大型小売業の顧客サービスを考える。

小売業は変革の時代を迎えています。経済が右肩上がりの時代には、何もしなくても売上を伸すことはできましたが、今や右肩下がり、人口の増加も見込めず、ここ数年は消費者物価も下降気味、売上が伸びる要因はなく、売上を伸ばすためにはライバル企業から売上を奪ってくるしかありません。正に食うか食われるかの戦いが始まっています。小売業にとって、新たな顧客サービスを創造することは生き残るための最重要課題といえます。
かつて小売業は、顧客に魅力ある新しい商品を提供することが大きな役割でした。顧客もそれで満足していました。しかし、情報化が進み、簡単に商品情報が入るようになると、顧客の商品知識も高度になり、単なる商品提供だけでは満足できなくなりました。そこで、商品そのものを提供するサービスから、買い物そのものを楽しんでもらう新しいサービスに変わり始めたのです。大型のスーパーも、従来の幅広い品揃え・低価格と言ったサービスにとどまらず、顧客満足度を高める独自のサービスを提供し始めています。ここでは、(1)これからの小売業が顧客満足度の高いサービスを提供するためのヒントと(2)アメリカのスーパーマーケットで始まっている健康をキーワードにした新しい顧客サービスについて触れてみたいと思います。

(1)顧客満足度の高い顧客サービスを提供するために
1、顧客を絞り込み、サービスの範囲を限定する。
顧客満足を得るために、すべての人の要望に答えなけらばならないと勘違いしている人が多くいます。顧客の要望に答えるには限度があり、何から何まで要望を聞いていてはきりがありません。顧客満足度の高い企業では、方針やビジョンをもとに提供するサービスを明確にし、顧客を絞り込み、限られた範囲内で徹底したサービスを実施しているのです。よって、あえて提供していないサービスも沢山あるのです。
「一度に多くのサービスを実施するよりも、顧客を絞り、範囲を限定してサービスを実施する」。これが顧客に喜ばれるサービスを提供する秘訣といえます。また、無理をすると、余裕を持って笑顔で対応できなくなり長続きしません。無理をせず、少しずつ顧客サービスの質を高めていくことです。

2、お客様に耳を傾け、お客様の行動に注意を注ぐ。
お客様のニーズは何か?何を望んでおられるのか?現場の担当者だけでなく、幹部もお客様に耳を傾けることです。また、顧客だけでなく、仕入先やパートの方にも耳を傾けることです。私の経験から、意外な方から結構よいヒントを得るものです。
また、顧客の要望は顕在化していないことも多く、聞き出せない場合もあります。そこで、顧客の行動をよく見て、潜在化しているニーズを見つけ出す必要があります。例えば、忙しくて時間に余裕がなく長い動線を好まない人が増えています。特売品も先に購入した方がゆっくりと店内を見て買い物ができると言う人が増えています。そこで、従来は動線を長くするために店内に散らばせていた特売品を、レジ回りに置くなどの対応をしています。
 とにかく、顧客自ら店側に要望を言ったり、お店に置かれたカードに苦情を書くことはあまりないでしょう。そこで、こちらから声をかけて顧客に聞いてみることが必要になります。ディズニーランドのように、定期的にお客様を特別室に招き、お話を聞くのもいいでしょう。

3、上司の従業員への賞賛
 上司は従業員に対し、顧客への対応ができているときには黙っていないで誉めて評価をアピールすることです。また、対応ができていないときは叱るのでなく、何が原因でできていないのかを共に考え、できるようにコーチングすることです。これらの上司の行動が従業員のモチベーションを向上させます。上司に評価され、信頼され、顧客に喜ばれ、従業員は顧客に満足してもらえることを心からうれしいと感じれるようになります。従業員はお客様の感動や共感を創り出す演出家です、新しい顧客サービスを創り出すためには従業員のモチベーションを高めることが重要なのです。

(2)アメリカのスーパーで実施されている健康をキーワードとした顧客サービス事例
スーパーの新しい役割として、顧客とのコミュニケーションを重視したサービスが重要になってきました。品揃え・低価格だけでなく、買い物そのものに付加価値をつけるために健康をキーワードにした顧客サービスを展開しているスーパーが注目をあびています。

 1、全米に180店舗をもつスーパーでは、糖尿病・高血圧症などの患者やその家族を対象に、食品などの選び方を学ぶツアーを実施しています。糖尿病患者は摂取制限が厳しく食品の選別が悩みの種でした。そこで、栄養士と一緒に店内を回り、食品についている表示の見方や材料の選び方などを学ぶサービスを始めました。ちなみに参加料は有料で15ドルです。今後、生活習慣病の予防やアトピーなどのアレルギー患者を対象とした、薬剤師や栄養士による食事の相談やアドバイスのサービスが増えてきそうです。さらには、栄養のみならず、健康の3要素である運動・休養におけるサービスも提供されるでしょう。ちなみに、イズミヤさんでは、すでに栄養士さんを店内に配置し食事のアドバイスを実施されています。

2、全米に216店舗もつスーパーでは、健康意識の高い顧客を対象に、オンラインを使って店内で取扱っている商品の栄養成分情報を提供しています。現在はパンや冷凍食品やベーコンなど朝食に使われる23アイテムだけですが、糖分・脂肪など30種類以上の栄養成分がチェックできます。顧客は、事前に特定の成分の含有量をチェックして、購入するべき商品を決めることができるわけです。

日本のスーパーでもすでに、無料でアルカリイオン水を提供したり、疾病別に「健康&栄養情報パンフレット」を配布するなど、健康をキーワードとしたサービスを展開しています。今後は、健康の提供がスーパーの新しいサービスとなりそうです。毎日訪れる顧客に、骨密度の測定、ストレスチェックなど健康チェックを無料で提供するとこになるでしょう。

2003/8/3


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