needs.jpg (7083 バイト)


顧客の購買行動と売れる商品デザイン

 私が尊敬する人物に、レイモンド・ローウィ(注1)というデザイナーがいます。彼がデザインするパッケージ商品が必ず売れるという伝説を持っており、「デザインの神様」ともいわれています。彼の代表作に、タバコのラッキーストライクやピース、スナックのRITZ、クリネックスティッシュのデザインなどがあります。その中でも、ピースのデザインは有名です。1952年(昭和27年)オリ−ブの葉をくわえた鳩の新しいデザインで発売されると、売上は26億本から一挙に3.6倍の93億本にまで伸ばしました。ちなみにデザイン料は1万ドル(当時で360万円)。では、彼のデザインのどこがすぐれているのでしょうか?また、彼はどのような方法でデザインを決めるのでしょうか?
     1946年〜        1952年〜           
                      

  
1、遠くからでも、近くからでも注意をひくデザイン。
 スーパーには2万点から4万点の商品があるといわれています。一方、顧客が商品の存在を認知するのに0.2秒、その商品にどう対処するか決めるのに0.2秒、計1つの商品を見て対応するには0.4秒必要といわれています。わずか、0.4秒ですが仮に2万点の商品を見ようとすると0.4秒×20000点=8000秒、つまり2時間以上もかかることになります。よって、目立って顧客に注目される商品デザインがいかに重要かお分かり頂けるでしょう。レイモンド・ローウィは、これらのことを考えてデザインしていたのです。
 
2、顧客に選んでもらう。
ローウィは、顧客に好まれるようなデザインをつくるために、実は通常より多くのデザイン画(50種類以上)を描いていました。それを顧客に見てもらい、意見を聞き、選んでもらったのです。彼は、自分の感性に頼るのでなく、むしろ自分を捨て、顧客の立場で考え、顧客の意見を大切にしたのです。なぜなら、一般大衆である顧客が好むデザインと、プロのデザイナーが好むデザインは異なっており、プロが好む高級なデザインは、大衆には受け入れられないことを彼は知っていたのです。プロに評価を受けるが一般の消費者には受け入れられない自己満足のデザインでは、商品は売れないのです。
ローウィは図1のようなグラフで、安っぽいデザインでも、高級なデザインでも売れない、もっとも売れるデザインがその中間にあると説明しています。
それから、もう一つおもしろいのは、彼の評価の方法です。彼は、顧客に好きなデザインを選んでもらったわけでなく、嫌いなデザインを選んでもらったのです。なぜなら、好きは理性でこたえることがあるが、嫌いはほとんどが感性で答えるので、実情に即した正確な解答が得られると考えたからです。彼は、人が理性でなく感性で商品を選択していることを知っていたのです。
      図1
     

商品のデザインにおいて、すべての人に100点をもらうことはほぼ不可能です。そこで、多くの人に好かれる無難なデザイン=80点(一応合格)を目指すか、少数の人に1番といわれる特徴あるデザインを目指すかに分かれます。私は、前者は最寄品のデザインに求められ、後者は専門品のデザインに求められると考えます。
 最寄品に必要なデザインは、消費者に嫌われないように欠点を無くす。1番でなくてもよい。みんなに好かれ、多くの人に合格点をもらう。とにかく気が向いたときにでも一度買ってもらえるようなデザインにする。それに対して、専門品に必要なデザインは、他と差別化し、特徴を出す。1番でなくてはならない。そのため、多くの人に嫌われても、少数の人に最高に気いられるようなデザインです。
 なぜなら、最寄品と専門品で顧客の購買行動が違うからです。最寄品の購買行動は、従来のAIDMA(注2)で説明できます。また、気に入ったものを複数購入することができます。しかし、専門品の場合は、AIDMAにselection (選択)が加わります。すぐに購入商品を決定するのではなく、購入候補商品を選択し、その中から購入商品を1つだけ決定するわけです。専門品では、購入の候補商品になっても、最終段階で選ばれなければ意味はないのです。ここで購入されるためには、顧客にとって1番の商品でなければならないのです。
 不特定多数の顧客のアンケートから生まれる商品は、確かに魅力的で多くの方に指示を得ますが、どの顧客からも1番といわれないのです。顧客を絞り込み、他の誰よりもその顧客に満足して頂くことが重要なのです。これは、パッケージのデザインだけでなく、商品そのものにもいえることです。

(注1)レイモンド・ローウィ
レイモンド・ローウイは、「ラッキーストライク(1942)」や「ピース(1952)」といったタバコのパッケージ・デザインで有名なデザイナーである。1953年には彼の著書「口紅から機関車まで」(学風書院刊)が日本語に訳され刊行されている。ローウィはどうすれば商品が売れるのかを追求し、消費者の立場で消費者の好き嫌いに目を向けたデザイナーである。

(注2)AIDMA 
広告による消費者の購買行動
@、A=attention  (着目、注意)
A、I=interest  (興味、関心)
B、D=desire  (欲望)
C、M=memory   (記憶) 
D、A=action  (行動) 

2003/8/3


メインページへ戻る