全活動を支え、学んだことを政策作りにいかす機会を作る、今より一段上の環境教育や保全活動を目指した法改正の実現を強く願っております。