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大阪販売士協会 会報紙「大阪販売士」第83号より

売れない時代の感性マーケティング(2)


ニーズ(needs)とウォンツ(wants)

  一般に顧客ニーズ=「広義のニーズ」とは、顧客が求めているものと解釈していますが、この「広義のニーズ」(以降 「顧客ニーズ」という)には、「狭義のニーズ」(以降「ニーズ」という)と「ウォンツ」の二つの意味があります。
「ニーズ」とは、日常生活上において欠けているものを補おうとする欲求です。ニーズを満たす商品(=必需品)がないと日常生活になんらかの支障をきたします。生活を便利にする物理的なものを求めていることが多いようです。ニーズは人間の低いレベルでの欲求、生理的欲求、欠乏欲求ともいえます。
「ウォンツ」は、生活をより豊かにする贅沢品を求めようとする欲求です。ウォンツを満たす商品(=贅沢品)がなくても日常生活上に特に支障をきたすことはありません。生活を豊かな気分にする心理的なものを求めていることが多いようです。人間の高いレベルでの欲求、自己実現欲求、成長欲求ともいえます。
  これは、マズローの欲求の5段階説でいう、低いレベルの欲求がニーズで、高いレベルの欲求がウォンツともいえます。

マズローの欲求の5段階説
  1、自己実現欲求 ウォンツ=高いレベルの欲求 心理的欲求 贅沢品
  2、社会的欲求
  3、所属・愛情欲求
  4、安全の欲求
  5、生理的欲求 狭義のニーズ=低いレベルの欲求 物理的欲求 必需品

  今は、日常生活において必要なものがすべて揃っている時代ですから、顧客ニーズは、便利さを求める「ニーズ」でなく、ほとんどがこころの豊かさを求める「ウォンツ」であるといえます。
  時計を例に説明しますと、時計がないと時間が分からないので、日常生活に支障をきたします。ですから、時間を知るための時計は必需品です。しかし、今は携帯電話にも、ビデオのデッキにも、炊飯器にも時計がついていて、ただ時間を知るだけの時計は、あまり欲しいとは思わないでしょう。
  ロレックスのような高級な時計は、一度は持ってみたい憧れの時計です。持つことで豊かな気分にしてくれます。もちろん、時間を教えてくれますが、やはり贅沢品です。ロレックスのような高級な時計は、欲しいのですがないからといって困るものでもありません。無理に購入する必要はないわけです。
  お客様に商品を買ってもらうためには、この「ニーズ」と「ウォンツ」をしっかり理解し、対応する必要があります。「ニーズ」を満たす必需品には、購入したくなるような特徴を付加すること。「ウォンツ」を満たす贅沢品には、購入する必要性、価値を感じてもらうことです。
  このように商品やサービスは、「ニーズ」と「ウォンツ」の両方を満たすことができれば一番よいわけです。たとえば、先ほどのロレックスの時計ですが、顧客には欲しいという願望はありますが、高価な時計を購入する必要性はありません。そこで、購入を控えるわけです。では、ここで次のような説明をすればどうでしょう。「このロレックスは、高価な時計ですが、この時計は手作りで一つ一つ丁寧につくられており、こどもさんへと親子にわたって何年も使っていただくことができます。また、使い込むほど愛着がわきます。また、いつまでも価値があり、もしかしたらアンティークとしてプレミアがつくかもしれません。長い目でみれば、決して高価な時計ではありません」この説明を聞くと、今まで贅沢と考えていた時計が急に贅沢でなくなり、それだけの価値があると判断し、購入する気持ちになります。

 

潜在ニーズと顕在ニーズ

  顧客ニーズには顧客が気づいている顕在ニーズと顧客が気づいていない潜在ニーズがあります。
  こんな話があります。あるシューズメーカーの担当者が、アフリカのある国に、シューズの市場調査にいきました。その調査の結果分かったことは、その国では、誰もシューズを履いていないということでした。あなたなら、この国で、シューズを売りますか?
  みなさんの答えはどうでしょうか? 市場がないから売らないという方。競合がいないからチャンスだという方。どちらも、間違いではないでしょう。ここで問題になるは、調査の内容です。ここでは、顕在ニーズしか調査していません。大切なのは、顕在ニーズでなく、潜在ニーズです。潜在ニーズがあるのなら、今がチャンスです。これから大きな市場になるかもしれません。しかし、潜在ニーズがないのなら、市場をつくるのはかなり困難なことです。このように、ニーズには、顕在ニーズと潜在ニーズがあり、潜在ニーズを調べことが大切なのです。
  特に、今は昔と違い顧客にも欲しいものが分からない時代です。顧客のはなしをそのまま聞くのでなく、顧客の心の奥を知る必要があります。そして、この潜在ニーズを把握するのに必要なのが感性なのです。

 

潜在ニーズを見つける

  顧客ニーズには、顧客が知っている顕在ニーズと知らない潜在ニーズがあると書きましたが、さらに、顧客ニーズを企業などの商品供給者が知っている場合と知らない場合があります。図で表すと下記のようになります。

  顧客が知っている
(顕在)ニーズ
顧客が知らない
(潜在)ニーズ
企業が知っている 企業と顧客が知っている
                        T
企業がして顧客が知らない
V
企業が知らない                         U
顧客が知って企業が知らない
W
誰も知らない

  Tの領域は、一般的な市場です。Uの領域は、顧客が求めている商品がない市場です。ここで多くの企業が、顧客の顕在ニーズを知ろうと努力してきました。注目したいのは、Vの領域です。ここでは、顧客の気づかない潜在ニーズを企業が知っているのです。私は、ここから大ヒット商品がまれると思っています。顧客が気づかないニーズを企業が知っており、商品にして顧客に提案しています。顧客は商品を見て一度は驚きますが、やがてこれが欲しかった商品であることに気づきます。そしてヒット商品になっていきます。たとえば、ウォークマンなどが代表的な例です。また、セブン・イレブンでは、データ分析から、顧客が気づかないニーズを把握して、商品を店頭に陳列しています。たとえば、春になると、焼きそばが売れるというデータがあると、3月には店頭に焼きそばをおきます。すると、顧客は、焼きそばをみて食べたくなり購入するのです。非常によく売れるそうです。このように、供給側から顧客へ提案することで、顧客の潜在ニーズが顕在ニーズとなり、購入へとつながるのです。まさに、顧客の潜在ニーズを見つけることが、これからの商売の鍵となります。
  では、我々は顧客の潜在ニーズをどのように見つければよいのでしょうか? それは、顧客を恋人のように思うことです。私たちは、好きな人に、自分を好きになってもらおうと、相手のことを一生懸命考えます。プレゼントにしても、何が欲しいのか聞いてプレゼントするより、あなたが一生懸命考えてプレゼントした方が感動を与えます。このように、常に顧客の気持ちを大切にしていれば、おのずと潜在ニーズが見えてくるのではないでしょうか?商いとは「人を喜ばせること」かもしれません。

 

潜在ニーズを顕在ニーズにする

  売れるマーケティングのポイントは、「買う気が起こるように仕掛けること」です。では、買う気が起こるように潜在ニーズを顕在ニーズにするにはどうしたらいいのでしょうか? 人は、商品を見たり、触ったりと五感で感じたり、イメージすることで、顧客の気づいていない「ニーズ」や「ウォンツ」に気づき、買う気になります。
  たとえば、お腹が空いた時、何を食べようか悩むことがあります。今日は、うどんでも食べようかと飲食街を歩いていると、急にカレーの匂いがしてきます。そしたらどうでしょうか?うどんを食べようと思っていたにもかかわらず、急にカレーが食べたくなってきます。このように、人間は五感に刺激を与え、イメージすることで、欲しいモノはより欲しくなり、欲しくないものはより欲しくなくなるのです。蒲焼きの匂いを嗅ぐと急にお腹が空いて、鰻丼が食べたくなる。焼き肉の匂いを嗅げば、急に焼き肉が食べたくなる。これらは、忘れていた潜在ニーズが、匂いを嗅ぐことで顕在ニーズとなるわけです。匂いを嗅がせるのは、一つの感性マーケティングです。
  食品売場の、試食もそうです。食べることによって、味覚が反応します。美味しいと感じれば、欲しくなるわけです。また、試食には顧客の購買行動における心理的障害を取り除く効果もあります。顧客は、はじめてのものを購入する時、必ず不安を感じています。「本当に美味しいのだろうか?」「美味しいのは本当のようだけど、私の口に合うのかしら?」「もし、美味しくなければ、損するは!」 などいろいろと考えています。これらを無意識のレベルで思っている顧客もいます。試食は、これらの購買行動の心理的障害も取り除くのです。まさに試食は、昔から行われている、感性マーケティングです。

  以上のように、感性や五感に訴えることで、忘れていた潜在ニーズが顕在ニーズになり、顧客の購買意欲が高まるのです。これからのマーケティングは、顧客の潜在ニーズが重要となります。いかに顧客の潜在ニーズを見つけ出だし、どのように顧客に商品として提案するのかがポイントです。うまく提案できれば、顧客はあなたの商品を購入してくれます。

2001/1/29


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