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一流選手に学ぶ  能力を100%発揮する法

 - 能力を最大限に発揮するために -


この世の中で一番ムダなのは人間の能力である、人間の能力は十分の一しか使われていない、とよく言われます。
では、持っている能力をもっと発揮するために、どうすればいいの-か。
世の中には「上手くいっている人」と「上手くいっていない人」がいます。その違いは、簡単に言えば、次の二つです。
一つは考え方、心の持ち方の違いです。ストレスには生理的なストレスと精神的なストレスの2種類があります。「暑い」とか「寒い」という生理的なストレスは自分ではどうすることもできませんが、精神的なストレスは自分がどうとらえるかによって回避できると思うのです。
もう一つは自己管理です。これは心だけではなく、体も含めての管理です。
スポーツの世界でもビジネスの世界でも、一流と二流の違いは何か。なぜ、成功する人と成功しない人がいるのか。この違いを分析し、その方法を提供しているのが、メンタル・トレーニングであり成功哲学です。人間にはすばらしい能力が備わっており、自分をコントロールしてこの能力を100%引き出すのがメンタル・トレーニングで、スポーツの世界だけではなく、芸術、教育、ビジネスなどいろいろな世界で生かせます。
始まりは、1950年にソビエトの宇宙飛行士のため、宇宙で問題が起こったときにパニックに陥って操作ミスを起こすのを回避するために考えられたものです。それがスポーツの世界に応用されたのです。アメリカやソビエト、東ドイツなどで活用されたのですが、もともとは東洋の禅思想が西洋で科学的に研究され、東洋に帰ってきた、というわけです。
重要なことは心の持ち方、考え方です。考え方が変わると、行動が変わります。ここがポイントです。行動が変わると、結果も変わってきます。
何か問題が起こると、他人の責任にする人と、自分に責任があると考える人とに分かれます。実際は両方なのですが、他人に責任があると考えても、他人が変わってくれないかぎり問題は解決しません。だから通常は、できないことは仕方がないから、できることは何か、という捉え方をします。それは、自分が変わることなのです。まず、考え方を変える。そして、考え方が変わると行動も変わるのです。
スティーブン・コヴィーの『七つの習慣』という本に書かれていた例ですが、地下鉄に乗ると、父親が子供を連れて乗ってきた。ところが子供が大声を出して騒ぎだしているのに父親は注意しない。こういうとき、どんな気がしますか。著者が父親に注意を促したところ、父親が言うには「実は、母親がなくなったばかりで、子供たちも混乱しているみたいです」という、そう言われると、何か力になってあげられないものかと、気持が一瞬に変わった、という話です。
今、皆さんの考え方も変わったと思うのです。だから、ものごとというものは捉え方で変わるのです。車で走っていて、後ろの車にパッシングされたりすると腹が立つけれど、もしかしたら後ろの車の人は、ご家族が危篤で急いでいるのかもしれない、と捉えると腹も立たないのです。人は何か理由があって、その行動をとる。それを、自分が腹の立つような解釈をするから、ストレスがたまっていくのです。

プロ意識と「一流」の条件
プロの意識のポイントは、行動するときに「やらされている」ではなく、「自分からやっている」と捉えていることです。やらされるとストレスがたまります。それなら、自分で何をすべきかを考えて、自ら行動し、上司に提案していく。積極的にやると、黙っていて上から言われてやるより、ずっと得です。
それから、成功する人は24時間考えています。普通のサラリーマンは、勤務時間が9時から5時までだとすると、この時間だけ仕事をしたら終わりだと思っているのです。たしかに、就業規則ではそうでしょう。しかし、できる人は時間外もいろいろなことをしています。それは「やらされている」のではなく、自分が必要だから「やっている」のです。
だから、まず、皆さんがそれを必要だと思っているかどうかです。もしも必要ないと思っているなら、結局、今の仕事は自分にとってプラスになるようにはなっていないのです。せっかく与えられたチャンスは、生かさないといけません。

まず、始めの一流の条件は、
1.常に良いコンディションを心がけている
常に良い状態をつくるように心がける。これは重要です。24時間考えて準備するというのは、良い状態をつくるということなのです。
オリンピック選手に心技体のうちでどれが大事かと訊くと、まず心、次に技術、体力が最後だと答えます。ところが、プロ選手に訊くと答えは違うのです。まず体、そして心があって、最後が技だと言うのです。何が違うのかと言うと、オリンピック選手はそのとき勝てばいい。足の骨を折って立てなくなっても、金メダルがとれれば構わない、という考え方なのです。でも、プロの場合は、それで食べているのです。ここでケガをしたら、食べられなくなってしまうのです。どうすれば勝ち続けられるかと、いつも考えています。プロは一度勝てばいいのではなく、「勝ち続けなければならない」という点がアマチュアとの違いです。
皆さんも仕事をしていく上では、勝ち続ける、つまり成果を出し続けなければいけないのです。一回だけ頑張って、終わって、満足するのではなく、それを継続しなければならないのです。大変なことです。そのためにプロの選手は、食べるものや睡眠など、体調には常に気を使っています。たまには息抜きも必要ですが、毎日夜遅くまで飲んで、酔って帰って、朝、しんどい状態のまま仕事をしているというのはプロではありません。
よく、「スポーツとビジネスは違うでしょう」と言われるのですが、スポーツ選手は試合に勝つための準備として練習しているのですから、練習も仕事なのです。ビジネスの世界では、営業の成約のときや接客のときなどが試合にあたると思うのです。そのためにいろいろな準備をしているのです。企画担当であれば、役員会でプレゼンするときが試合で、そのために資料をつくったり情報収集をするなどの準備をするわけです。そう考えれば、ビジネスもスポーツも同じなのです。
そう考えたとき、スポーツ選手は比較的一所懸命やっているという気がします。ふだんから体調管理などに気を使っています。毎日が勝負だと、徹底的に自己管理しています。この自己管理がビジネスの世界では欠けている、と私は思っています。

2.自分の感情・気持ちをコントロールする
自分の感情、つまり緊張や怒りをコントロールすることも大事です。
人間は、怒ったとき、5秒間おくと怒りが静まると言われています。怒った瞬間に行動を起こすのではなく、5秒間待ってから言葉を発するようにすると、怒りがある程度収まっているので自分でコントロールできるということです。心の中にバーがあると考えてください。よく怒る人はこのバーが低いので、何かあるとすぐに腹が立ってしまう。バーが高いところにある人は、少々のことでは腹が立たないのです。よく腹の立つ人は、自分は心の中のバーが低いのだと意識することで、少しは冷静に自分を見つめられるのではないかと思います。
また、好きなものや大きなものをイメージするという方法もあります。例えば、上司にミスして叱られて落ち込んだときはどうしますか。私はよく宇宙を思い浮かべます。ミスのことだけを考えていると、「大変なことをしてしまった」と思いがちです。でも、冷静に考えるとそうではない場合も多いのです。
そして、ミスを引きずっていると、次のミスにつながるのです。それはミスを放っておくという意味ではありません。次のプレイをする際に、前のミスを考えて悪い精神状態でいてはまたミスをする可能性が高いので、そのときには一旦忘れる。そしてゲームが終わったあと、何が悪かったのかを考えることは、次に失敗しないために役立ちます。
気持ちが沈んでいても、元気を出さないといけないときがあります。こういう、気持ちでコントロールできないときは体から入っていくのです。無理に笑顔をつくることも一つの方法です。嬉しいから笑顔になるのではなく、笑顔でいると、なんとなくイヤなことが消えていったりするものなのです。あるいは意識的に胸を張る。大股で歩く。元気のないときほど、胸を張って上を向き、大股で歩くのです。すると、気持ちも変わってくるのです。さきほど、考えを変えれば行動も変わると言いましたが、逆に言えば、態度を変えれば気持ちも変わる、そして結果も変わってくるというわけです。
試合中、審判のミスジャッジはよくあるものです。二流の選手はそれにこだわっていつまでも腹を立てているので、次のプレイに集中できません。ミスジャッジから自分のリズムを崩す選手は多いのです。でも、サッカーの中田選手を見ていると、ミスジャッジされたとき笑っているでしょう。笑いながら肩をすくめて両手を広げるポーズをとりますが、すぐに平然としてプレイに戻っています。抗議して変更できるものならばいいのですが、言っても変更できないなら言わない、という姿勢なのです。
ほかに気持ちをコントロールする方法としては、セルフトークにより自己暗示をかけたり、リラクゼーションやサイキングアップ(気持ちを高めること)に音楽を使ったり、深呼吸したり、何かをするときにルーティン(毎回必ず行う行動)を持つなどがあります。

3.明確な目標をもっている
明確な目標を持ち、それに向かっている人はあまりストレスを感じないのです。むしろ、障害があるとそれを乗り越えることによって成長するし、満足感を感じるのです。だから、皆さんには是非、目標を持っていただきたいのです。
会社と私生活を完全に分けるという人がいます。会社はお金をもらうところなので、いやな仕事をガマンして、自分のしたいことは私生活でする、という人は多いです。それも一つの生き方だとは思いますが、もっといいと思うのは、自分のやりたいことのための一つの手段として会社で働いていることです。
スポーツ選手で一流になっている人は、20年後の目標、5年後の目標、1年後の目標、1ヵ月後の目標、今日の目標を紙に書いてくださいと言うと、さっと書くはずです。20年後に自分が何をしないといけないかがわかっているのです。そして、1ヵ月後に何をやらなければいけないかもわかっているのです。今日一日の目標が何かということもわかっているのです。それが自分の将来の目標につながっているから今日、一所懸命やれるのです。
皆さんも今の自分が置かれている立場で、自分の目標を達成するためにはどういう考え方になればよいかを考えれば良いわけです。とにかく会社に雇われて、言われたようにやっていれば適当な給料をくれるからというのでは、自分のやりたいことや目標達成はできません。自分のやりたいこと、20年後、30年後の目標を持ってもらいたいと思います。
別に今、そう決めたからといってそれを守る必要はない。変わってもいいのです。とりあえず、20年後、自分がどうなりたいのかという目標をぜひ作ってください。そして、その将来と今日やることや1ヵ月後の目標とがどう結びつくかを考えてほしいのです。
少なくとも一流の選手は将来の長期的な目標と今の目標が2つあって、つながっているから一所懸命やるのです。今の仕事は将来の目標のためにある、と彼らは考えているのです。だから、「やらされている」のでなくて自らが「やる」わけです。自分の意志でするから、120パーセント一所懸命なわけです。
皆さんも是非、将来の目標を持ってそのために今の仕事をどう活かせるのかを考えてください。上から言われたからやるのではなく、下からどんどん提案すれば上の人が採用してくれます。特に今は若い人たちの感性が重要視されています。だから、皆さんから「こんなふうにしたらいい」という提言を出すことです。
何度か却下されることがあると思いますが、それで「だめだ」と思ってはだめです。たまたまその上司の場合はだめだったけれど、違う人が聞いたら結果も違うかもしれません。でも人間は学習しますから、だめだと2〜3回言われると、もう下から提案してもだめなんだと思いこんでしまう。これはメンタルブロックといって、自分で壁をつくってしまうわけです。でも、言い続けている間に誰かが聞いてくれて、「君の考え方はいいから採用しよう」という人がきっと出てきます。是非、皆さんの方から積極的に影響を与えてほしいと思います。

4.楽しんでいる
一流のスポーツ選手は皆、自分の目標に少しずつ近づいていくのを楽しんでいます。皆さんも20年後の目標を持って、その目標を達成したいと思うことです。すると、周りのつまらない問題なんか忘れてしまい、どんどん目標の方に集中するようになってくる。自らの意志でもって、mustでなくwillで行動すること、つまり自分のためにすることです。人のためにするのではないです。
仕事も、一所懸命している人は、会社のためでなくて自分のためにしている。自分のためにやらせてもらっているからこそ、会社のためにも頑張るのです。自分を殺して会社のためだけにというのならば、パワーは出ないと思います。自分のためにするから、能力もついてくるし、それを逆に会社に還元できる。会社も自分もwin-winなのです。そのためには「自分のためにする」ことがポイントなのです。

5.いつも明るくプラス思考
一流選手は失敗しても落ち込んだりしません。皆さんにも是非、落ち込まないようになっていただきたい。
以前、谷口というマラソン選手が、レース中に靴が脱げて転倒したけれど、終わったあとで「こけちゃいました」と笑っていました。すばらしいと思います。捉え方の違いです。過去のことを悔やんでも仕方がない、だから過去を考えずに先を見る、という考え方です。
また、自信をもつことも大事です。
ただし、選手の場合、「勝ちたい」という人が非常に多いのですが、「勝ちたい」はプラス志向ではないと言われています。なぜかというと、「勝ちたい」というのは顕在意識が考えていることであり、それは潜在意識では「負けるかもしれない」と思っているということだからです。本当は「勝つ」「勝てる」と思うことが必要なのです。皆さんが何かに挑戦するときに、「達成できたらいいな」と思っている場合は、心のどこかで「達成できない」と思っているのです。
では、どうすればいいか。やはり万全な準備をすることです。自分で「これはできそうだ」と思うまで準備をするのです。万全の態勢で臨むことが大事であり、不安があってはいけないのです。
イメージしてください。幅30センチメートルの板があるとします。床にこの板が置いてある場合、「この上を歩いてください」と言われれば、みんな簡単に歩けると思うのです。それが20メートルの高さのビルとビルの間、3メートルぐらいの場所に渡してあって、「歩いてください」と言われたらどうですか。緊張して渡れないでしょう。
板の上を歩くという同じ行動なのに、前者では「落ちても死なない」と思っているから安心なのです。ところが、他の条件が同じでも、ビルの上の場合は怖くて渡れない。何が違うのか。後者では、「落ちたら死ぬかもしれない」という不安があることです。
不安があるとどうなるか。これはすべての動物が持っているものなのですが、不安があるときには本能で「動くな」という指令が出て体が動かなくなるようにプログラムされているらしいのです。だから、「落ちるかもしれない」と不安に思った瞬間に、体は「動くな」という指令を受けるのです。それを無理やり動こうとするから体がぐらついて、かえって落ちたりするのです。だから、自信をもつというのは非常に大事なことなのです。「大丈夫」と思えば渡れるのです。
そのために、一流選手はどういう練習をしているか。たとえば体操選手は、一度失敗するとウルトラCなどの技は怖くてできなくなるらしいのです。そこでどうするかというと、できる技を何度も何度も練習し、自信をつけてから難度の高い技を練習する。何か不安なことがあれば、不安なことばかりやって体の中に不安を染み込ませるのではなく、できることをやって自信をつけてから次のステップに上がっていくのも自分をコントロールする一つの方法なのです。
ぜひ何かひとつ、一年後に必ず自信が持てるものを創って下さい。自信を持つと、行動も変わるし、結果も変わってきます。

6.自分の意志で積極的に行動している
他人にやらされるのと自分でやるのとでは、生産性がまったく違います。先ほどの言いましたが、人にやらされるとなかなかやる気が出ない。自分でやれば、やる気が出る。だから、やる気を出すためには、なるべく自ら行動するようにしようということです。たとえば、雑用など面倒なことを頼まれたときに嫌な顔をする人がいますが、「ハイ」と自分から進んでするのとどう違うかをイメージしてほしいのです。
柔道の山下選手は大学のときに、道場の雑巾がけをしなければならないのなら進んでやろうと、みんなを先導してやったというのです。すると、周りからも「あいつは積極的なやつだ」と良く見られるし、本人も気持ちがいい。言われてイヤイヤする人がいたら、本人も気分が悪いし、頼んだ人も気分が悪いのです。していることに違いはないのに、自分も周りも気分が違うのです。だから、できることなら自分から進んでやろう。そういう小さな積極的な行動が、大きな成果へと変わってきます。
また、一流の人は素直で柔軟な思考を持っています。少しでも自分のためになるように、人の話を聞く。自分は「こうだ」と固定観念を持って人の話を聞かない人も多いですが、一流の人ほど、人の話を聞きます。その話を採用するかしないかは自分で判断しますが、とりあえず相手が何を言おうとしているのかを聞くことが大事です。

7.語学力でグローバルな視野を持つ
日本人選手が海外で勝てない理由として、実は「英語ができない」ということがあるのです。競技場の館内放送で臨時の知らせなどがあるかもしれず、英語の放送に常に耳を傾けていなければならないので、ウォーミングアップなどに集中できない、気持ちが自分の調子の方に行かない、という問題があるのです。日本人選手が海外で勝つためには語学ができなければならないと言われています。
私は、ビジネスの世界でも一緒だと思っているのです。というのは、語学のできない人は、なるべくグローバルなことから外れて戦略を立てようとする。無意識になるべく英語を使わなくて済む範囲の中でビジネスの組み立てをしようとするのです。語学ができると、そういう枠を外して自由な発想で、日本の国内だけでなく海外で生産や販売をしてもいいと思えるのに、語学が苦手なために視野が狭くなってしまうのです。だから語学は、直接的ではないが、潜在的なレベルで非常に影響を与えると思いますから、是非勉強してください。

リーダーシップはメンバー全員に必要
リーダーシップは、上司が部下に対して持つだけではありません。リーダーシップは「人に影響を与えること」と捉えればいいのです。皆さんが上司に何かを提案して上司を説得するというのは、皆さんのリーダーシップなのです。
これからの社会では、一つのグループの中でそれを得意な人がリーダーになり、取り組む分野によってリーダーが変わっていく組織になると思います。皆さんもほかの人より得意な分野を持っているでしょう。その分野の仕事のときには皆さんがリーダーとなってほかの人をひっぱっていくケースもあるわけですから、リーダーシップは皆に必要なものなのです。そう考えていくと、リーダーシップの必要性が一層出てきます。
昨年、阪神タイガースが優勝し、星野監督と野村前監督の違いが話題になりました。私の考えでは、星野さんがやる気で引っ張っていくタイプなのに対し、野村さんは理論で引っ張っていく人です。やる気のない人にいくら大切な理論の話しをしても「馬の耳に念仏」と言えます。つまり、部下にやる気がなければ、いくら大切なやり方を教えてもうまくいかない。逆に、やる気があってもやり方を教えなければうまくいかない。リーダーはやる気とやり方をうまく使っていかなければならないのです。
状況対応型リーダーシップという言葉があります。新入社員はやる気はあるが、仕事をどうすればいいかわからないから、やり方を教えてあげなければいけない。ところが慣れてくると、だんだんやる気がなくなってくるので、やり方を教えながら、やる気にもしてあげないといけない。そこからまた上達してくると、もうやり方を教えなくてもいいのですが、やる気を与えてあげなければいけない。ベテランになれば、もうやる気もやり方も教えなくても一人でやっていけるのです。
指導する立場とすれば、相手が望んでいるものが「やり方」なのか「やる気」なのかを考えた上で対応しなければならない。部下はわがままです。必要なときには教えてほしいし、自分でやりたいときにいろいろ言われるとイヤだという気持ちがありますから、それを頭に入れて接してください。
ちなみに、阪神の選手はプロですから、やり方、技術は各自持っているわけです。やる気が欠けていた。周りから「勝てるはずがない」と言われ続けていたから、「勝てない」と思っていた。でも星野さんが来て、「やればできるんや」「勝てるんや」と何度もいい続けたので、「勝てるかもしれない」という気になったそうです。ですから、暗示というのは非常に重要なものなのです。

叱ることと信頼関係
リーダーには叱ると誉めるで4つのタイプがあります。野村監督は、あまり叱りも誉めもしないタイプです。星野監督は叱りもするし、誉めもするタイプ。シンクロナイズドスイミングの井村コーチは叱るだけで成果を出させるタイプ。逆に、マラソンの小出監督は誉めるだけで、成果を出させるタイプです。
ただ、井村タイプは信頼関係という貯金を持っているから成功するのです。信頼関係があるから、人を叱っても許されるのです。信頼関係のない人を叱ってしまったら嫌われてしまう。叱るときには、それまでに信頼の貯金をしておかなければなりません。
仕事でも、叱るのはその人に対して「できる」と期待しているからです。でも、「期待している」と言うことが日本では抜けてしまっているのです。ただ「どうしてできないのだ」と言われると気分を害します。しかし、「できるはずだろう。それなのにどうしてできないのだ」と言われたら納得できるのではないでしょうか。だから、叱るときにはまず「期待している」ということを先に伝えるべきです。
人間は誰でも感情的に怒ることがある。叱るというのは冷静に、相手の行動について意見を言うものですが、怒るのは自分の感情です。感情的に怒っている場合は、相手にも伝わるので、絶対にこちらの言うことを聞かない。自分も損です。
日本の文化は「叱る文化」と言われています。たとえば、我々が子供を叱るのは、自分が小さいときにそういう教育を受けているからなのです。会社でも上司に叱られていると、その上司の癖がうつります。不思議なもので、人間は見ていると、自分も自然に同じことをしてしまうのです。ある意味では、それが社風であったり文化であると思うので、それを自分たちの代で変えていくのは難しいことですが、少しずつ変えていかないといけない。日本人は誉めずに叱ることが多いので上下関係がうまくいかなくなると言われています。良いところを見つけたら誉める、ということを身につければ、職場のコミュニケーションもうまくいくでしょう。

最後にピグマリオン効果について話します。アメリカで実験された話ですが、2つのクラスがあり、片方のクラスはできる子供たち、もう一方のクラスはできない子供たち、と先生に伝えるのです。実際は同じ能力の子供たちなのですが、一年後に学力判断をすると、できる子供たちと言っていたクラスの方が能力が上がっていたのです。教えたのは同じ先生なのに、結果は違ってしまうのです。なぜかというと、「できる」と言われた子供に対しては、先生は子供たちに任せるのです。任せるから何でもしていく。「できない」と言われたクラスでは、心配だから手取り足取り細かく教え、「大丈夫か」と訊く。何度も訊かれると、子供たちは「できない」と思うようになるのです。
結局、信頼するかしないかが、人を育てるか育てないかにつながってくるのです。「できる」と思ってあげれば、その人を育てることができるし、「できない」と思えば、育てることができない。これがピグマリオン効果と言われているものです。人ができるかできないかということは、他人の話などで先入観を持ってしまうものですが、自分の目で見て判断することが重要です。
是非、目標を作って、自分のやりたいことを明確にしていただけば、今まで以上にその日その日を充実して過ごすことができると思います。皆さんの今後の活躍を期待しております。

(この講演録は2003年11月27日の「イズミヤ商人塾」における講義をもとに作成しました。)


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